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国際関係論ジャーナルの盛衰(続) ――フィールド・ジャーナル、学際ジャーナルは権威あるジャーナルを超えるか?
PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050926
2019年5月
(15,216字)
はじめに
国際関係論研究においては、その全般をカバーする権威あるトップ・ジャーナルの影響力が依然強いのであろうか。それとも分野の細分化・専門化に伴い、紛争研究や国際政治経済学(International Political Economy、以下IPE)等の各分野に対象を絞ったフィールド・ジャーナルに最先端の研究成果が掲載されるのであろうか。あるいは国際関係論を超えた、より学際的なジャーナルに良質のペーパーが集まり始めているのだろうか。本稿ではこれらの問題について、インパクト・ファクター(Impact Factor、以下IF1)の傾向を踏まえつつ考察を行う。
浜中(2019)では、権威あるジャーナル(すべて米国系)は定量研究に席巻され、理論研究が欧州系・中国系ジャーナルに流れていること、権威あるジャーナルは欧州系や中国系ジャーナルの挑戦を受けているものの、依然高いIFを維持していること、等を指摘した。本稿では、少なくともIFの観点からは権威あるトップ・ジャーナルの牙城が学際的ジャーナルに崩されつつあることを指摘し、国際関係論研究のジャーナルの盛衰についての一視点を提示したい。
具体的には、特に以下の二つの傾向について議論を掘り下げる。第一に、国際関係論研究において定量研究を重視する傾向が一層強まっていることである。紛争研究の中心的研究課題である「どのような国の間で紛争が起きやすいのか」という問題に定量研究がなじみやすいのは事実であることは間違いない。しかし、歴史研究や事例分析の占める役割が比較的大きかったIPE研究においても定量研究が激増しており、一部の論者は、経済学者に「嫉妬している」IPE学者が経済学者の真似事をしていると主張するほどである(Cohen 2010)。
第二の傾向は、従来の国際関係論研究に比して、近年の研究においては、国内制度の構造というミクロの視点や、国家を超えた地球規模の問題といったマクロの視点が今までにも増して重視される傾向にあることである。さらに、その二つの視点をつなぐ研究が盛んになりつつある。これまでの国際関係論は国家を主要アクターと見なし、国家間関係にのみ焦点を当てがちで、国内構造は無視されるか、せいぜい国内政治体制(要は民主主義)が考察されるに過ぎなかった。
本稿の構成は以下のとおりである。まず、国際関係論ジャーナルをフィールド・ジャーナル(安全保障系、IPE系)、と学際的なジャーナル(特にガバナンス系)に分類する。そして、それぞれの系統のジャーナルのIFの推移と国際関係全般の権威あるトップ・ジャーナルのIFを比較する。また、学際的なガバナンス系ジャーナル群のIFが一律に上昇しているわけではないという興味深い現象も浮かび上がっており、この背景についても検討する。最後にフィールド・ジャーナルと学際ジャーナルの今後を展望する。
安全保障系、IPE系、ガバナンス系ジャーナルの定義
本節では国際関係論を(小)分野に分け、それぞれに分類される代表的なジャーナルについて説明する。その前に、国際関係論の様々な分野を全般的にカバーするような権威あるトップ・ジャーナルについて簡単に言及する。国際関係論全般のトップ・ジャーナルとしては、International Organization (IO)、International Security (IS)、World Politics (WP)、International Studies Quarterly (ISQ)の4誌が挙げられる。これらトップ4誌はいずれも米国系のジャーナルである2。表1は2017年の国際関係論分野におけるIF上位20ジャーナルであるが、やはりトップ4誌は高いIFを有する。
表1 2017年IF上位20ジャーナル(国際関係論分野)
国際関係論にはきわめて多くの分野が存在する。世界最大の国際関係論に関する学会であるInternational Studies Association (ISA) には29の「セクション」があり(2019年1月現在)、そのうち27セクションが、いわゆる「分野(フィールド)」に該当する3。27の分野は表2に示したとおりであるが、重複分野も数多く存在することには注意が必要である。
表2 ISAにおける国際関係論の小分野
そして、国際関係論を大きく系統立てる際には、まず安全保障系と国際政治経済学を扱うIPE系という大きなくくりで考えることが有益であろう。具体的な定義にもよるが、一般的にはトップ・ジャーナルに掲載される論文の半数程度が、安全保障系、IPE系どちらかの系統に属する(Breuning et al. 2005)。
まず安全保障研究が対象とするトピックは極めて幅広い。戦争と平和、軍事の有効性、政軍関係、同盟、安保機関、テロリズム、介入、平和維持、暴力等である4。国際関係論のトップ4誌の中では、まさにInternational Securityという誌名が示すようにISが安全保障系の研究に力点を置く。その他の安全保障系のジャーナルとしてはPeace Science Society が発行するJournal of Conflict Resolution (JCR) (1957年創刊)と、ノルウェー・オスロにあるPeace Research Institute Oslo (PRIO)が発行する Journal of Peace Research (JPR、1964年創刊)が有名である。本稿では、これらを安全保障系主要2誌とする。興味深いことに、これら2誌はトップ・ジャーナルのIS(1976年創刊)よりも長い歴史を有する5。また、北欧では、JPR以外にも1960-70年代に安全保障系ジャーナルの創刊が相次いだ6。
次にIPEの研究対象は、国際経済が国際政治に及ぼす影響、そして国際政治が国際経済に及ぼす影響である。IPE分野に含まれる具体的なトピックとして、国際・地域制度、民間企業、分配、社会・環境問題、金融・為替、経済統合、国際貿易、国際開発、国際金融、多国籍企業、NGO、企業の社会的責任が挙げられる7。国際関係論のトップ4誌の中ではIOとWPがIPE重視といってよい(Breuning et al. 2005)。IPE系のジャーナルとしては、まず1994年創刊のReview of International Political Economy (RIPE) が挙げられる。直後1996年に創刊されたNew Political Economy (NPE) も続き、どちらかといえば両誌は英国系のジャーナルと言える8。
そして、安全保障、IPEと並ぶ国際関係論における「系統」として近年台頭しているのが、学際的なアプローチをとるグローバル・ガバナンス系(以下、ガバナンス系)である。これは国際関係論や国際政治のみならず、行政学(Public Administration)、国際法、国際社会学等の隣接分野に関する研究が対象となる。ガバナンス系のジャーナルとしては、Governance: An International Journal of Policy, Administration and Institutions (GOVE) があり、これは1988年に創刊され、International Political Science Association (IPSA)9の下部組織のジャーナルである。そしてRegulation & Governance (REGO) は2007年に創刊された新興ジャーナルではあるが、そのIFは急上昇している。本稿ではこれらGOVEとREGOをガバナンス系主要2誌とする。これらガバナンス系が「国際関係論」ジャーナルなのか、という問題については後で議論するが、両誌とも、編集委員等を見ると、国や地域の偏りが少ない印象を受ける。なお、表1にあるGlobal Environmental Politicsはガバナンス系ジャーナルでIFも極めて高いが、環境問題にのみ関心が絞られているので、本稿の考察対象から外す。
表3 各系統ジャーナル一覧
各系統ジャーナルのIF動向
はじめに安全保障系ジャーナル主要2誌のIFを比較すると、水準、トレンドとも酷似している(図1)。第三の安全保障系ジャーナルであるSecurity Dialogue (SD)も主要2誌とトレンドは似ているものの、水準は若干低くなる。したがって、JCRとJPRを主要2誌とすることは妥当であろう。Cooperation and Conflict(CC)は2008年以降のIF取得である。CCとSDとも最近のIFについては、JCR、JPRと大差ない。ここから安全保障研究においては、北欧系ジャーナル(JPR、CC、SD)は一大勢力であることが確認できる。
図1 主要な安全保障系ジャーナルのIFの推移
次にIPE系ジャーナルは、1990年代半ばの創刊であり、IFが初めて公表された1997年にはIFを取得していない。RIPEは1999年、NPEは2005年になって初めてIFを取得している。2005年以降の両者のIFの動向は、水準、トレンドとも酷似している。IPE系統ジャーナルの第三の存在であるJournal of International Relations and Development (JIRD)10のIFをみても、2誌と同様のトレンドを確認できる。ただし、JIRDのIFの水準はRIPE、NPEより低いので、これをIPE系主要誌から外すことは妥当であろう。
図2 主要なIPE系ジャーナルのIFの推移
そしてガバナンス系ジャーナルをみてみると、GOVEはIFを1997年より取得し、REGOは2008年の取得である。GOVEとREGOの平均のIFを2008年以降で比較すると、水準、トレンドとも酷似していることがわかる。なお、1995年の創刊のGlobal Governance: A Review of Multilateralism and International Organizations (GLGO) はガバナンス系の第三ジャーナルであり、1998年にIFを取得している。しかしながらGLGOのIFはGOVE、REFOと比べ水準自体がかなり低いうえ、最近の上昇傾向も弱い。したがって、GLGOをガバナンス系主要誌には含めない方が妥当であろう。また、GLGO低迷の理由については後ほど検討する。
図3 主要なガバナンス系ジャーナルのIFの推移
最後に、ここまで述べてきたことを鳥瞰しよう。図4は、安全保障系主要2誌、IPE系主要2誌、ガバナンス系主要2誌の平均IFをトップ4誌(IO、WP、IS、ISQ)の平均と比較したものであり、トップ・ジャーナルが専門誌に猛追されていることが分かる。
図4 各系統ジャーナルのIFの推移
注)Big 4は、国際関係論全般の主要誌(IO、WP、IS、ISQ)の平均。安全保障系はJCRとJPRの平均、IPE系はRIPEとNPEの平均、ガバナンス系はGOVEとREGOの平均。
各系統のジャーナルのIFをトップ4誌平均のIFで除した比率の推移を示したのが図5である11。安全保障系ジャーナルは長期間においてトップ・ジャーナルへの対抗馬でありつづけていたことがわかる。一方、IPE系はジャーナルの創刊、IFの取得より日が浅く、2010年ごろまでは一定水準のIFを維持していたものの、トップ4誌や安全保障系主要2誌と対等とは言い難い状況が続いた。しかしながら最近のIPE系のIFの上昇は顕著であり、ここ数年は安全保障系とほぼ同水準のIFを取得している。国際関係論においては紛争と民主主義の関係を扱う安全保障研究が今までの中心課題であったが、IPEも対等の地位を獲得したといえる。
さらに急激なIFの上昇を記録しているのがガバナンス系である。GOVEはIF公表初年の1997年より、REGOはIFが公表された2008年よりトップ・ジャーナルに対する有力な対抗馬であり、2015年にはガバナンス系平均はトップ・ジャーナル4誌平均よりも高いIFを記録した。
図5 国際関係論全般ジャーナルに比した各系統ジャーナルのIFの推移
注)Big 4は、国際関係論全般の主要誌(IO、WP、IS、ISQ)の平均。安全保障系はJCRとJPRの平均、IPE系はRIPEとNPEの平均、ガバナンス系はGOVEとREGOの平均。Big 4で基準化し、それぞれの系統の平均IFの相対レベルの推移を示した。
ジャーナルの競合: フィールド・ジャーナルの創刊、学際ジャーナルの台頭
先にみたように、1950年代―1960年代には、JCR(米国系)に加え、北欧を中心に安全保障系のジャーナル(JPR、CC、SD)の創刊が相次いだ。こうした北欧系ジャーナルの創刊初期における安全保障研究は米国のそれと異なったのかもしれないが、1990年代以降に掲載される論文の内容に大差はないようだ。したがって、国際関係論の権威あるトップ・ジャーナルにとって安全保障系ジャーナルは手ごわい競争相手であり続けたといえよう。実際、1997年に発表されたIFのトップ10は安全保障系ジャーナルが2誌入っているうえ(JCR、JPR)、表4から分かるように、それらのIFはトップ・ジャーナルのISQとほぼ同じである。
表4 1997年IF上位10ジャーナル(国際関係論分野)
さらに冷戦の崩壊に伴い、フィールド・ジャーナルに有利な状況が生まれたように見受けられる。フィールド・ジャーナルが勢いを増した背景として、具体的には次の二つの変化が重要だと考えている。その第一が、冷戦の重しがなくなったことにより、各地域で地域紛争が増加したことである。そもそも安全保障研究(特に紛争研究)が定量研究と親和性が高いこともあり、紛争に関する定量分析が増加した。例えば、どのような国の間で統計的に紛争が発生しやすいか、といったテーマに関する研究が増えた。既に安全保障系のジャーナルの数が多かったこともあり、安全保障系の有力新ジャーナルが創刊されたわけでないが、JCR、JPRは大幅に増巻された(図6)。
もう一つの変化が、経済のグローバル化である。これに伴い、IPEを扱う論文が劇的に増加した。しかし、IPE論文の増加にもかかわらず、受け皿となるジャーナルの出版状況がそのような動向に対応しきれていなかった。既にみたとおり、これを受け、1990年代にIPE系ジャーナルの創刊が相次いだ。
図6 フィールド・ジャーナルの増巻
このように冷戦崩壊後直後の1990年代半ばにIPE系ジャーナルが創刊され、ほぼ同時期に安全保障系ジャーナルが増巻され、さらに2010年代にもJCR、RIPE、NPEの増巻が相次いだことにより、現在までにフィールド・ジャーナルにおける研究蓄積が相当程度進んだ。権威あるトップ・ジャーナルよりもむしろ、これらのフィールド・ジャーナルにターゲットを絞って執筆される論文も多いものと考えられる。つまり、ISQよりもまずJCR、RIPEを念頭に論文執筆する研究者も多いと想定される。以前のトップ・ジャーナルは理論研究に重点を置いていたものの、現在は定量研究重視となったため、トップ・ジャーナルとフィールド・ジャーナルに掲載される論文に大差はない。
さらに、2010年前後に興味深い現象が起こった。米国の大物IPE学者が、米国におけるIPE研究が定量研究偏重で面白くなくなったとの批判を、新興フィールド・ジャーナルのRIPEとNPE誌上で繰り広げた(Cohen 2007; 2008; 2009)。このことはRIPE、NPEがIO、WP等のトップ・ジャーナルの対抗馬に育っていたことを示唆する。Mearsheirmer and Walt (2013)にあるように、定量研究偏重批判は国際関係論全般で起こっていた動きであるが(背景については浜中2019を参照)、このIPE版ではそこに一ひねりが加わった。それは、IPE学者が経済学者に嫉妬し、その真似事をしているという点が強調されたのである(Cohen 2010)。さらに彼は米国型IPEに比してより大きな視点で問題を論ずる英国型IPEを称賛した12。
2010年代にRIPEやNPEに掲載された論文をみてみると、定量的研究論文の比率が上昇傾向にあることがわかる。同時に、定量的研究では十分に検証できない問題を定性的に分析する論文も掲載され続けている。しかしながらここで重要なのは、Cohen等が期待したようなIPE理論に関する大作がRIPEやNPEに多く掲載されるというような状況には至っていないことである。したがって、RIPEやNPEの特徴というものは、理論研究への回帰ではなく、非定量的研究(=定性的研究)への許容度が相対的に高いということにとどまろう。
最近急速に注目を集めているガバナンス系ジャーナルは、まさにそのような理論研究に関する議論の「隙間」を埋めることで台頭してきた13。しかし、そもそもガバナンス系ジャーナルは国際関係論なのだろうか。ガバナンス研究の従来の研究対象は国内ガバナンスであり、いわゆる行政学(Public Administration)の一部であったことは否定できない。しかし近年は、国内ガバナンスと国際ガバナンスの両方を分析対象とし、特にその関係性やインターアクションについての考察を行う論文が増えている。つまり、学際系のガバナンス系ジャーナルは国内問題に焦点を当てつつ国際関係を論じるので、従来のIPEの本流に近い研究といっても過言ではないし、GOVEとREGOはこの種の論文の受け皿となっているように見受けられる14。このように、国内要因を重視していることがガバナンス系ジャーナルの強みとなっているのである。両者ともジャーナルの名称にInternational等も含まず、Journal Citation Report上は国際関係には分類されていない(表5)。このため両誌は表1には含まれていない。
表5 ガバナンス系ジャーナルのJournal Citation Report上の分類
一方で皮肉のようにも思えるのは、既にみたようにガバナンス系ジャーナルの中では古株であるGlobal Governance (GLGO) のIFが低迷していることである。GLGOはそのサブタイトルも含め、国際ガバナンスや多国間国際機構への関心を前面に押し出す。GLGO低迷の理由について確定的なことはいえないが、ジャーナルの特性上、国家間問題や国家間機構に焦点を当てるために、GOVEやREGOと異なり、国内と国際の関係性や国内構造に関する議論が若干弱くなってしまうことがその一因かもしれない。実際、GLGOでは国内体制に関する問題を深掘りしたうえで国際協力を論じる論文が、GOVE、REGOに比べて少ないように見受けられる。
今後の展望
今後の展望としては三点言及したい。第一に、IPE系ジャーナルのIFの上昇が続くと考えられる。世界的にみればIPE系ジャーナルはガバナンス系ジャーナルに押され気味ではあるものの、やはり米国における定量的IPE研究の人気は高い。今後は安全保障系ジャーナル(JCR、JPR)よりもIPE系ジャーナル(RIPE、NPE)の方が高いIFを記録し続ける可能性が高い。また、権威あるトップ4誌(米国系)にIPEの理論研究・定性的研究が掲載されることは極めて稀であるため、定性的なIPE研究がRIPE、NPEといったフィールド・ジャーナルに集中し、両誌のIF上昇に寄与するかもしれない(逆に、両誌のIFの上昇を抑える方向に寄与するかもしれない)。したがって近い将来、RIPEが国際関係論ジャーナルのIFでナンバーワンとなることも十分に考えられる(今までは2016年の2位が最高)15。図6でみたように、RIPE、NPEとも2013年に増巻させた後も急激にIFを上昇させていることは、両誌への論文投稿数が劇的に増加していることを示唆している。
第二に、さらなるガバナンス系ジャーナルの躍進が予想される。国家を主要アクターとして国際関係をみることを前提とした“Inter₋national” Political Economyよりも、地球大の問題に対して地球レベルの対策を考える“Global” Political Economyの重要性が増していることは明白だからだ。そもそも国際関係論研究は、国内要因を無視するか、せいぜい民主主義体制か否かといった国内政治体制を勘案する程度であった。規制制度や法制度等の複雑な国内問題に注意を払いつつ国際関係を論ずることを目的の一つとするガバナンス系ジャーナルは、国際関係論研究に大きなインパクトを与え続けるだろう。表1でみたように、GOVE、REGOに加え、環境問題を扱うGlobal Environmental Politics(2001年創刊)は既に極めて高いIFを有しているが、他にもGlobal Policy(2010年創刊)等新興のガバナンス系ジャーナルには勢いがある。新たなガバナンス系ジャーナルの創刊も続くであろう。ちなみに、2015年には、Chinese Journal of Global Governance(CJGG)が創刊された。
第三に、上記に関連して、アジア発のIPEあるいはガバナンス系のジャーナルが創設され、短期間のうちに有力ジャーナルの仲間入りを果たすかもしれない。アジア発の国際関係論全般のジャーナルとしてChinese Journal of International Politics (CJIP) やInternational Relations of the Asia-Pacificがあるが(浜中2019参照)、そこではIPEやグローバル・ガバナンスが主要テーマになっているとは言い難い。一方、筆者がアジア人学者と話をして感じることは、米国では人気のない覇権安定論等の大きな理論に関心をもつ学者が多いことである。ガバナンス系ジャーナルとして2015年創刊のCJGGが既に存在するが、現時点ではアジアの研究者が注目しているジャーナルとはいえない。例えば東アジア地域包括的経済連携(RCEP)やアジアインフラ投資銀行(AIIB)等の局所的なアジアの現象だけではなく、グローバルな問題を議論するアジア発のIPEあるいはグローバル・ガバナンスを扱うジャーナルができれば、少なくともアジア人学者の心をつかむであろう。例えば米国による世界秩序と中国によるそれとの対比や北京コンセンサスといった問題を扱うようなジャーナルだ。中国の国力・研究力の上昇に伴い、CJIPが辿ったように、CJGG等がアジアの有力IPEジャーナル、ガバナンス系ジャーナルとして将来認識される可能性もあるだろう。
参考文献
- Breuning, Marijke, Joseph Bredehoft, and Eugene Walton (2005) "Promise and performance: an evaluation of journals in International Relations." International Studies Perspectives 6(4): 447-461.
- Cohen, Benjamin J. (2007) "The transatlantic divide: Why are American and British IPE so different?." Review of International Political Economy 14.2: 197-219.
- ――― (2008) "The transatlantic divide: A rejoinder." Review of International Political Economy 15(1): 30-34.
- ――― (2009) "The way forward." New Political Economy 14(3): 395-400.
- ――― (2010) "Are IPE journals becoming boring?" International Studies Quarterly 54(3): 887-891.
- Cox, Robert (2009). "The ‘British school’ in the global context." New Political Economy 14(3): 315-328.
- Higgott, Richard, and Matthew Watson (2008) "All at sea in a barbed wire canoe: Professor Cohen's transatlantic voyage in IPE." Review of International Political Economy 15(1): 1-17.
- Mearsheimer, John J., and Stephen M. Walt (2013) "Leaving theory behind: Why simplistic hypothesis testing is bad for International Relations." European Journal of International Relations 19(3): 427-457.
- Quaglia, Lucia (2018) "The politics of state compliance with international "soft law" in finance." Governance 32(1): 45-62
- Ruggie, John Gerard (2018) "Multinationals as global institution: Power, authority and relative autonomy." Regulation & Governance 12(3): 317-333.
- 浜中慎太郎(2019)「国際関係論ジャーナルの盛衰――米国系の覇権凋落(?)と欧州系・中国系の台頭――」『IDEスクエア』
著者プロフィール
浜中慎太郎(はまなかしんたろう)。アジア経済研究所海外研究員(在ワシントンDC)。専門は国際関係論、国際政治経済学、グローバル・ガバナンス。最近の論文に "Understanding the ASEAN way of regional qualification governance: The case of mutual recognition agreements in the professional service sector." Regulation & Governance, 2018, 12(4) : 486-504や "Insights to Great Powers' Desire to Establish Institutions: Comparison of ADB, AMF, AMRO and AIIB." Global Policy, 2016,7(2): 288-292など。
注
- なお本稿を通じてIFはJournal Citation Reportのものを用いることとする。
- 米国系主要4誌の詳細および欧州系、アジア系のジャーナルの詳細については、浜中(2019)を参照。
- 他の二分野は、国際関係論の教育方法に関するActive Learning in International Affairsと例外的に特定地域(南アジア)を対象とするものである。
- これらのトピックがISAの安全保障セクションにおいて列挙されている。
- おそらく米国人学者の間でISの格が高いと考えられているのは、Harvard大学のBelfer Centerが発行母体となっていることが一因となっているように思われる。
- 1964年にはオスロに所在するNordic International Studies Association (NISA) がCooperation and Conflict (CC)を創刊している。1970年にPRIOはSecurity Dialogue (SD) を創刊している。
- これらのトピックがISAのIPEセクションにおいて列挙されている。
- 英国系の国際関係論全般のジャーナルとしてはInternational AffairsとReview of International Studiesがある。浜中(2019)参照。
- なお、IPSAの旗艦ジャーナルとしてInternational Political Science Review (IPSR) があるが、現時点ではGOVEの方が相当高いIFを有している。2017年では、IPSRのIFは1.321、GOVEのIFは3.833である。
- IPE系の第三のジャーナルとしては、Journal of International Relations and Development (JIRD) を挙げることができよう。JIRDはCentral and East European International Studies Associationの学会誌で、1984年の創刊後しばらくは主に中欧・東欧出身の学者の論文を対象としていたが、1998年にJIRDとして衣替えし、出身に関わらず投稿できるようになった。その後、ジャーナルの名称が魅力的であることもあり、急速にIFを上昇させている。
- 国際関係論主要4誌の毎年のIFを1とした場合、それぞれの年で様々な系統のジャーナルの平均IFの程度を0から1の間で示したものである。1に近いほど、国際関係論主要4誌と対等のIFを有しているということになる。
- ただし、英国のIPE学者は、Cohenの米国型IPEと英国型IPEの対比に批判的であった(Higgott and Watson 2008; Cox 2009)。
- GOVE、REGO、GGの他、2010年の創刊Global Policyもガバナンス系ジャーナルといえ、IFが急上昇している。
- 最近の例としてはREGOに掲載されたラギーの企業の社会的責任(Social Responsibility)に関する論文(Ruggie 2018)やGOVEに掲載された国際的なソフトローの履行と国内政治の関係の論文(Quaglia 2018)が好例。両論文とも理論研究・定性的研究といえる。
- 1997年から2017年の21年のうち18年はIO、WP、ISのいずれかがIFでトップとなっている。例外は1998年(American Journal of International Law)、2012年(Common Market Law Review)、2013年(Foreign Affairs)。