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成長と公正の両立を求めて ——新しいブラジルの経験を中心に——

2013年11月18日 (月曜)
国連大学 ウ・タント国際会議場
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主催:ジェトロ・アジア経済研究所、世界銀行、朝日新聞社

主催者挨拶  |  基調講演  |  パネル・セッション

パネル・セッション
報告1 調整局面のブラジル——グローバル環境の変化と諸制度改革を受けて——

堀坂 浩太郎  上智大学名誉教授

現在のブラジルは21年間の軍政と、その後29年間の民政により成り立っている。民主憲法の制定に加え、民主化後の政体として共和制と大統領制を国民投票という手続きを経て改めて確認した点は重要なステップであった。軍のシビリアン・コントルールも進んだ。制度改革を進めた結果「行政・立法・司法」、「連邦・州・ムニシピオ」という二つの側面でパワー・シェアリングが進み、合意形成に時間がかかるという弊害もみられる。ブラジルは今、調整局面にあるが、調整後のブラジルの強みとして挙げられるのは、第1に多人種・多文化国家としての社会的な統合、第2に大陸サイズの国の空間的統合である。この二つの統合を実現することにより、さらなる前進が可能になるのではないだろうか。

堀坂 浩太郎(上智大学名誉教授)

堀坂 浩太郎
上智大学名誉教授

報告2 ブラジルとメキシコ 経済グローバル化へのふたつの異なる対応

星野 妙子
ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センターラテンアメリカ研究グループ

メキシコは1982年の対外債務危機後、新自由主義経済改革、北米自由貿易協定(NAFTA)への参加、主要国とFTA締結を進め、世界への工業製品の生産輸出拠点となる発展戦略を採った。ブラジルも新自由主義経済改革を行ったが、メキシコは対外開放をより進め、製造業を重視したという点で大きな違いがある。現在の状況を比較すると、購買力平価による一人当たりGDPでメキシコはブラジルを上回っている。所得分配は両国ともに改善しているが、ブラジルのジニ係数は未だメキシコより高い。経済の輸出依存度で見るとメキシコはブラジルを上回る。しかし、輸出先ではブラジルの輸出相手国が分散している一方、メキシコは米国向けが8割と集中している。貿易品目を比較すると、ブラジルは工業製品が2000年頃まで増えてきたが、その後一次産品にシフトした一方、メキシコは逆に工業製品にシフトしている。

しかし、輸出品目の工業製品の割合を比較しただけでは両国の経済発展度を語ることはできない。なぜなら、たとえ工業製品を輸出していてもその製造工程はグローバル化の結果分断されており、メキシコはグローバル・チェーンの一部分を担うに過ぎない。またブラジルは一次産品に偏っているが、その市場は拡大し、製品も多様化一方、両国に見られる脆弱性としては、ブラジルが中国依存、メキシコが米国依存という特定国の景気変動に経済が左右される問題を指摘できる。両国の課題は外生経済ショックに耐えうる経済体制の構築であり、そのための制度改革の推進と、マクロ経済安定のための政策実施能力の向上であろう。

星野 妙子(ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター ラテンアメリカ研究グループ)

星野 妙子
ジェトロ・アジア経済研究所
地域研究センター
ラテンアメリカ研究グループ

報告3 ブラジルの社会保障と全国規模の抗議デモ

近田亮平
ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センターラテンアメリカ研究グループ

本シンポジウムのベースとなった昨年度の「新しいブラジル」研究会を組織した当初、経済成長と社会的公正の両立を実現した国としてブラジルを取り上げた。しかし今年の6月、全国規模の抗議デモが勃発したことは、成長と公正の両立の難しさを示唆している。政府は教育や医療などの社会インフラへのアクセスを整えたものの、その質は旧態依然で抗議デモを誘発する要因になった。新憲法は高い理想を掲げ、これまでブラジルで排除されてきた貧困層などを取り込む社会制度の整備が進められた。しかし、実際に構築されたセーフティ・ネットに不備が多く、国民の不満が広がった。抗議デモの要求は多様で、「パンドラの箱」を開けてしまったと捉えられる。社会秩序も悪化しており、政府は国民の立場に立った政策を打ち出す必要がある。国民を向いた政権運営が実現するかという点で、来年の大統領選挙が注目される。「新しいブラジル」を作った1988年憲法は、全国規模の民主化デモの結果出来上がったものである。来年の選挙で選ばれる新政権の姿勢如何により、今回の抗議デモを将来振り返った時、1980年代の民主化デモと同じくらいのインパクトがあったといえるかもしれない。

近田 亮平(ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター ラテンアメリカ研究グループ)

近田亮平
ジェトロ・アジア経済研究所
地域研究センター
ラテンアメリカ研究グループ

ディスカッション


モデレーター:平塚 大祐  日本貿易振興機構理事

(平塚)

アジアではCCTを導入した際にうまく機能しなかったという事実にふれ、なぜブラジルでは機能したのかという点や、6月に発生した抗議デモの問題を中心に、経済成長と社会公正の両立について基調講演者から発言願う。

(Canuto)

皆保険の一方で病院に患者のあふれる状況に関する指摘があったが、社会サービスに対する国民の需要と供給にギャップがある点は重要である。抗議デモに対してはあくまで私個人の解釈であるが、テレビで映るのはFIFA基準の素晴らしいスタジアムである。ところが医療サービスはそこまでのレベルではなく、スタジアムと同水準の医療サービスがほしいと感じているのではないだろうか。また、汚職により税金が十分に活用できていないという認識も国民は持っている。ただし、ブラジルの抗議デモは悪いニュースではなく、将来の政府にアジェンダを提供し、改革に対する圧力を与えるポジティブなメッセージとしても捉えられよう。現在のブラジルの主要産業は無駄が依然多く存在するため、生産性を上げれば更なる成長は可能であろう。付加価値の小さい組立製造業と比べ、一次産品輸出が非近代的だということはない。ブラジルの農業は高度な技術を有しており、一次産品といえどもその発展を無視すべきではない。また、公共投資をより優先順位の高いものに振り分けることを国民は求めている。

CCTを実施するためには国として条件・制度を備えていなければいけない。具体的には、国としてCCTをするための登録制度の整備やCCTの実施機関の存在、CCTを引き出すためのATMシステムの整備、CCTのモニタリングなどが挙げられる。CCTに関してラテンアメリカのモデルから学ぶべき点が多く、メキシコやブラジルから、アフリカ諸国などにCCTは広がった。ただし、国によって上手くいかない要因には、上記の制度的な問題に加えて文化的なもの(例えば所得移転に依存しすぎる懸念)もあるかもしれない。

(Levy)

成長と社会公正の両立は難しい問題だ。抗議デモの切っ掛けとなったバス運賃の値上げも、実施しなかったらその損失をどこかで補てんしなくてはならない。私が懸念しているのは抗議デモが主張した高いレベルの要求に政府がコミットしてしまい、それらを実現できなかった場合、更に抗議デモが広がるという悪循環である。抗議デモの要求のみで政策のプライオリティを決めるべきではない。中央政府は財政的な制約があるにも関わらず、政策に間違った優先順位をつける傾向にある。ブラジルでは年金の受給年齢が低く、今の制度では自分が支払った保険料以上の年金を受給できる。また、汚職による金額は国家予算から考えればごくわずかである。したがって、私は社会保障制度の改革の方がプライオリティの高い問題だと考える。

(Bugarin)

CCTに関しては、それが機能するためには社会的な線引きが必要であり、何よりも政策対象である貧困層の削減を目的にするべきである。ブラジルの新中間層はまだ、政府依存型の所得構造の人が多い(つまり底辺の層が厚い釣鐘状の所得構成)が、重要なのは新中間層が生まれたという事実であり、そこを強調したい。ブラジルの選挙では投票は義務であり、多くの貧困層や新中間層が新たな政治アクターとして登場してきた。抗議デモによって市民が政府に要求を突き付け、「我々は見てるぞ」というアピールをすることは良いことであり、それが新たな変化を生み、次の改革へのステップとなるであろう。

(平塚:モデレーター)

議論を踏まえて、パネル報告者から発言願う。

(堀坂)

歴史的な見地に立ちブラジルがどういう方向に進もうとしているのかしっかり捉える点が重要である。現在は、これまで積み重ねてきた制度改革をベースにコンセンサス形成のメカニズムを作る調整段階にあるといえる。ブラジルは大きな国をまとめていく手段として民主主義と市場経済を選択した。新しい力として市民も育っている。今後は、社会統合と同時に空間的統合を促すためにインフラ整備などに注力することが求められる。

(星野)

メキシコは悲観主義の国であるのに対して、ブラジルは楽観主義の国と認識している。しかし本日の議論により、ブラジルの現実主義的な側面を垣間見ることができた。

(近田)

いまだ急進的グループによる抗議デモが続いている。来年の大統領選挙が今後のブラジルの方向性を決めるターニング・ポイントになる可能性があり注目したい。

パネル総括・閉会の辞

平塚大祐  日本貿易振興機構理事

CCTの導入にはその基礎条件が整っていないと効果が出ない点、すなわち、ガバナンスやアクターの存在が重要である。ラテンアメリカの産業や企業に関しても議論を深めたかったが、次回以降のテーマとしたい。アジア経済研究所として、今後も研究会で得られた成果をこのような形で普及していくことに努め、国民に価値ある情報を提供していきたい。

平塚 大祐(日本貿易振興機構 理事)

平塚大祐
日本貿易振興機構理事

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