ライブラリアン・コラム

「アジア情報研修」後記

村田 遼平

2024年2月

4年ぶりの対面開催@アジ研

2023年12月7日-8日、国立国会図書館とアジア経済研究所(以下、アジ研)が共催するアジア情報研修が、アジ研において行われた1。本研修は、2002年度に国立国会図書館関西館アジア情報室によって初めて開催された、「アジア情報の収集・提供に関するスキル向上を図るとともに、アジア情報関係機関間の連携を深めることを目的とした2」研修である。2015年度よりアジ研も共催となり、国立国会図書館関西館とアジ研を交互に会場として、対象国・地域とテーマを設定し講義と演習が行われてきた。2020、2021年度はオンラインで開催されたため、アジ研での対面開催は2019年度以来実に4年ぶりであった。本コラムでは、筆者がアジ研側講師を務めた今年度のアジア情報研修の感想とともに、研修内容がレファレンスに活きた事例について記したい。

今回は中国を対象に「変化する中国を調べる~ビジネス情報と人口統計~」をテーマとして、国立国会図書館側がビジネス情報を、アジ研側が人口統計を取り上げた。近年のアジア情報研修では、国会図書館が法令・制度、アジ研は統計を担当することが多かった。しかし、担当者間で検討した結果、前回中国を取り上げたアジア情報研修(2019年)からこうした情報を入手するための新規ツールが多く出たわけではないことから、今回はこれまでとはやや異なる角度からテーマを設定してみることにした。そのためだろうか、参加者には、図書館に勤務されている方はもとより、従来そこまで多くはなかった企業等にお勤めの方もいらっしゃり、両者の比率は概ね1:1であった。

研修の開催報告は国立国会図書館の『アジア情報室通報』に掲載される予定のため、ここでは個人的な感想を述べたい。中国国外からインターネット上で中国に関する情報を得ることに対する障壁が以前よりも高くなっていることを実感した。もっとも大きな影響としては、ご存じの方も多いように、2023年3月頃から中国学術情報データベース(China National Knowledge Infrastructure:CNKI)の一部コンテンツについて中国国外からのアクセスが制限されていることがある3。本研修においては、もともとCNKI上にあった各種統計年鑑等の検索が可能なデータベースである「中国経済社会ビッグデータ研究プラットフォーム」(中国经济社会大数据研究平台)を紹介、利用しようと考えていたものの、ちょうど研修内容の検討を始めた頃にアクセスできない状態となってしまった。したがって講師を担当する身としては、参加者にとっても有用なデータベースを紹介できなくなってしまい、講義内容を考える際に頭を悩ますことになった。

また、2021年度よりアジ研で働いている筆者にとって、初のアジア情報研修であった。研修を受講したことはなく、対面開催が復活した昨年度は国立国会図書館関西館が会場だったため、この研修がどのような雰囲気で行われているのか過去に講師を務めた同僚から体験談を聞きつつも、今一つつかみきれないなかで準備を進めることに苦労した。

苦労は多かったものの、中国の人口センサスにじっくりと目を通したり、いろいろと調べたりするなかで新たに知ることは楽しく、また研修当日にいただいた反応やご質問は自身の視野の狭さを顧みるよい機会でもあった。本研修にご参加くださった方々および開催に尽力いただいた関係者の方々に対して、この場を借りて改めて感謝申し上げる。

人口センサスの重要性

さて、アジア情報研修の後日談として、とあるレファレンスについて記しておきたい。

研修後のある日、『中国人口和就業統計年鑑』に関するレファレンスを他の中華圏担当者が受けた。質問の内容は、『中国人口和就業統計年鑑』の特定項目について十数年分にわたる掲載有無に関するものであった。『中国人口和就業統計年鑑』は、中国の人口や就業者に関するデータが掲載される、毎年刊行の統計資料である。

『中国人口和就業統計年鑑』が排架されるアジ研図書館の書架

『中国人口和就業統計年鑑』が排架されるアジ研図書館の書架

うれしいことに、この質問への回答において今回の研修内容が活きたとの声をもらった。というのも、『中国人口和就業統計年鑑』の2010年版と2011年版で掲載される項目が異なっており同一項目の通時的なデータが得られないが、これは0のつく年に行われる人口センサスの結果が2011年版に反映・掲載されるため、と気づくことができたとの話である。正直なところ、研修からあまり日が経たないうちに、今回の研修内容がレファレンス対応に活きるとは予想していなかった。

この話を聞き同資料を改めて確認してみると、人口センサス実施翌年の刊行分については、人口センサスの結果が掲載され4、掲載内容もサンプル調査実施年のものとは一部異なっていた。加えて、「第1部分 総合データ」(第一部分 综合数据)内の各項目において、もともと推計値が掲載されていた年についても、人口センサス実施後は、センサス結果に基づいて数値が修正されている場合があった。研修において『中国統計年鑑』の人口に関する数値については、通常、毎年実施されるサンプル調査に基づく推計値が掲載されているものの、人口センサス実施後に遡及して修正される場合があると説明した。『中国人口和就業統計年鑑』においても、どうやら『中国統計年鑑』と同様の状況にあると言えそうである。

すべての項目や数値について確認したわけではないが、『中国人口和就業統計年鑑』の人口に関する統計データについて、直近2回の人口センサス実施年前後を対象にすると、概ね下の表のようにまとめられそうである。

表 『中国人口和就業統計年鑑』掲載の「総合データ」(综合数据)

表 『中国人口和就業統計年鑑』掲載の「総合データ」(综合数据)

(出所)筆者作成

とはいえ、センサス結果に基づく過去推計値の修正がすべての項目に及んでいるわけでもないようにも見受けられ、はっきりとわかりやすく示すことは難しい。それでもやはり、中国の人口に関する統計データを参照する際には、人口センサスに注意しなければならないことが再確認された。特に、センサス実施年の前後に刊行された出版物を参照する際には、注記の確認や前後の数値の比較を行うことが重要となるだろう。また、センサス実施年の人口関連のデータを調べる際はもとより、センサス実施年以前の統計データを取り扱う際も同様に注意が必要そうである。

なんとも煮え切らない書きぶりであるが、レファレンスに対する調査や回答において、統計データや語句の定義、典拠となる統計調査は何かなど、至極当然なことがやはり重要であることを、よくよく痛感したのであった。

写真の出典
  • 筆者撮影
参考文献
  • 国家統計局人口和就業統計司編『中国人口和就業統計年鑑』(北京:中国統計出版社)の2010、2011、2020、2021各年版。
著者プロフィール

村田遼平(むらたりょうへい) アジア経済研究所学術情報センター図書館情報課。担当は中華圏。

  1. 研修資料は、国立国会図書館のリサーチナビに掲載されている。https://ndlsearch.ndl.go.jp/rnavi/asia/workshop_asia_workshop2023 [参照:2024年2月8日]
  2. 注1記載のリンク先を参照。
  3. Pak Yiu, “China slashing foreign subscriber access to key research database,” Nikkei Asia, 23 March 2023.
    https://asia.nikkei.com/Politics/International-relations/China-slashing-foreign-subscriber-access-to-key-research-database [参照 2024年2月8日]
    ただし、一部サービスについては利用が再開され始めているようである。
  4. 人口変動状況サンプル調査は、人口センサス実施年(0のつく年)および1%サンプル調査の実施年を除き、毎年行われる(国家統計局「人口数据如何统计和公布?」国家統計局)。
    https://www.stats.gov.cn/zt_18555/zthd/lhfw/2022/rdwt/202302/t20230214_1903590.html [参照 2024年2月8日]