成長と公正の両立を求めて ——新しいブラジルの経験を中心に——

2013年11月18日 (月曜)
国連大学 ウ・タント国際会議場
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主催:ジェトロ・アジア経済研究所、世界銀行、朝日新聞社

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主催者挨拶

宮本聡  日本貿易振興機構副理事長

1980年代に債務危機を経験し大きな傷を負ったブラジル経済だが、年率千パーセント以上の高インフレという時代を乗り越え、新興国として今の地位を確立した。ブラジルは成長の一方で社会的な公正を実現するために様々な努力を行い、世界的にも注目される。「新しいブラジル」と捉えられる一方で、抗議デモや政治混乱などの問題も抱えている。ブラジルは新たな段階に入ろうとしているとの見方もできる。

2011年の日本の対ブラジル投資額が75億ドルと史上最高額を記録し、今年は前年を上回るペースで投資が増加しており、日本企業のブラジルへの関心は衰えていない。ブラジルでは国家プロジェクトの巨大海底油田プレソルトの開発が進められており、日本企業もプロジェクトで必要とされる船や採掘プラットフォームの建造などで協力している。ジェトロは、今年5月に日本の中小企業の海外ビジネス展開を支援する「中小企業海外展開プラットフォーム」をサンパウロで立ち上げ、現地ビジネスパートナー紹介など、一歩踏み込んだきめ細かなサービスを提供している。さらに、11月24日から29日まで、在米日系企業を中心とした企業ミッションをブラジル北東部のバイーア州に派遣し、ブラジルの地方のビジネス機会の発掘にも取り組む所存である。

日本におけるブラジルへの理解は必ずしも高いとは言えないが、本シンポジウムが、新しいブラジルを理解する貴重な機会になり、「経済成長と社会的公正の両立」という世界の各国が直面している課題について再考する一助となることを期待している。

宮本 聡 (日本貿易振興機構 副理事長)

宮本聡
日本貿易振興機構副理事長

塚越保祐  世界銀行東京事務所駐日特別代表

成長と公正の両立は世銀が取り組む主要テーマ。貧困は過去に比べて減少傾向。しかし依然として極貧に位置付けられる人々は存在し、そのうちの3分の1は子供だといわれている。また成長を実現した国では格差の拡大という問題に直面するケースも存在する。世銀では二つの目標を掲げている。ひとつは2030年までの極貧の撲滅であり、もう一つは繁栄の共有である。貧困は成長だけでは、なくすことができず、多面的な取り組みが必要。世銀ではこれらの目標を実現するために改革を進めている。一つは民間部門との協力、もう一つは世銀グループとしての組織的な取り組みである。世銀としてはブラジルのボルサ・ファミリアを支援、この経験をほかの途上国にも伝えるためのイニシアティブをとっており、40カ国で導入されている。ブラジルの経験から学び、南南協力を推進していく。

塚越 保祐(世界銀行東京事務所 駐日特別代表)

塚越保祐
世界銀行東京事務所駐日特別代表

市川速水
朝日新聞社ゼネラルマネジャー兼東京本社報道局長

今年6月のブラジルの抗議デモは紙面でも大きく扱った。ジルマ・ルセフ大統領の訪日が注視されたこともあり、重要なニュースであった。日本より高い成長率を記録している新興国ブラジルは、停滞する日本にとってまぶしい存在であった。抗議デモで国民が求めたのはインフレ抑制、教育や医療などであり、成長と公正の両立の難しさを日本に改めて気づかせてくれたのではないか。リーマンショック後、ブラジルをはじめとした新興国の景気対策で世界経済全体の減速も緩和され、世界経済をけん引する存在となった。ロバート・ゼーリック氏は各国で広がる失業率の増加を指摘、もはや一国の現象が世界的現象として連鎖する時代となった。日本や米国の緩和マネーがブラジルなど新興国に流出し、その結果新興国の通貨高を引き起こし、問題を起こしている可能性もある。つまりブラジルの問題と日本は無関係というわけではないのである。

市川速水 朝日新聞社ゼネラルマネジャー兼東京本社報道局長

市川速水
朝日新聞社ゼネラルマネジャー
兼東京本社報道局長

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