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海外研究員レポート

Women and Men FactSheet 2018を読む(1)

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050377

2018年4月

フィリピン国家統計局(PSA: Philippine Statistics Authority)から、Women and Men FactSheet(以下FSという)の最新版FS2018が2018年3月に公開された。FSは、基礎的な経済指標・社会指標・教育指標・健康指標等の男女間関係について、PSAが実施する各種の個票統計調査・人口センサスや、教育省、農業省などのPSA以外の関連省庁が発行する情報をまとめた統計資料である。国レベルの統計数値を集約したもの(aggregated data)であるとはいえ、FSはフィリピンのジェンダー社会経済関係を概観するのに有用である。

今回と次回とに分けて、筆者の関心に沿ったいくつかのテーマについて、FS2018の報告をもとに報告しよう。今回は、教育と経済の各分野について取り上げる。なお、FS 2018やFSの過去版はすべてPSAのホームページから閲覧することが可能である。関心の向きにはhttp://www.psa.gov.ph/gender-stat/wmfを参照されたい。

Ⅰ. フィリピンはジェンダー先進国?

意外と知られていないことかもしれないが、フィリピンは、東アジア・東南アジア諸国、あるいは途上国・新興国や世界レベルでみても、男女平等度が高い国・社会だと言われている。現地で感じるのは、日本で日々語られているような女性不利社会のイメージを一見して覆してくれる力強い女性たちの存在感である(「一見して」と強調したのは、そのような画一的な見方が時には他の社会同様に有効でないときもあるからである。その点については後述)。一方、我が国は近年女性がさらに活躍できる社会を目標に掲げてきているが、そうした観点から首をかしげてしまうような報道が聞かれることも少なくないし、未だに首相は男性ばかりが歴代名を連ね、女性が政治のトップに立ったこともない。その点フィリピンは対照的である。

個人的に思い出すのは、2009年夏に学生時代に初めてフィリピンを訪れたときのことである。ちょうど8月1日にコラソン・アキノ元大統領が逝去し、アキノ氏の顔が印刷された大きな旗が街中をはためいていて、国中が喪に服していた。滞在中に、フィリピンにはすでに女性の大統領がいたことに強い印象を持ったことを今も鮮明に覚えている。そして偶然にも、グロリア・マカパガル・アロヨ氏という女性がこの当時の大統領でもあった。現在も大統領はロドリゴ・ドゥテルテ氏であるが、副大統領は女性のレニー・ロブレド氏が務めている。また、国政のみならず地方政治でも、フィリピンの最小の行政単位であるバランガイ(barangay)のリーダーとして女性が多く活躍しており、オフィスや行政機関においても女性の進出・活躍が多くの人びとによって語られている。フィリピン大学をはじめ、フィリピン国内の調査研究機関において研究職・教授職に就いている専門職女性は特に目立つ。大学の中では、多くの女性たちが研究科長や理事を務めている。近年になって社会的要職への女性の積極的登用を声高に唱え始めた日本と異なり、フィリピンには女性の社会進出が日本などよりも先進的に担保されている社会的な土壌がすでに備わっているように感ぜられるのである。

このような男女平等のありようは、国際比較可能なデータとしても如実に表れている。例えば、スイス・ジュネーヴに本部を置く世界経済フォーラム(World Economic Forum)が毎年発表しているグローバル・ジェンダー・ギャップ指数(Global Gender Gap Index、以下GGGI)ランキングがある。これは、経済、教育、保健と政治参加の分野に関する各国の統計をもとに、ジェンダー平等度の高さで各国をランキングしている(表1)。

表1 グローバル・ジェンダー・ギャップ指数上位10カ国(2014-17年)

表1 グローバル・ジェンダー・ギャップ指数上位10カ国(2014-17年)

出所:World Economic Forum (http://reports.weforum.org/)より作成。

GGGIの点数は、完全に男性と女性の数が一致していればこれを平等と見なし、その場合の値は1.0になる。女性の数を男性のそれで割るから、男性を1としたとき、女性がいくらか、という数値がこの点数になる。1.0に近ければ近いほど男女平等度は高いということになる。表1によると、フィリピンのジェンダー平等度の高さはアジア随一であり、先進諸国を含めた世界比較でも10位以内にランクし続けている。トップ層は男女平等度が高いと言われている北東欧・スカンディナビア諸国が名を連ねる。上位10位以内にランキングした国は、アジアからはフィリピンのみ(2014年:9位、2015・16年:7位、2017年:10位)で、他に、アフリカからはルワンダ、中南米からはニカラグアがランクインしている(特に社会における男性の優位性が議論になるアフリカからルワンダがランクインしているのは興味深いが、その背景については専門家の解説にゆだねたい)。他方で、日本はこの点で大きく見劣りする。表は紙幅の都合により割愛するが、日本のランキングは2017年で114位(スコア0.657、144カ国中)、2016年で111位(スコア0.660、144カ国中)、2015年で107位(スコア0.670、145カ国中)、2014年で104位(スコア0.658、142カ国中)といずれも下位にランクしている。さらに順位だけでなくスコアも年々下がっている。分野でみれば、いずれの年も、保健分野のランクは高いが、政治分野が日本のランクを下げている。ジェンダー平等の観点からいえば、フィリピンは先進的な地位を確立しているといってもよい1。ただし、フィリピンの高いスコアは教育・保健・政治分野にわたっているものの、実は経済分野はさほどではないことにも気づかされる。この点はIIIで後述する。

Ⅱ. 教育分野における女性の健闘

それではまず、個別のテーマについて、教育分野から見てみたい。教育分野にかかる最新の報告内容(表2)によると、教育指標において女性が健闘していることが分かる。識字率は機能的・基礎的のいずれにおいても女性のほうが高い。文字の読み書き(基礎的識字)に加えて、初等的な計算も含む機能的識字に識字概念を拡張すると、より女性と男性の差が大きくなる。最終学歴についてみてみると、中等教育を終えていない者(非修了)までは男性の割合が女性より高く、中等教育修了より先は逆転し、今度は女性の割合が男性より高くなる。特に高等教育修了者は女性と男性の差がおよそ4.3ポイントと最も大きくなる。

このことは、一般的な途上国世界をイメージするとやや意外かもしれない。フィリピンは女性の方が教育水準は高く、しかもこの傾向は中等教育以降に強くなる2。中等教育の非修了より低い段階では男性の割合が高く、このことは、女性より男性の方が基礎教育段階(初等・中等教育)においてすでにドロップアウトしてしまう傾向が強いことを含意している。また、最も多い高等教育機関での専攻分野もやや意外である。男性が経営学とその関連分野、女性が情報技術(IT)分野となっている。ただしこれは、前年の2017年では男女ともに経営学とその関連分野となっており、さらにFS 2012まで遡ると、女性が看護分野、男性が情報技術(IT)分野となっていることから、流動的である。フィリピンの高等教育では、人文学・社会科学(アメリカ式のリベラル・アーツを含む)や理学・基礎科学のような実利にすぐには直結しない学術的な分野よりも、ビジネス・経営・商学、教育、工学、応用科学などの職業や利益に直結する実学や応用的分野が志向される傾向にある。その意味では男女ともに実学を志向していることが読み取れる。

「高等教育在学者数」そのものはどうだろうか。FS2018の報告内容に依拠する限り、最終学歴が高等教育である割合は女性の方が高いのにかかわらず、在学者数は男性が約200万人に対して女性は約160万人と、40万人の開きがある点が読み取られる。しかし、過去これまでにフィリピン政府が発表してきた他の統計や国際機関が集約した教育統計によれば、フィリピンの高等教育修了率は近年一貫して男性のそれを凌駕してきており、女性の健闘は続いてきているものと考えられるのである。例えば、同じFSでも、前年のFS2017では、高等教育在学者数は女性2,266,419人、男性1,838,422人であり、さらに前年のFS2016でも、女性2,109,651人、男性1,702,075人であった。特にFS2017は公開後に修正されている。予断はできないものの、2018年度版の数値が、高等教育の修了状況に本当に2018年から何かしらの構造変化が起きたことを急に示し始めたのか、それとも統計数値の誤りに過ぎないのかによって、女性の教育進出をどのように理解するかが大きく異なる。FS2018の本数値は、再確認の必要があるように筆者は考える。

技術教育訓練分野について、これは一般には中等教育修了後(post-secondary)に展開される実践的・職業志向の職業訓練であり、その卒業者には修了証明書が発行される。フィリピンの教育制度はアメリカに色濃く影響を受けており、高等教育(大学)はリベラル・アーツ式の学術的な分野かエンジニアなどの高度専門職業人養成が目立ち、学位授与機関である。他方、電気技工・溶接・初等コンピューター技能・裁縫・調理・会計などの職業直結型教育は職業訓練課程で教育されており、学位が出ないが特に地方部での需要は高いと言われている。興味深いのはこの課程でも卒業者数や修了証書発行数でみて女性の健闘が目立つ点である。

表2 FactSheet 2018にみる教育指標

表2 FactSheet 2018にみる教育指標

注:下線を引いた数字は両性の数値を比べて、数字が大きいことを指している。原データは、a = FLEMSS (Functional Literacy, Education, Mass Media Survey) 2013、b= LFS (Labor Force Survey) 2017、c = CHED (Commission on Higher Education) 2016-2017、d = TESDA (Technical Education and Skills Development Authority) 2017、e = TESDA 2016。またfの数値には新旧両カリキュラムの中等教育修了者を含む。
出典: PSA (2018)をもとに一部編集。
Ⅲ. 注意して見る経済指標

教育分野では女性が健闘していることがFSからも読み取れた。他方で、実はフィリピンのジェンダー平等度の評判は分野によって均質ではないこともわかる。次に、経済に関連する指標についてのFS2018(表3)の内容から、労働、所得・貧困、そしてOFWを読み取る。

表3 FactSheet 2018にみる経済指標

注:原データは、a = LFS (Labor Force Survey) 2017、b = FIES (Family Income and Expenditure Survey) 2015、c = PSA 2015、d = SOF (Survey on Overseas Filipinos) 2016、またeの数値は年額。
出典: PSA (2018)をもとに一部編集。


1. 雇用、貧困、所得

労働市場参加率(労働力率)をみてみると、一般的な他国と質的には同様に、女性の労働参加率は男性よりも3割低い。失業率は男性のほうがやや高い。フィリピンであっても、結婚したあと、子育てをする役割は主に女性にある、というジェンダー規範は他国と同様に存在しており、また、ジェンダー平等度が高いとはいえ、外で働くのは男性(父親)が中心、という規範も存在している。したがって、女性の労働参加率が低くなるのはやむを得ないことである。一方で興味深いのは所得について、男性世帯主と女性世帯主で比べると平均所得は女性世帯主の方が高いという報告である。女性が世帯主である場合の典型的な職業は販売業や修理業、男性の場合は農林水産業(農家や漁師)と報告されている。さらに貧困世帯も、女性世帯主の割合の方が男性世帯主の場合より低い。また、女性世帯主の方が男性世帯主の世帯より家計所得は大きく、貯蓄率も若干高い点も興味深い。

ただし、先行研究には、賃金の分析を行うと、賃金に対する負の女性効果を見出すものもある。これは、年齢や教育歴などの他の変数を統制してもなお、女性であることそれ自体が男性よりも賃金が有意に低いというものである(Yamauchi and Tiongco, 2013: Table 1.2)。この分析アプローチは、賃金労働に従事し、いくら稼いでいるか、という観察された賃金情報から、その男女差のみに注目している。そこでは、賃金労働に従事していない女性、つまり家事・育児や再生産領域における女性の貢献が加味されていない点には注意を要する。しかし、注目すべきは、女性の労働参加決定を考慮すると、そのような負の女性効果にはさらに上方バイアスがあるという点(ibid, p.197)である。

これに関して、表3にあるアンペイド・ワーク比率の女性の高さも懸念事項である。フィリピンでも伝統的にフェミニスト運動が展開してきたが、その一つの争点は家庭内再生産領域やそこから派生する女性の労働に対して対価が支払われないということであった。また、労使関係論や在野の社会運動からも、女性が雇用されづらい傾向、雇用されたとしても女性が男性とは異なる仕事を与えられる傾向、そして日本などが経験している問題と似ているが雇用主との雇用関係の不利さなどが提起されている。こうした事実からも、労働や貧困をとりまく女性の環境についての総合的な評価は慎重を要する点を強調しておきたい。

2. 海外移住労働の女性化

ところで、近年のフィリピンのイメージのひとつに「出稼ぎ大国」があろう。OFW(Overseas Filipino Workers、無理に訳さず「オー・エフ・ダブリュー」と呼んだ方がもはや自然であろう、以下便宜上単数形でOFW)という単語は知らなかったとしても、「ジャパゆきさん」に代表されるフィリピノ・エンターテイナーが昭和の時代から日本に入り込んでいたことを思い起こされる読者は少なくないだろうし3、昨今であればフィリピン人も多く参入する海外からのケアワーカー、看護・医療従事者が近未来の高齢社会日本にとって欠かせなくなるのではないかという議論を聞かれる方もいるだろう。エンターテイナーや看護・医療だけでなく、建設労働や、製造業、種々のサービス業の従事者、そしていまひとつ特徴的なものに船員(Seafarers)業もフィリピン人の海外就労者のなかで従事する者が多い。

実際、その傾向はFS2018の数字となって表れている。OFWとして働く人数はすでに女性120万人、と男性の104万人を超えている。しかも、FS2018から遡って2012年のFSからこの数字を時系列でプロットすると、2012年当初はまだ男性の方がOFWの人数は多かったが、その後は女性の人数の増加が加速し、2015年にほぼクロスしたと見るや、翌2016年からは女性の方が多いトレンドに移行している(図1)。男女ともにOFWが増えているが、特に女性のOFWが量的に増え、質的にも多様化し、個別家計や国民経済へもたらすインパクトが高まっていることを総称した海外移住労働の女性化(the feminization of overseas work)が更に進みつつある(Biason et al., 2012)。フィリピンの労働力あるいは人的資源の特徴として、相対的に高い英語力と国外社会への適応度の高さが挙げられる。さらに、政府は国をあげて、POEA(海外雇用、Philippine Overseas Employment Agency)というフィリピン人海外労働者や技能実習生の管理と送り出し機関に許可を下す専用機関を設置し、国家的に海外就労を支援していることも知られているかもしれない。

図1 OFWの男女別人数の動向(2012-18年)

図1 OFWの男女別人数の動向(2012-18年)

出所:PSA (2018)と、2012-2017年までのFS各年版(https://psa.gov.ph/gender-stat/wmf)より作成。

OFWによる収入はフィリピン国内の各家族へ送金され、その全体は重要な外貨獲得手段としてフィリピン国民経済規模の約一割を占めるに至っている。同じ労働であっても国外に出ればフィリピン国内で働いた場合の何倍も高い賃金が得られることを期待するフィリピン人も多い。かつて、ラニス・フェイモデルやハリス・トダロモデルといった経済発展理論があり、途上国の国内経済における「農村から都市へ」という労働力移動原理を定式化していた。こうした期待賃金仮説原理に基づき「国内から海外へ」と展開するような考え方は、種々の限界が指摘されてきたものの、今もなお国際労働移動を雄弁に説明しうる枠組みかもしれない。

OFWたちによってなされる送金(remittances)は、国内に残された家族たちにとって貴重な現金収入源になり、これが近年の消費主義の起爆剤の一つとなっている。一家にひとり、成功したOFWがいれば、本人が受入国で必要な生活費を引いた残りから、その一部を送金するだけでもなお、一家全員が食べていけるだけの現金を彼・彼女ひとりに頼ることも十分可能である。OFWによって一財をなした家庭では、農村部であろうとも周囲の住居群からは明らかに見た目のかけ離れた鉄筋コンクリート作りで、しばしば華美な色彩のペンキで塗られた「OFW御殿」が築かれるのも現地では有名な話である。OFW御殿そのものが一種の顕示的消費であるという点もさることながら、近所のOFW御殿をみて「自分もOFWに出たい」と思うようになる第二、第三の予備軍が刺激を受けるという波及効果の話についても、語り草としてよく聞かれる。

そもそも、国内労働市場が不完全であるという点も、OFW人気の拍車をかける。例えば、四年制大学を卒業してもなお定職に就けないリスクが高いのがフィリピンの国内労働市場の脆弱性である。英語を操り、学位も持っていながら、結局はそのようなスキルや教育歴がなくとも参入できたであろう職業・職種に従事せざるを得ないケースも少なくない。このような「報われる」就職口になかなかありつけない人びとを象徴する現地語の独特な単語まである。「タンバイ」というもので、もともとは「i-standby」(イ・スタンバイ)が短縮したものだそうで、英語の stand by(待機する、準備する)が語源である。教育歴や夢、俗にいう「こだわり」に見合う仕事が見つかるまで、その日暮らしや無職を甘受している若者たちを指す。しかし、「無職」なんていう否定的な語感でもなく文字通り「スタンバっている」のである。とはいえ、タンバイたちも、年齢を重ね、やがて結婚したり子ができたりするにつれて、一種の妥協を経て、タンバイへの郷愁を抱きつつもなんらかの仕事に落ち着いていくとされる。男性を指すことが多く、妻や子ができてもタンバイしている「つわもの」(?)も少なくないらしい。

「タンバイ」たちの中にも程度差はあり、無職を甘んじている者から、「仮の」「暫定の」仕事にとりあえず就きつつ機会を狙っている者など様々ある。「タンバイ」たちにとっても、就いた仕事に対してその後不満感を抱き始めた者たちにとっても、これまでの努力や成果が少しでも報われる先として海外での出稼ぎを見出すことは無理もない。「タンバイ」した先にOFWに出られた者と出られなかった者がいるとき、両者を分けるものは何なのか考えることも興味深い。女性のOFWでは、ケアワークや看護医療分野への従事が目立つ(Gaddi, 2012)。

加えて女性のなかでも母親が家族を離れて出稼ぎに出る場合、子の養育という問題も切実である。確かに、フィリピンの地方部には拡大家族制が残っており、母親や父親が不在となっても、祖父母やおじ・おばなどの親類が代わりの保護者となって養育にあたる、という見方がある。しかし、それは時にはやや楽観的な見方でもあり、教育学者らを中心とする研究チームによれば、母親が不在となった場合の子の教育や発達にもたらす悪影響が指摘されている(渋谷他、2010)。これを間接費用として長期的に考えれば、OFWによって直近の現金収入を期待できることと引き換えに、長期的・潜在的な負の効用を家族にもたらす点を総合的に考えなければならない。過熱化したOFWへのあこがれと、都市部から農村部にすらも拡大しつつある消費主義経済は、待ったなしに彼ら・彼女らをOFWへと駆り立てる。表3によると、FS2018の報告内容では、女性のOFWの最も多い年齢層は25-29歳なのに対して、男性は45歳以上である。男性は過去のFSをみると45歳以上の場合と30-34歳の場合があるが、それでも女性より遅い。こうなると、母親が不在で、父親と、周囲の縁戚のある大人たちが子育てをし、子は母親が近くにいない環境で育つ。子の年齢によっては、発達心理学的に最も母親に近くにいてほしい時期の一つに、そのOFWのタイミングが当たってしまうかもしれない。

初婚から第一子を持つ可能性が比較的に高い25-29歳という年齢層の女性たちが、家族から、そして母国から離れて働かざるを得ない背景、彼女らをそのように駆り立てる原動力、そしてそこから遅れて父親たちも出稼ぎに出ていく傾向に思いを馳せると、GGGIが映し出す「ジェンダー先進国」とは異なるフィリピン社会の側面が想像できる。(続く)

(2018年4月30日脱稿)

著者プロフィール

岡部正義(おかべまさよし)。ジェトロ・アジア経済研究所 海外研究員、フィリピン大学ディリマン校労働産業関係学研究科 客員研究員、フィリピン大学ディリマン校教育学研究科修士課程教育行政学専攻 講師(兼任)。開発経済学、教育経済学、家族経済学、国際教育開発学、フィリピン研究。主な著作に、"Gender-preferential Intergenerational Patterns in Primary Education Attainment" (International Journal of Educational Development, Vol. 46, 2016)、「フィリピン・ミンダナオ農村部における教育需要の持続性に関する社会経済分析」(『アジア研究』63巻1号、2017年)など。

脚注


  1. なお、GGGIの性質として、途上国か先進国か、あるいは、GDPレベルや人間開発指数などの経済社会開発・人間開発の度合いは加味していない点には留意する必要がある。他にもGGGIの留意点があるが本稿では割愛する。
  2. この傾向について過度な断定も危険でもある。例えば、当研究所の森壮也研究員を中心とする研究チームの一連の研究成果は、「障害と開発」という課題設定でフィリピンを見ると、女性の教育が厳しい状況に置かれている点を明らかにしている。
  3. 比較的最近に、当地で、ある女子大学生と日本のイメージについて話題になったときのことであるが、彼女は"It's the Japayuki-san!"と言ってきて、1980年代の表象が現在の大学生の口から聞かれたことに驚いたことがある。

参考文献


  • Biason, P. G.; F. M. Dionela; and S. Gonzaga. 2012. "The Feminization of International Migration among Overseas Migrant Filipino Workers (OFWs): Trends, Outcomes and Challenges." Philippine Journal of Labor and Industrial Relations 32, nos. 1-2: pp. 243-268.
  • Gaddi, R. S. 2012. "Deconstructing the Supply and Demand for Care Work: Some Policy Implications." Philippine Journal of Labor and Industrial Relations 32, nos. 1-2: pp. 215-242.
  • Philippine Statistics Authority (PSA). 2018. Women and Men FactSheet 2018. http://www.psa.gov.ph/sites/default/files/2018%20%20Fact%20Sheet%20Women%20and%20Men.xlsx (Retrieved on April 4, 2018)
  • 渋谷英章・長坂格・馬場雄司・木曽恵子・片岡樹・吉野晃・鈴木琴子. 2010. 『東南アジアにおける出稼ぎが農村の子どもの生育・教育環境に与える影響に関する研究』科学研究費助成事業(科研費)基盤研究(B)セミファイナル報告書。
  • Yamauchi, F., and M. Tiongco. 2013. "Why Women Are Progressive in Education? Gender Disparities in Human Capital, Labor Markets, and Family Arrangement in the Philippines." Economics of Education Review 32, pp. 196–206.