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論 考: 南アフリカ、マリカナ鉱山の悲劇から1年

アフリカレポート

No.51

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論 考: 南アフリカ、マリカナ鉱山の悲劇から1年
最新刊 ■ 論 考: 南アフリカ、マリカナ鉱山の悲劇から1年
佐藤 千鶴子
■ 『アフリカレポート』2013年 No.51、pp.79-91
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要 約
2012年8月、ストライキに参加した34人の鉱山労働者が警察の発砲によって死亡した南アフリカ、マリカナ(Marikana)鉱山での悲劇的事件から1年以上が経過した。マリカナ事件は南アフリカ国内外に大きなショックを引き起こし、民主化によって誕生したアフリカ民族会議(African National Congress: ANC)政権が黒人労働者を無慈悲に虐殺した事件として、アパルトヘイト時代の民衆抵抗に対する警察による暴力的弾圧に匹敵するような出来事として語られることになった。

本稿では、マリカナ事件を導いた鉱山労働者のストライキについて事実関係を振り返った上で、なぜこの悲劇が起こったのかを明らかにするためにズマ大統領が設置したマリカナ調査委員会(通称ファラム委員会)による調査の進捗状況について検討する。さらに、同ストライキが山猫ストであったことに注目し、労働者主導のストライキが増加した原因として指摘される鉱業部門の労使交渉をめぐる制度的問題とマリカナ事件が浮き彫りにした南アフリカ社会の課題について考察する。




はじめに
2012年8月、ストライキに参加した34人の鉱山労働者が警察の発砲によって死亡したマリカナ鉱山での悲劇的事件から1年以上が経過した。マリカナ事件は南アフリカ国内外に大きなショックを引き起こし、民主化によって誕生したアフリカ民族会議(African National Congress: ANC)政権が黒人労働者を無慈悲に虐殺した事件として、アパルトヘイト時代の民衆抵抗に対する警察による暴力的弾圧に匹敵するような出来事として語られることになった。事件から1週間後、ズマ大統領は、発砲事件へと至る過程について調査を行うために司法委員会を設置することを発表し、2012年10月1日にはイアン・ファラム(Ian Farlam)退役判事を委員長とするマリカナ調査委員会(通称ファラム委員会)が正式に発足した。

本稿では、マリカナ事件を導いた鉱山労働者のストライキについて、ストに参加した労働者へのインタビューをもとに書かれたAlexander et al.[2012]に主に依拠しつつ当時の事実関係を整理した上で、ファラム委員会による調査の進捗状況と同事件の背後にある鉱業部門の労使交渉をめぐる制度的問題、さらには同事件が浮き彫りにした南アフリカ社会の課題について考えてみたい。


1.マリカナ鉱山におけるストライキの経緯1
南アフリカ北西(North West)州ラステンバーグ(Rustenburg)近郊に位置するマリカナ鉱山の所有者は、ロンドンとジョハネスバーグの証券取引所に上場するロンミン(Lonmin)社である。同社はアングロ・アメリカン・プラチナム(アムプラッツ—Amplats—)社、イムパラ・プラチナム(イムプラッツ—Implats—)社に次ぐ世界第3位のプラチナ生産者となっている。同社のプラチナ鉱山で2012年8月に起こったストライキを最初に主導したのは、地下で岩石を切り出す削岩機(ロックドリル)のオペレーターであった。落石の危険があり、安全快適とはいえない環境で長時間労働を強いられるオペレーターの仕事は、プラチナ鉱山の要をなしている。労働者自身の自己申告によれば、スト以前の月給(手取り額)は住宅手当を含めておよそ4000~5000ランド2であった。鉱山労働者の多くが東ケープ州からの出稼ぎ労働者であったことも知られている[Alexander 2012a, 18; Lekgowa and Alexander 2012, 56-61]。

ロンミンの鉱山労働者の間でストライキの計画が具体的にいつから話し合われていたのかは定かではないが、2012年8月初頭までに、マリカナ鉱山のさまざまなシャフト(坑道)では削岩機のオペレーターが会合を持ち、ロンミン社の経営陣に対して賃上げを要求することが話し合われていた3。その後、各鉱山シャフトの代表者によりインフォーマルな委員会が結成され、同委員会は祝日にあたる8月9日(女性の日)にマリカナ鉱山の全削岩機オペレーターによる総会を招集した。この会合において、マリカナ鉱山の3つの部門(イースタン—Eastern—、ウェスタン—Western—、カレー—Karee—)を代表する労働者の委員会4が選出され、1. ロンミンの経営陣に対する賃金交渉要求、2. 月給1万2500ランドへの賃上げ要求、3. 翌10日に削岩機オペレーターがストライキをすること、が決定された[Alexander 2012a, 10, 21-22]。

8月10日、マリカナ鉱山で削岩機オペレーターがストライキを開始した。スト参加者は経営幹部の事務所に行進し、賃金交渉に応じることを求めたが、ロンミンの経営陣は交渉には応じず、マリカナ鉱山で労働者代表として交渉権を持つ全国鉱山労働者組合(National Union of Mineworkers: NUM)を通じて要求を提出するように言い渡した。この後、スト参加者は、マリカナ鉱山の全職種の労働者に対してストライキの呼びかけを拡大することを決定した[Alexander 2012a, 23]。翌11日、労働者の証言によれば、スト参加者がNUM事務所に行こうとしたとき、15~20人のNUM職員が事務所から出てきて、武器を持たないスト参加者に対して発砲し始めた。2名が逃げ遅れ、うち1名が殺害された5。逃げることができた労働者は、ワンダーコップの丘(Wonderkop Koppie)として知られる場所で座り込みを開始した。この段階でスト参加者はヤリや木刀(スティック)、木杖といった伝統的な武器を集め始めた[Alexander 2012a, 25-27]。

12日、再びNUM事務所へ向かった労働者と、それを止めようとした鉱山の警備員の間で衝突が起こり、警備員2名が車両からひきずり降ろされ、ナタで切り殺された。車両は放火された。夕方には仕事へ向かおうとした労働者1名が殺害され、後に2名の遺体が発見された。マリカナ鉱山で全職種の労働者によるストが開始された翌13日には、スト参加者と警察の間での発砲を伴う衝突により、3名のスト参加者(もしくは2名のスト参加者と近隣住民)と2名の警察官が殺害された[Alexander 2012a, 28-30; Business Report, 16 August 2013, 17]。

14日、装甲車に乗った警察官がスト参加者との交渉を試みた。スト参加者はロンミンの経営幹部との面談を要求したが、ロンミン社は交渉には応じなかった。翌15日、再び警察がスト参加者との交渉を試みたが、ロンミンの経営陣は再び交渉を拒否した。その日遅く、センゼニ・ゾクワナ(Senzeni Zokwana)NUM委員長が装甲車でスト参加者のもとを訪れ、仕事に戻るよう説得を試みたが、経営陣との面談を求めるスト参加者の要求は受け付けなかった。その後、正式な交渉権は持たないものの、マリカナ鉱山の一部の労働者の間で支持を獲得しつつあった鉱山労働者建設組合連合(Association of Mineworkers and Construction Union: AMCU)6のジョセフ・マトゥンジワ(Joseph Mathunjwa)委員長がスト参加者のもとを訪れ、ストに対してシンパシーを感じるものの、彼自身も経営陣との交渉は拒否されたことを伝えた。その後、マリカナ鉱山に駐留する警察官の数が増加し、翌16日にはその数がさらに増えた。午後の早い時間帯にマトゥンジワAMCU委員長が再びスト参加者のもとを訪れ、仕事に戻るよう説得を試みた。労働者の証言によれば、マトゥンジワは労働者が仕事に戻らなければ多くの人々が死ぬ可能性があるとして、ひざまずき、労働者に対して仕事に戻るよう懇願した。だが、この時点で座り込みに参加していたおよそ3000人のなかでこの説得を聞き入れた労働者はわずかだった。この間、警察は労働者を取り囲むように有刺鉄線を張った。マトゥンジワが去った20分後、警察による一斉射撃が始まった[Alexander 2012a, 31-34]。

2012年8月16日に行われた警察の発砲により、マリカナ鉱山では34名の労働者が死亡し、少なくとも78名がケガをした。34名それぞれの死亡状況がすべて明らかになっているわけではないが、ファラム委員会における警察の発表によれば、その多くが2つの場所で撃たれて死亡した。まず、最初の一斉射撃により16名が死亡した。その状況は報道陣やテレビカメラにより目撃され、テレビとインターネットを通じて多くの人が目にすることになった。もうひとつの場所では14名が撃たれて死亡し、後にこの場所で撃たれたさらに4名が病院で死亡した[Ledwaba 2013b, 60-61]7。後に実施された検視の結果、死者のうち14名が後ろから撃たれたことが明らかになった。装甲車にひかれて死亡した労働者もいた。警察はまた、270名のスト参加者を公衆に著しく迷惑をかける暴力的行為(public violence)の罪で逮捕した[Alexander 2012a, 36-40; Alexander 2012b, 175; Business Report, 16 August 2013, 17]。

虐殺後もストライキは続き、9月7日にはマリカナ鉱山で出勤した労働者が全労働者のわずか2%まで減少した[Alexander 2012b, 195]。最終的に、ロンミンの経営陣は労働者との交渉に応じ、9月18日、削岩機のオペレーターに対する22%の賃金上昇8と2000ランドの復職ボーナスを発表した。マリカナ鉱山の労働者はこれを勝利とみなしたという[Alexander 2012a, 41]。


2.マリカナ調査委員会(ファラム委員会)
マリカナ鉱山での警察によるスト参加者に対する発砲によって34名の死者が出たことは、国内外で大きなショックを引き起こし、警察の行為に対する非難が沸き起こった。しかも、警察の作戦は、いくつかのテレビカメラの前で行われたため、多くの人がテレビやインターネットを通じて、悲劇(虐殺)の詳細の断片を映像で目の当たりにすることになった。ズマ大統領は、マリカナ事件から1週間後の8月23日、この悲劇がなぜ、どのようにして起こったのか、なぜ多数の死者が出たのかについて原因を調査するため、ファラム元判事を委員長とする司法委員会を設置することを発表し[Business Report, 16 August 2013, 17]、10月1日、マリカナ調査委員会(ファラム委員会)が正式に発足した。

ファラム委員会は、ロンミン社、南アフリカ警察局、労組(AMCU、NUM)、政府(特に鉱山資源省、労働省)を調査対象として特定し、ヒアリングや現場検証を行ってきたが9、さまざまな理由で幾度も中断を余儀なくされ、当初の任期(4カ月)内に調査を終えることはできなかった。委員会の任期は2度延長され、2013年10月末という現在の期限も再延長される見込みである。委員会の暫定報告書が提出される見通しはたっておらず、委員会が発足してから丸1年が経過した現在でも、悲劇(虐殺)の真相はなぞにつつまれたままである[Njanji 2013]。

委員会の調査が進まない理由のひとつは、複数の証人が殺害されるなど、調査に対する明らかな妨害が存在することである。委員会が発足して間もない2012年10月6日には証人として出席する予定だったマリカナ鉱山ウェスタン部門のNUM支部書記長が殺害され、その数日後には支部長が殺害された[Business Report, 16 August 2013, 17]。2013年3月には証人として出席するはずだった呪術師(サンゴマ)が東ケープ(Eastern Cape)州の自宅で殺害された。このサンゴマは、スト参加者を無敵にする儀式のための薬(ムティ—muthi—)を提供した人物とみなされていた[Ginindza 2013]。翌4月には、委員会で鉱山労働者側の法定代理人を務めるダリ・ムポフ(Dali Mpofu)弁護士が東ケープ州のイーストロンドン(East London)で休暇中に何者かに襲われ、ケガを負った[Prince 2013]。

第二の理由は、委員会の調査に対して警察が非協力的なことである。虐殺の当日、警察がヘリコプターで撮影していた映像は、紛失したか、あるいは消去されたため、証拠として委員会に提出されることはなかった。また、委員会の証言台にたった複数の警察側の証人は、当時の状況について記憶が定かではないといった証言を繰り返した[Nash 2013; Nhlabathi 2013]。2013年9月半ばには、マリカナ事件に関する証拠文書の提出を意図的に拒み、事件の後に作成された文書を事件時に書かれたかのように詐称したとして、警察が事件について「真実を語っていない」とする声明をファラム委員会が発表するに至った[van Schie 2013; Sapa 2013e]。

マリカナ事件翌日の記者会見において、警察は実弾の使用を3つの観点——1. 公共の安全に対する脅威であった非合法の集会を終焉させるための行動、2. 行為の意図は抗議者を小集団に分散させ、武装解除をしやすくすること、3. 銃撃は自己防衛のため——から正当化した[Alexander 2012b, 173]。だが、抗議者を分散させるための方策としてゴム弾や催涙ガス、放水銃ではなく、なぜ実弾が用いられたのかを問う人は多い[Alexander 2012b, 174]。2013年3~6月にファラム委員会で証言台にたったリア・ピエガ(Riah Phiyega)警察局長官は、銃撃が警察の自己防衛のために行われたという主張を変えなかった[The New Age, 2 April 2013, 3; Mabuza 2013]。

テレビカメラが捉えた虐殺の映像を見る限り10、伝統的な武器を持ったスト参加者に直面した現場の警察官が過剰反応をした可能性は否定できない。けれどもその一方で、8月16日の作戦に参加した警察官の誰ひとりとして逮捕されたり、当日の行為について責任を問われたりしてはいないことも事実である。この点に関してピエガ長官は、どの警察官が具体的にどの労働者を撃ったのかを特定することはできない、と委員会で述べている[Sapa 2013a]。さらに、逮捕された200人以上の鉱山労働者が警察から暴行や拷問を受けたと述べたことに対して、警察の独立調査部門が194件の申し立てを調査していることになっているものの、こちらの調査状況についても何も明らかにはされていない[Leon 2013]。

鉱山労働者側の法定代理人は、実弾を装備したマシンガンを携帯した多数の警察官を配備・投入してストを打ち砕こうとしたことについて、公安管理以上の政治的意図や介入があったのではないかとの仮説をたて、委員会において証明を試みてきたが、ピエガ長官はこの点についても否定した[Sapa 2013b]。しかしながら、上からの政治的介入があったと信じる人は多い。たとえば、マンデラ政権のもとで防衛副大臣を務め、第二期ムベキ政権のもとでは情報機関大臣を務めたロニー・カスリル(Ronnie Kasrils)は、次のように述べている。
〔マリカナ事件〕が民主的な南アフリカで起こったことについて世界中が信じがたい思いでいる。自動小銃で武装し、装甲車や騎馬警官、ヘリコプターで補強されたほぼ500人の警察官を展開するという命令が与えられた。彼らは、ストライキ中の3000の鉱山労働者が陣取っていた荒涼とした丘へと進んでいった。これは、わが国で「文化的」(“cultural”)武器としばしば言及される木刀やヤリで武装した、必死のスト参加者からなる孤立した頑固な集団を掃討するために、危険で疑わしい作戦を実行するという決意を持った上からの命令を示すものである[Kasrils 2012]。

また、Alexander[2012b, 175-176]は、ピエガ長官に加えて、ナティ・ムテトワ(Nathi Mthethwa)警察大臣がこの作戦を承認していたはずだと述べ、ファラム委員会が明らかにしなければならないのはズマ大統領が意思決定に関与していたかどうかであると主張する。虐殺から数日後、議会において野党人民会議(Congress of the People: COPE)のモシウオア・レコタ(Mosiuoa Lekota)党首が、規則に反してマリカナで警察が実弾を使用することを命じたのは誰か、という質問をしたのに対して、なんら回答が与えられていないことを問題視する識者もいる[Bell 2013c]。さらにNash[2013]は、警察の行為を正当化するために、ANCやANCと同盟関係にある南アフリカ共産党(South African Communist Party: SACP)の政治家が、マリカナ鉱山のスト参加者について、「危険な狂信者」あるいは「論理を理解しない野蛮人」である、というような意味のことを繰り返し述べてきたと指摘している。

2012年8月16日のマリカナ鉱山での警察の行動に、かりに政治的介入があったとするならば、暴力的な介入を肯定した政府の意図とは何だったのだろうか。これまで示唆されてきたのは、南アフリカ経済の基幹をなす鉱山会社や鉱業部門における投資家の利益を守るためということである。ムポフ弁護士は、ロンミンの株式の9.1%を所有し、当時は同社の理事を務めていた大富豪シリル・ラマポーサ(Cyril Ramaphosa)が、スト参加者に対して断固とした処置を取るよう求める一連の電子メールをムテトワ警察大臣やスーザン・シャバング(Susan Shabangu)鉱物資源大臣に送っていたことを委員会で明らかにした[Alexander 2012b, 183; Sapa 2013b]。ラマポーサは、かつてNUM書記長を務めた労組の活動家であったが、民主化後に黒人大富豪となり、2012年12月にマンガウン(Mangaung)で行われた党大会でANCの副代表に選出された。虐殺の前日に送った電子メールのなかで、マリカナのスト参加者の行動を「明らかに卑劣な犯罪」と呼んだことも明らかにされている[Nash 2013; Sapa 2013b]。

マリカナ事件から1年が経過した2013年8月末、ファラム委員会は新たな問題に直面し、調査の遂行に更なる遅延が発生するとともに、委員会の公平性が問われる事態となった。事の発端は7月半ば、鉱山労働者の法定代理人が資金不足を理由に委員会から撤退したことにある[Business Report, 16 August 2013, 17]。警察と政府の弁護人には税金が使われる一方で、鉱山労働者の弁護人の費用は民間の資金によって賄われてきたが、委員会の任期が長引くなかで、費用が枯渇してしまったのである。鉱山労働者の法定代理人は、国家に対して弁護費用の負担を求める申請を裁判所に提出したが、8月19日、憲法裁判所はこの申請を却下した11。ムポフ弁護士は高等裁判所に対して改めて国庫による費用負担の申請を行い、この問題が解決されるまで委員会を欠席した12[Sapa 2013d]。

ファラム委員会がさまざまな困難に直面し、その有効性や公正性が問われるなかで、死亡した34人の鉱山労働者の遺族が置かれている状況は忘れられがちである。だが、マリカナ事件から1周年を機に南アフリカの週刊新聞『メール・アンド・ガーディアン』(Mail and Guardian)が遺族の状況に焦点をあてた特集を組んだ。同特集によれば、遺族に対しては、葬式費用の一部負担や食料の配給などが不十分ながらも政府から行われたようである。就業年数が長かった場合には積立基金からの一時金が重要な生活資金となった。また、ロンミン社は遺児の教育費を負担している。とはいえ、稼ぎ手を失った遺族の将来に対する不安は大きく、多くの遺族が、亡くなった夫や息子の代わりの労働者をロンミンが家族から雇用することに対して大きな期待を寄せている。労働者が死亡した場合に、その職を遺族が引き継ぐということは南アフリカの鉱山で慣例として行われてきたようであり、ロンミン社は遺族に対して、ファラム委員会が調査を終えた後にこの慣例を踏襲することを約束したという。遺族は、夫や子供がなぜ、どのようにして亡くなったのかについての真実を知ることで気持ちに整理をつけるという意味からも、経済的な面からも、ファラム委員会が調査を速やかに終えることを願っているのである[Tolsi and Botes 2013]。


3.鉱業部門における山猫ストライキと集団交渉体制
マリカナ事件について語る際には、1. なぜ死者が出なければならなかったのか、という問題と、2. なぜ労働者がストライキを行い、そのストは暴力を伴っていたのか、という問題は区別する必要がある、とするMontalto[2013]の指摘は正しいと私は思う。ストライキがさまざまな産業・職種において毎年のように起こる南アフリカでは、鉱山を含めて労働者がストライキをし、それが数週間にわたることもそれほど珍しいことではない。だが、2012年8月に起こったマリカナ鉱山のストライキでは、スト発生からわずか1週間後に警察がスト参加者に対して一斉射撃を行い、多数の死傷者を出すという大惨事となってしまった。なぜこれほど多数の死傷者が出なければならなかったのか。警察の状況判断や作戦の内容と実行に問題はなかったのかどうかを調査するのがファラム委員会の役割であり、上記のように、委員会はこの仕事がきわめて困難なものであることを証明しつつある。

他方、もうひとつの問題、ストライキの動機と暴力性については、マリカナ鉱山のストライキが、労組ではなく、労働者主導の山猫ストとして起こったことに考えをめぐらせる必要がある。マリカナ事件が起こった当初には、ストライキが暴力性を帯びたことについて、NUMとAMCUという2つの労組間のライバル争いに着目し、比較的新しい労組であるAMCUに暴力の責任を帰する報道が多かった。だが、その後の報道や識者の見解は、鉱業部門の最大労組であり、ANC政権と同盟を組む南アフリカ労働組合会議(Congress of South African Trade Unions: COSATU)のなかでも一大勢力となっているNUMが、組合員である一般労働者を取り巻く社会状況から乖離し、組合員の要求を代弁できなくなったことを問題として指摘している。結果として、労働者が自ら代表を選出し、委員会を結成して交渉権を求める道を選択することになった。マリカナ事件の後、AMCUがプラチナ鉱山において支持を獲得し、組合員を増やしたのは事実であるが、AMCUの成長は鉱山におけるトラブルの原因ではなく結果であった[Alexander 2012a, 20; 2012b, 171, 181, 186; Lekgowa et al. 2012, 96; Montalto 2013; Bell 2013c]。

ではなぜ、NUMは一般組合員から乖離してしまったのか。南アフリカの新聞において定期的に労働問題に関するコラムを執筆しているテリー・ベル(Terry Bell)は、労働者のリーダーが大企業の幹部に転身した古典的な例としてNUMについて次のように述べている。
NUM元書記長のラマポーサ、元副書記長のマルセル・ゴールディン(Marcel Golding)、かつて組合の交渉担当だったイレーヌ・チャーンレイ(Irene Charnley)は、現在では大富豪である。NUM元委員長のジェームズ・モトラツィ(James Motlatsi)は、労組のボスからアングロゴールド・アシャンティ(AngloGold Ashanti)社の〔元副〕理事長へ難なく転身した。NUM書記長のフランス・バレニ(Frans Baleni)が昨年、4万ランドに及ぶ108%の〔組合職員としての〕基本給アップを受け入れ、月給が7万7000ランドになったことは〔一般労働者の〕不満を増加させた。けれども、鉱業部門においては、労組の専従職員の間でのキャリア主義の例には枚挙に暇がない。専従職員は特権を得て、一般の労働者から乖離していく。経営陣の人材部門の長になったものも多い[Bell 2013c]。

結果、労働者の代弁者であったはずのNUMは、「少数の人々にとっての富と特権への単なる踏み台」になってしまったとBell[2013c]は断罪する。マリカナ鉱山でのストライキの最中にも、スト参加者の多くがNUMの組合員であったにもかかわらず[Bell 2013a]、NUMはスト参加者と話し合ったり、労働者の代表として経営陣との交渉に臨んだりすることはなかった。逆に2012年8月13日にはバレニNUM書記長が「特別部隊か軍隊」を派遣して迅速にストを終焉させるよう求めたとされる[Alexander 2012b, 178-179]。NUMはスト参加者を鎮圧する側についたのである。さらに、NUMがANCと同盟関係にあるCOSATUの一員であるがゆえ、ANCの政治家はAMCUに関して偏見に満ちた発言をする傾向があることも識者は指摘している[Bell 2013a; Nash 2013]。

また、マリカナ事件の後、ほかの鉱山にも山猫ストが広がったことは、鉱業部門における賃金決定のメカニズムとなっている労働組合と経営陣による賃金に関する集団交渉システムの有効性に疑問符がつけられた、とも考えられる[Montalto 2013]。

鉱業部門においては、金と石炭については産業レベルの交渉評議会が存在するものの、プラチナに関しては企業レベルで賃金交渉が行われてきた。1995年の労働関係法(Labour Relations Act, No.66 of 1995)第18条により、特定カテゴリーの労働者の50%以上が支持した組合は、そのカテゴリーの全労働者を代表することができる。「多数派主義」として知られるこの慣行は、小規模な組合にとって障壁となっており、鉱業部門においてNUMが最大の労組として君臨することを許してきた[Bell 2013a]。だがマリカナ事件後、プラチナ鉱山ではAMCUが急速に支持を拡大し、12万の組合員を抱える最大の労組となった[Leon 2013; Bell 2013a]。ロンミンのマリカナ鉱山においても、AMCUは非熟練労働者の70%にあたる労働者を組合員として擁するようになった。その結果、マリカナ事件から1周年を迎える直前の2013年8月13日、ロンミンはAMCUと認定合意に調印し、AMCUが正式にマリカナ鉱山における労働者代表として交渉権を獲得した[Faku 2013]。

マリカナ鉱山では、企業レベルの集団交渉体制は変えないまま、AMCUがNUMに取って代わる形で、集団賃金交渉にあたることになった。だが、AMCUがNUMと同じ轍を踏まないとは言い切れない。労働者の多様化が進みつつあるなかで、AMCUがどれだけ組合員を掌握できるかは不確実な状況にあるとし、労働の現場から生まれ、労組に組織化されない労働者主導のストライキが今後も増加し、それが暴力性を帯びたものとなる可能性は否定できないとの警鐘を鳴らす声[Montalto 2013]は無視できない。というのも、マリカナ鉱山周辺に住む労働者やコミュニティの住環境や失業率の高さ、出稼ぎ労働制度により2つの家庭を支えることに伴う負担、借金返済のための強制的な差し押さえ問題など[Bench Marks Foundation 2012; Steyn 2012]、マリカナ事件直後にストライキの背景として指摘された鉱山労働者の劣悪な社会環境には今日でも何ら変化は見られないからである[Bench Marks Foundation 2013]。


おわりに
マリカナ鉱山の悲劇(虐殺)から1年以上が経過したが、この事件がなぜ起こったのかを解明するために設立されたファラム委員会の調査がさまざまな問題に直面し、遅々として進んでいないこともあり、結局のところ、マリカナ事件とは何だったのか、われわれはマリカナからどのような教訓を学ぶ必要があるのかについて、南アフリカ社会のなかではいまだにはっきりとしたコンセンサスは存在しないように思われる。

だが、ひとつだけ明らかになりつつあるのは、マリカナ事件の後、複数の鉱山やトラック運転手、農場労働者などにストライキが拡散するとともに、安全な水や水洗トイレ、住宅などのサービス提供の不足に対する抗議行動も増加しつつあることである。労働省が2013年9月半ばに発表した『2012年争議行為年次報告書』によれば、同年に記録されたストライキは過去5年間で最多の99件、そのうち45件が法律によって保護されない山猫ストであった[Department of Labour 2013, 9; Sapa 2013f; Pressly 2013]13。さらに、2013年のストライキによる労働日の喪失は2012年を超える見通しであるとの予測すら行われている[Khuzwayo, Faku and Sapa 2013]。民主化後の政治体制のなかで、与党ANCの政治家やその親族、友人などの一部の黒人が「黒人の経済力強化」(Black Economic Empowerment: BEE)政策や公共事業の入札を通じて豊かになる一方で、民主化後も経済的な生活の向上を実感できない人々による現状への絶望感と政府に対する批判が抗議行動や争議の原動力となっているのである。そのうえ、民主化後、フォーマルセクターの労働者の実質賃金中央値にほぼ変化がない一方で、食料や燃料のインフレ率は消費者物価指数(CPI)よりもはるかに高いため、労働者の生活が事実上大幅に圧迫されてきたことも指摘されている[Crotty 2013]。

ANC政権への失望感が2014年に予定されている国政および州政府選挙の結果にどの程度、どのような形で反映されるのかは不確定である。だが、マリカナの鉱山労働者を含め、貧困層と若者の間で急速に支持を広げつつあるのが、ANC青年同盟元議長ジュリアス・マレマ(Julius Malema)が2013年7月に結成した新政党、経済自由戦士(Economic Freedom Fighters: EFF)である。マレマは、マリカナの虐殺事件直後に、マリカナ鉱山の労働者に対する支持を表明し、スト参加者の間で大歓迎を受けたが[Alexander 2012b, 193]、8月16日にマリカナ鉱山で行われた虐殺1周年追悼集会においても熱狂的に受け入れられた[Malatji 2013; Sapa 2013c]。さらに9月半ば、複数の野党や団体がファラム委員会における鉱山労働者の弁護費用を国家が負担することを求めてプレトリアで行ったデモ行進においても、マレマ率いるEFFがメディアの関心をひきつけた[Monama 2013]。マレマは、ANC内部のズマ大統領派と衝突し、最終的にANCから除名処分を受けた後、脱税と資金洗浄の罪で起訴され、資産の差し押さえ処分を受けるなど、個人としてはさまざまな問題を抱えている。だが、2014年の選挙に出馬する意図はすでに発表しており、EFFは、鉱山の国有化や賠償金なしでの土地改革などのラディカルな政策を掲げて、特に若年層の間で急速に支持を拡大しつつある。若者の間での失業率が50%を超える状況において、ANCが持つ解放闘争の栄光を共有しない若い世代がEFFの主たる支持基盤であるとされるが、民主化後、人種間のみならず、黒人内部の経済格差が拡大するなかで、マレマとEFFの主張がANC政権に失望しつつある多くの人々に共感を持って受けいれられる可能性は否定できない。それゆえ民主化後20周年を迎える2014年の総選挙は、この20年間のANCによる政権運営の是非を問うものとなるだろう。

〔追記〕
本論脱稿後の2013年10月14日、ジョハネスバーグ高等裁判所は「法律扶助南アフリカ」(Legal Aid South Africa)に対してマリカナ鉱山労働者の弁護費用を負担することを命じる判決を下した[Nbada 2013]。これを受け、翌15日にはムポフ弁護士らがファラム委員会に復帰した。


参考文献・資料
  • Alexander, Peter 2012a. “The Massacre: A Narrative Account Based on Workers’ Testimonies.” In Marikana: A View from the Mountain and a Case to Answer. Alexander et al., Auckland Park: Jacana, pp.15-42.
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(さとう・ちづこ/アジア経済研究所)


脚 注

  1. 本節での記述は主としてAlexander et al.[2012]に依拠している。同書のほかにマリカナ事件に焦点を当てた著作としてDlangamandla et al.[2013]がある。Alexander et al.[2012] による事実経過の説明が主なインフォーマントであるスト参加者寄りの見解となっているのに対し、虐殺事件に至る過程をマリカナ鉱山で取材した記者による説明(Dlangamandla et al. 2013に収められたLedwaba 2013a)は、情報源となった警察、ロンミン社、労組(特に、当時、マリカナ鉱山で労働者代表として正式な交渉権を持っていた全国鉱山労働者組合—National Union of Mineworkers: NUM—)の見解を反映したものとなっている。2つの説明の際立った相違点として2点指摘できる。第一に、前者がNUMに対する労働者の不満・失望がストライキの原動力となったと主張するのに対し、後者はNUMと新興労組である鉱山労働者建設組合連合(Association of Mineworkers and Construction Union: AMCU)のライバル関係を前提にストが起こったとしている。第二に、前者がスト参加者を、劣悪な労働条件と低賃金の改善を求めて行動を起こしたごく普通の労働者として描いているのに対し、後者はスト参加者について、反NUMの歌を合唱しながら伝統的な武器をたたき合わせて行進する、攻撃的で暴力的な人々であるかのように描いている。本文で述べるように、警備員や警察官、非スト参加者の殺害にスト参加者が関与していたことはおそらく事実であり、Alexander[2012a]の叙述もストライキに暴力が不在であったとは主張していない。それでもこの2冊を読み比べて印象的なのは、Dlangamandla et al.[2013]に収められた論考の多くにおいてスト参加者の暴力性がしばしば強調されていることである。Alexander et al.[2012]の執筆動機のひとつが、マリカナ事件の報道においてはスト参加者自身の声がほぼ無視されているということにあり、筆者自身もスト参加者から見た事件の経緯を再構成することには重要な意義があると考えるため、本節の記述は主にAlexander et al.[2012]に依拠した。
  2. 2012年8月10日時点での為替レートは1ランド=約9.7円。削岩機オペレーターを含む鉱山労働者がストライキ以前に実際にどれだけの月給を得ていたのかは議論の的となっている。ロンミン社によれば、スト以前の削岩機オペレーターの平均月給(控除前の総支給額)は9813ランドであり、そこから年金や健康保険控除などを差し引いた基本給と住宅手当の合計額は7250ランドであった。この金額からさらに税金や労働組合費などが控除されたとしても、労働者の自己申告手取り額との間には差がある。この差を説明する要因のひとつとして、雇用主が給与から一定額を強制的に控除して労働者の借金の返済に充てる「差し押さえ命令」(garnishee order)制度の存在が指摘されている。同制度は南アフリカで一般的に利用されているが、とりわけ鉱業部門において頻繁に活用されているという[Alexander 2012a, 201 endnote chap.2 no.15]。
  3. 2012年初頭には、マリカナ近くのラステンバーグにあるイムプラッツ社所有プラチナ鉱山で削岩機のオペレーターが6週間にわたり賃上げを求めてストライキを行った[Business Report, 16 August 2013, 17]。イムプラッツとNUMの間で賃金改定に関する合意が存在していたにもかかわらず、イムプラッツはストを終焉させるため削岩機オペレーターの賃上げに合意した。同ストライキは、労組と経営陣による集団交渉制度の外部で、労組を介さずに行われた労働者のストが実質的な成果を挙げた前例となったのである。それゆえ、このストライキがマリカナ鉱山における削岩機オペレーターの行動を触発したと考えてもおかしくはない。なお、そもそもイムプラッツで削岩機オペレーターがストを起こした背景としては、全職種に対して等しい割合での賃上げを要求するNUMの交渉姿勢に対する不満が指摘されている[Hartford 2013, 161-163]。
  4. 労働者委員会メンバーに選出されたのは、出身コミュニティでの活動、職場でのいざこざの調停、労働者が死亡した場合に家族に連絡し遺体の送迎を手配する、サッカーの試合を組織するなどの生活や余暇の面で指導力を発揮した経験を持つ人々であったという[Alexander 2012a, 10-11]。
  5. この発砲事件の経緯で死者が出たことについて、複数の労働者が証言に絶対的な自信を持っているものの、実際には遺体が発見されてはいないことをアレクサンダーは注で付記している[Alexander 2012a, 201 endnote chap.2 no.25]。Ledwaba[2013a, 16]によれば、2名が負傷したが死者は出なかった。警察は殺人未遂事件として捜査を開始したが、容疑者は逮捕されておらず、ファラム委員会で証言したNUM職員も誰が発砲したのかはわからない、としている。
  6. AMCUは、1999年にムプマランガ(Mpumalanga)州のファンダイクス・ドリフト(Van Dyke’s Drift)鉱山においてマトゥンジワにより結成され、2001年に労組登録を行った。AMCUがマリカナ鉱山で支持を集め始めたのは2011年後半に過ぎず、2012年8月にストライキが起こった時点では、マリカナ鉱山の3つの部門のなかでAMCUが多数の支持を得ていたのはカレーのみであった[Alexander 2012a, 20; Lekgowa and Alexander 2012, 43-56]。
  7. 後に述べるように、ファラム委員会に警察が提出した証拠の真偽が問われている今、マリカナ事件を取り巻く事実関係の真相を知ることはますます困難になっている。特に第二の場所で行われた警察の行為については報道陣やカメラによる目撃談や証拠映像が存在しないため、真相を知るのはさらに難しい。たとえば警察は、ピストルを含む「武器を持った抗議者」に対して発砲したと説明したが、少なくともひとりの警察官は、無抵抗の負傷者1名に対する発砲・殺害が別の警察官により行われたことを証言した。だが、証言した警察官は、この行為を行った警察官は旧知ではなく、特定することはできないとした。ほかにも、昼間に撮影された写真では遺体の横に存在しなかったヤリやナタなどが、日没後に撮影された写真には写っている、といったことも委員会で明らかにされた[Ledwaba 2013b, 62-63]。
  8. これにより、労働者の月給(控除前の総支給額)は、最低9611ランドから最高1万3022ランドとなった[Ledwaba 2013b, 70]。
  9. マリカナ調査委員会ウェブサイト(http://www.marikanacomm.org.za/index.html)、2013年11月11日アクセス。
  10. テレビカメラが捉えた虐殺の映像はユーチューブなどで見ることができる。たとえば、http://www.youtube.com/watch?v=Mt11f7p13f0(2013年8月25日アクセス)。
  11. 憲法裁判所のモゴエン・モゴエン(Mogoeng Mogoeng)長官によれば、公正な裁判が行われるために国家が弁護士費用を負担するケースとして、憲法の人権条項は1. 子供、2. 抑留者、3. すべての被告人と規定している。ファラム委員会の鉱山労働者は、これらのケースには当てはまらないという[Sapa 2013d]。
  12. ムポフ弁護士率いる弁護団がファラム委員会から一時的に撤退したことに対しては賛否両論がある。『ケープタイムズ』(Cape Times)紙には、マリカナ鉱山労働者の弁護費用を国家が負担することを求め、43名の研究者と活動家が署名した意見書[Cape Times, 22 August 2013]が掲載される一方で、反アパルトヘイト運動や治療行動キャンペーンの訴訟を担った弁護団と比べるとムポフ弁護士ははるかに高額の報酬を得ているとして、マリカナ鉱山労働者の弁護をすることは名誉なことであり、使命感を持って取り組まれるべきである、との意見書[Geffen 2013; Lewis 2013]も同紙に投稿された。
  13. ちなみに過去5年間のストライキは57件(2008年)、51件(2009年)、74件(2010年)、67件(2011年)であった。99件(2012年)という数字がいかに前年から大きく増加したものであったかがわかる。