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海外研究員レポート

Women and Men FactSheet 2018を読む(2)

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050462

2018年8月

フィリピン国家統計局(PSA: Philippine Statistics Authority)から2018年3月、Women and Men FactSheet(以下FSという)の最新版「FS2018」が公開された。FSは、基礎的な経済指標・社会指標・教育指標・健康指標等の男女間関係について、PSAが実施する各種の個票統計調査・人口センサスや、教育省、農業省などのPSA以外の関連省庁が発行する情報をまとめた統計資料である。国レベルの統計数値を集約したもの(aggregated data)であるとはいえ、FSはフィリピンのジェンダー社会経済関係を概観するのに有用である。

前回の海外研究員レポートでは、「Women and Men FactSheet 2018を読む(1)」と題して、「教育」と「経済」分野について取り上げ、教育分野での女性の健闘と、それに比して経済・労働分野では女性の活躍には限定的な部分がある点を報告した。今回は、その続編として、「保健」「政治」の分野について取り上げてみたい。

I. 教育分野に次ぐ男女平等傾向にある保健分野

FS 2018では、保健分野として栄養や健康に関連する指標がまとめられている。保健は、前回の報告で取り上げた教育と並んで、人的資本の基礎を両輪で支える人間開発(human development)の主要な構成要素である。たとえいくら教育普及が進んでも、その人々の心身の健康が十分に守られなければ、獲得した知識や技能を活かすことができなくなってしまう。FS 2018を参照してまとめた表1にもとづいて、以下それぞれ見ていきたい。

まず、栄養体形指標として、低体重率、低身長率、肥満率が報告されている。「Weight-for-age」と呼ばれる年齢ごとに推定される適正体重の範囲に十分に達していない低体重の乳幼児の割合は、5歳児までではおよそ5人に1人であり、男女差はほとんどない。しかし、その後10歳までの低体重率は、女性が約29%、男性が約34%に至る。同様に、「Height-for-age」から把握される低身長率でも、5歳児まででおよそ3人に1人が低身長児であり、およそ2ポイント男児の低身長率が高い。その後10歳まででは、低体重率と同様、低身長率は女性が約29%、男性が約34%に至り、5ポイントの開きとなる。乳幼児期から児童期にかけて、フィリピンではいまだにおよそ3人に1人が低体重または低身長を経験していて、特に低身長は“low”ではなくFS 2018では“stunted”と表現されており、発育上の遅延や障害を表している。一方で、低体重・低身長の対極にある肥満に関する指標は、成人人口に関して比率を算出しているが、男性約5%に対し、女性は約9%となっている。

発達時期における栄養失調を抱える幼児・児童が全体の3分の1を占めるのと同時に、成人の肥満問題が同居している。つまり、一方では途上国の特徴を持ちつつ、他方では都市部を中心とする急速なライフスタイルの西洋化が肥満問題に拍車をかけていることが予想される。巷間では、常にこの問題に関連して、糖分と油分の多いファストフードの浸透という話題が議論される。ファストフードだけを批判の対象にしてはならないが、それでも急速に普及するファストフードが、根菜や果実、雑穀、魚類といった豊富な食材を多く取り入れた伝統的なフィリピン料理に取って代わってきたと指摘する声を日常的に聞く。都市部を中心に、人びとの食生活が栄養の偏りや肥満と関連のある中身に変質しつつあることは事実である。

表1: FS2018に見る主な健康指標の男女間比較

表1: FS2018に見る主な健康指標の男女間比較

注:
(1)15–49歳の母親の死亡率を一般的な出生率で割ることによって計算。
(2)ワクチン接種記録は予防接種カードまたは母子手帳に基づく。接種内容は、 BCG、麻疹、ジフテリア、百日咳、破傷風(DPT)、ポリオ、B型肝炎ワクチン(Hepa-B0・B1・B2またはHepa-B1・B2・Hepat-B3)。なお、HiBワクチンを除く。
(3)調査時から過去10年間の数値。
原データ:
 a = 2015/ FNRI (Food and Nutrition Research Institute)
 b = 2010/ CPH (Census of Population and Housing), PSA (Philippine Statistics Authority)
 c = 2011/ FHS (Family Health Survey), PSA
 d = 2013/ NDHS (National Demographic and Health Survey), PSA
 e = 2017/ NDHS, PSA
出典: FS 2018 (PSA)。

フィリピンには、グローバル・ファストフード・チェーンが展開しつつも、地場のファストフードも根付いており、マニラ首都圏では道路を走っていると実に多くのファストフード店を見かける(ドライブスルーも同様に多い)。昼夜を問わずこれらの店が繁盛している光景だけでなく、日本以上に「デリバリー」サービスが発達していて、自宅にいながら手軽にファストフードを取り寄せられる。肥満の原因は糖分やでんぷん質と油分の掛け算だと言われているが、ファストフードの浸透は両者の摂取量を高めてしまう。

事実、ファストフードの普及にともない、肥満率の値は、直近の数年間だけでも増加傾向にある。例えば、6年前のFS 2012での発表によると、肥満率は男性3.7%、女性6.6%であった。FS 2018での報告内容は、2015年のFood and Nutrition Research Institute [FNRI]に基づいた数値であり、FS 2012での報告内容は2008年のFNRIに基づいている。したがって、この7年間に、男女とも成人肥満率は増加している。特に女性の肥満率が男性のそれより高い。

今年2018年の1月、政府による大規模な税制改革が実施された。この一環として、砂糖を使用した清涼飲料に対する課税率が引き上げられ、ベッドボトル飲料などの市場価格が大きく値上がりした。糖分の摂取は肥満を介して糖尿病など国民の重大疾病につながるため、砂糖消費を抑制する策であるとして消費者は不満の声を漏らし、この措置は俗に「砂糖税」と呼ばれている。

低身長や低体重を幼児・児童期に阻止するためには、カルシウムやミネラル、たんぱく質などとバランスの良い食事が欠かせない。生活実感から想像される通り、米やパンなど主食に比べて、バランスのとれた副菜を多く盛り込んでいくほど、食費は必然的に高くなる。

極度の飢餓の危機は脱しているフィリピンにあっては、貧困層のあいだではそのイメージに反して肥満体形をした人びとが少なくないように思われる。これは、先述の通り、米やパンなど主食だけで食事を済ませ、より一食あたりの経費のかかる野菜や魚類・肉類の副菜が少ない食生活を送っていることを意味していよう。子どもの低体重・低身長が深刻な一方で、成人層では高い肥満率が観察されるというFS2018での数字からは、貧困児童は発育時期に栄養失調になりがちであり、成人は主食の糖分・でんぷん質、油分に偏りがちという互いに極端な傾向が読み取れる。男女間では、女性に比べて男性の方が低身長・低体重傾向になる傾向がやや高いことも分かる。

続いて、障害者人口を見る。この数値は、女性が約203万人、男性が約177万人と報告されている。FS 2018での報告による全人口に占める男女の人口数は、女性が5,280万人、男性が5,380万人である。人口に占める男女比はほとんど変わらないのに対し、障害者人口は女性の方が多い。報告されている障害種別は、男女ともに視覚(眼鏡をかけても視覚に支障を抱える)によるものである。視覚が両性ともに報告されているのは、6年前のFS 2012でも同様であった。ただし、女性の方が男性より障害者人口が多い理由については不明であった。識者からご助言をいただけたら幸甚である。

第三に、妊産・乳幼児の関連指標を見る。基礎的ワクチン接種率、新生児死亡率、乳幼児死亡率の諸指標からは、教育や経済の分野とは異なり、男女間での目立った差は確認されない。健康保険加入割合をみても女性がやや高いものの大きな違いとは言えそうにない。

前回の報告で、フィリピンのジェンダー平等度の高さは、教育分野と保健分野による貢献が特に目立つという点をすでに指摘したが、このように保健分野においても、男女差がほとんどない状況や、場合によっては女性が若干健闘している指標(児童期の低体重・低身長の回避)がある点で、教育分野にも通じる。また、FS 2018によるフィリピンの男女別平均寿命は、2015–2020年推計値で男性69.6歳、女性75.9歳とされ、女性の方が長寿である世界的傾向と同一である。2010–2015年推計値では男性が67.6歳、女性が73.1歳であったことから、この5年間で平均2歳ほど平均寿命が延びている。このような諸傾向が保健分野における男女平等度の高さにつながり、女性が健闘する教育分野とともに、フィリピンのジェンダー平等度を数値上高めることに貢献していると読み取れる。

II. 政治参加分野:経済分野同様に男性中心の世界、ただし女性の活躍は増加中か
 最後に、政治参加分野についての概況を確認したい。表2は、FS 2018で公共領域に参加する人材の男女別状況が報告されたものである。これによると、政治的役職(被選挙職)に就いているのは男性が4分の3を超え、女性は4分の1に満たない。国政分野では、大統領は現職のロドリゴ・ドゥテルテ(男性)であるが、副大統領は現職のレニー・ロブレド(女性)である(各1)。その後、上院議員、下院議員ともに男性比率が女性比率を凌駕している。地方政治分野でも同様であり、州の知事職・副知事職にある者、市長職・副市長職にある者、市議会議員等のいずれも国政分野と同様、男性構成比率が高い。全体的にみて、下院議員数が全体の中で女性の占める割合が最も高いものの、それでも約29%で3割に満たない。その他の役職については、軒並み女性比率は2割前後である。

表2: FS2018に見る主な政治参加指標の男女間比較

表2: FS2018に見る主な政治参加指標の男女間比較

注:“Sangguniang Panlungsod and Bayan”とフィリピノ語で表記し、市や町を含み、定訳はない。
原データ:a = 2013・2016/COMELEC(Commission on Elections)、無印 = 2016/COMELEC。
出典:FS 2018 (PSA)。

表2の数値からは、フィリピンにあっても、政治参加は依然として男性優位であり、その男女数の比率は概ね、女性:男性=1:3ないしは1:4という水準にある。ただし、過去およそ20年間のトレンドを見てみると、1998年から2016年までの被選挙職に就く人数では女性の人数が増え続けており、それに対応して男性の人数は相対的に減少している。これを示したのが図1である。この20年間で、女性の構成比率は、およそ16%から21%へと右肩上がりに5ポイントも増加していることが分かる。

図1: 被選挙職人数の傾向 (1998–2016年)

図1: 被選挙職人数の傾向 (1998–2016年)

出典:FS 2018 (PSA)をもとに筆者作成。
政治参加分野についてみても、前回の報告でみた経済・労働分野と同様、女性の活躍の度合いは思ったほど高くないことが分かった。たしかに、過去に女性大統領を輩出していたり、各地のバランガイ(村または地区)評議会で活躍する女性が多かったり、というイメージがあり、フィリピンの政治分野への女性による参画は好調だとイメージが先行していた感があるが、FS 2018で具体的に数字として報告された内容をまとめてみると、まだまだ男性が多数派を占めている世界であることが想像される。ただし、図1のように、徐々にではあるものの、政治参加分野についても女性の参加が相対的に増え始めているトレンドがあることも強調しておく必要があるだろう。
III. まとめ

前回と今回の2回にわたって、「Women and Men FactSheet 2018を読む」と題して、選択的に教育・経済・保健・政治という4つの社会領域からFS 2018を読み取ってきた。2回の報告を総括すると、フィリピンが誇るジェンダー平等度の高さは、実は少なくともこれら4領域だけをとってみても、一様ではないということが分かった。

前回の報告では、教育と経済の2領域の間には、前者は女性が数値上健闘していて、後者はそうではないという対照的な傾向がある点を示した。教育分野では、一面では女性の健闘ぶりが男性を凌駕すると解釈することができる。他方で、労働市場参加や貧困などの経済分野に目を転じると、他国と質的に類似した、あるいは、教育分野とは対照的な男性中心の傾向が読み取れた。同時に、海外移住労働の女性化と呼ばれる現象が近年進み、FSの過去年版からFS 2018に近づくにつれてその傾向が深まっている。女性の国内における労働市場参加率の低さだけではなく、海外出稼ぎに目を転じればますます多くの女性が出稼ぎ労働に出つつあるという側面も経済参加の重要な要素であった。また、そのような海外移住労働の女性化が進む社会経済的背景に思いを巡らせば、女性、そして男性にとっても安寧な経済生活が待っているとは言いがたかった。

今回の報告では、保健分野と政治参加分野を取り上げた。両者の関係も、前回の教育分野と経済分野との関係に類していて、保健分野では男女間の顕著な違いが認められないと言える水準にあり、同分野はフィリピンの男女平等度の高さに寄与していると解釈できよう。しかし、政治参加分野は、依然として他国と同じように男性が中心を占める世界である。近年は女性の政治参加の度合いが少しずつ増加中であることもFS 2018の報告数値の計算から分かった。

FS 2018を過去数年間のFSのトレンドの中に位置付けると、経済分野や政治参加分野であっても女性の活躍の度合いが増加しつつある傾向を示唆する材料を見出すことはできる。また、教育分野や保健分野での平等度は、各論でもすでに指摘したように高く評価することもできる。しかし、同国が世界的に見ても高いジェンダー平等度を達成しつつあるという通説は、各社会領域に分けて少しだけ数値を「分解」(decomposition)してみるだけでも、一様ではないことが分かった。教育や保健の分野(換言すればソフトの分野)での女性の健闘に大きく引きずられる形で、ジェンダー平等度全体のランキング順位は良く見える。しかし、そのことが必ずしも十分に経済や政治参加の分野(換言すればハードの分野)における女性のそれに直結しておらず、そこにランキングで表れるジェンダー平等度の高さに隠れた領域間の不均整さ・ねじれがあるとすら言える。

FS 2018はさまざまな社会指標の概況を一瞥して確認するのに有益であるが、地方間・社会階層間の差異や、定量的ではない質的な情報を読み取ることには限界もある。その点では、このような“Fact Sheet”ではなく、個別の資料や調査、研究に具体的にあたることが不可欠である。とはいえ、前回と今回の報告で、ジェンダー領域を事例に、最新のFS 2018の“decomposition”に少しだけ時間と紙幅を割いてみることで、一様なものだと理解できないフィリピン社会の一面について報告してきた。この点について読者と共有することができたとすれば、筆者にとっては2回に分けて本稿を執筆してきた趣旨は達成できたといえる。

著者プロフィール

岡部正義(おかべまさよし)。アジア経済研究所 海外研究員、フィリピン大学ディリマン校労働産業関係学研究科 客員研究員、フィリピン大学ディリマン校教育学研究科修士課程教育行政学専攻 講師(兼担)。開発経済学、教育経済学、家族経済学、国際教育開発学、フィリピン研究。主な著作に、“Gender-preferential Intergenerational Patterns in Primary Education Attainment” (International Journal of Educational Development, Vol. 46, 2016)、「フィリピン・ミンダナオ農村部における教育需要の持続性に関する社会経済分析」(『アジア研究』63巻1号、2017年)など。

書籍:アジ研ワールド・トレンド

書籍:International Journal of Educational Development


参考資料