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開催報告

アジア経済研究所オンライン講座
連続オンラインセミナー 「途上国の環境問題を多様な分野から理解する」
第3回「環境と国際制度」(2022年12月8日(木曜))

アジア経済研究所では、地域研究、開発経済、法・制度、国際交渉・国際協力など様々な観点から、『環境』というテーマに取り組んできており、2022年10月から12月にかけて『途上国における環境問題』をテーマとした全3回のオンライン連続セミナーを開催しました。

このページでは、第3回「環境と国際制度」における講演の要旨を公開しています。ぜひご覧ください。

趣旨説明
(小島道一(ジェトロ・アジア経済研究所 新領域研究センター 上席主任調査研究員))
  • 環境連続セミナーの第1回では脱炭素・気候変動、第2回では循環経済、特に国際リサイクル、国際リユースを取り上げ、問題の背景や対策等について議論した。
  • 第3回では、海洋資源、化学物質、農産物、海洋プラスチック、越境水資源管理と、異なる環境問題を取り上げて、それぞれの環境問題の特徴を踏まえつつ、国際的な取り組みがどのように進んできているのか、対応の仕方がなぜ異なるのかについて、議論したい。
「海洋資源保全のための国際制度―違法・無報告・無規制(IUU)漁業対策を通じて」
(箭内彰子(ジェトロ・アジア経済研究所 新領域研究センター 法・制度研究グループ 研究グループ長))
  • 需要の高まりなどにより世界全体として水産物の生産量は増加しているが、天然魚の生産量は横ばいであり、増加分は養殖業が担っている。このまま養殖中心に移行していけばよいという単純な構図ではなく、養殖業によるマングローブ伐採や海への化学物質の流出など環境問題もある。日本は事情が異なり、1990年から1995年くらいをピークに漁業生産量が急速に減っている。
  • 漁業資源の保持可能レベル上限まで漁獲したり過剰漁業状態が増えたりしたため、漁業資源の持続可能性が低下している。また赤潮や酸性化など海の健全性低下により、魚の再生産機能も低下している。
  • IUUとは、Illegal(違法)、Unreported(無報告)、Unregulated(無規制)の意味で、それぞれ、禁漁区や禁漁期に漁を行うなどの違法な漁業、漁獲量や操業場所の無報告や虚偽報告、公海で無国籍船などが規制を逃れて行う漁業、を意味する。1990年代以降、各国政府や国際機関による漁業資源管理が強化されたものの、そのような資源管理をすり抜けるIUU漁業が脅威となり、資源の持続可能性は低下し続けている。
  • 水産物のフードチェーン上には、旗国(船籍国)、領海権を持つ沿岸国、水揚げする寄港国、輸出・輸入国、消費地である市場国など、複数の管理担当国がありかなり複雑。フードチェーン上に抜け道があるとIUU漁業由来の水産物が入り込んでしまう。
  • IUU漁業対策のため国際機関や国際会議が1990年代初頭から様々な対応をしてきたが、殆どが法的拘束力のない宣言や行動指針であった。IUU漁業に特化した拘束力のある国際条約としては、2016年発効の違法漁業防止寄港国措置協定(PSMA)があるのみ。
  • EUは2010年にIUU漁業規則を施行。EU市場で流通する海洋漁業水産物に関して、漁獲証明書の発行を義務付け、非協力的第三国からの水産物輸入規制など、EU圏内での罰則を含む。EUに水産物を輸出している国の漁船も対象となる。EUの働きかけにより、日本とアメリカもそれぞれ2020年と2018年にIUU漁業を規制する国内法を導入した。
  • 国際条約や国内法といったハード・ローだけでは対応しきれない側面があり、IUU漁業対策として民間認証制度が活用されている。また、水産物のトレーサビリティに関する民間スタンダードもある。認証の数が増えているため、認証を一元化するようなベンチマークも作られている。法的拘束力の無いソフト・ローがじわじわと拡大し、ハード・ローと補完しながらIUU漁業包囲網として機能しているのが特徴的。
「規制と民間認証の国際制度への展開―化学物質と農産物を事例に」
(道田悦代(ジェトロ・アジア経済研究所 新領域研究センター 主任調査研究員))
  • グローバルな環境問題への対応として、国際環境条約の締結によって国際的に制度を広げていく、ということが行われている。国際条約の批准後、国内法が制定され、国内で制度が実施されていく。
  • 条約が制定されていない環境問題では、国際制度が展開される方法として、政策波及や制度波及がある。政策波及とは、条約がない分野でも、他国が政策を自主的に導入し、政策がグローバルに広まることを指す。国の政策だけでなく、民間認証やスタンダードも波及の一つ。
  • 波及には市場主導のメカニズムが働いている。先進国の大きな市場で厳しい基準が入り、他国のサプライヤーにその順守を要望すると、サプライチェーン上に波及していく。多くの場合、波及元は欧州であり、日本を含むアジア・アフリカがそれに追従して導入している。
  • 化学物質に関しては、オゾン層破壊物質に関するウィーン条約や、有害化学物質に関するロッテルダム条約などがあるが、製品中の化学物質については条約が無い。各国毎に化学物質規制を行ってきた。
  • 2003年にEUが化学物質規制(RoHS指令)を出した。企業や国にとって環境規制はコストと考えられてきたが、RoHS指令は規制を通じたグローバルガバナンスの実現という考え方を導入した。これは価値の輸出でもあり、価格競争脱出のための産業政策でもあり、グローバルな影響をもたらした。
  • 政策・制度追随国の動機には、学習(他国の経験を適用)、模倣(理念に賛同して模倣)、競争(市場アクセスを容易にするため導入)、強制(他国の政策を受け入れざるを得ない状況)などがある。
  • 持続可能性スタンダードや認証に関しては、強制的/自主的なもの、公的/民間によるものがあり、途上国由来の農産物が環境破壊や人権問題を起こさないようにするため導入される。先進国の大量消費が、先進国と比して規制が弱い途上国の環境負荷になることを防止/改善する意図がある。
  • 生産国の環境・人権を守るために消費国が規制を作ると内政干渉になるが、民間基準の場合はWTOの関与が難しい。また、サプライチェーン上のB2Bの関係で品質管理・リスク管理をする、製品差別化によりB2Cでアピールする、規制より柔軟な制度設計ができる、マルチステークホルダーによる多様な視点が入れられるなど、民間基準は使い勝手が良い。
  • 政策・制度波及のメリットには、条約締結の場合と比して実施の可能性が高まる、という点がある。デメリットとしては、実施が困難な国がこぼれ落ちていくこと、また民間の場合、中小企業や小規模生産者はサプライチェーンから排除される恐れがあること、などが挙げられる。
  • 規制も民間認証も境界が曖昧になってきている。民間認証が政策に利用されたりもしているが、民間認証が十分な役割を果たしていないのではないかという議論もあり、EUでは規制政策回帰の動きもある。この分野は動きが早いので、引き続き注視していく必要がある。
「海洋プラスチックをめぐる国際協力と制度」
(小島道一(ジェトロ・アジア経済研究所 新領域研究センター 上席主任調査研究員))
  • 環境中のプラスチックが海洋の生態系に影響を与えていることが、環境問題として認識されるようになった。まず、2011年に地球環境ファシリティの科学技術アドバイザリー・パネルが、海洋プラスチックごみの生態系への悪影響について、新たな取り組みが必要であると指摘した。また2015年に世界各国の海洋プラスチックの寄与量を推計した論文が雑誌Scienceに掲載され、2016年にはダボス会議でも海洋プラスチックの問題について取り上げられた。2022年3月には、プラスチック汚染に関する条約に向けて国際交渉を始めることが国連環境総会で決議された。
  • 日本は2018年のサミットで「海洋プラスチック憲章」に署名しなかったことで国内外から批判され、その頃から関心が高まった。翌年のG20首脳会合では、日本は2050年までにプラスチックによる新たな海洋汚染をゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の共有に合意した。
  • 2015年のJambeck et al.の論文における、廃プラスチックの海洋への国別流出量推計では、途上国からの流出量が多いとされており、多い順に中国、インドネシア、フィリピン、ベトナム、スリランカと続いている。プラスチックの利用量が増加する一方で、廃棄物処理が追いついていないため。
  • 2021年のMeijer et al.の論文では、河川ごとのプラスチックの流出量を推計したが、Jambeckの推計より約10分の1程度の量とされている。但し、流出量は多い順にフィリピン、インド、マレーシア、中国、インドネシアとなっており、途上国からの流出量が多いという推計になっている。
  • 東南アジア諸国でも報道されるようになり、認識が高まってきた。中国、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナムでは、法令での言及や行動計画をつくるなどの動きが見られる。日本からの国際協力も実施されており、環境省が「東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)」に資金拠出し、2019年にRegional Knowledge Centre for Marine Plastic Debrisが設立された。
  • プラスチック汚染対策に関する国際条約にはロンドン条約、MALPOL条約などがあり、海へのゴミ投棄は禁じられている。但し、既存の国際条約では、陸域から海洋へのプラスチック流出防止は義務付けられていない。また、廃プラスチックのリサイクルや適正処分についての国際条約もない。
  • プラスチック汚染に関する国際条約の交渉が2022年11月28日から12月2日にかけて始まり、オンラインを含めて160か国から2300名が参加した。2024年末までに5回開催される予定であり、次回は2023年5月にパリで開催予定。
  • 課題としては、(1)環境への流出量が正確には分かっていない、(2)途上国からの流出量が多いとみなされているが、途上国の予算では対応ができないため支援が重要、(3)特定製品の規制や代替素材の使用を義務付けられるかどうか、がある。プラスチックの生産・使用の抑制、リユースやリサイクル、廃棄物の収集や処分、環境中からの回収など、複数の対策に取り組んでいく必要がある。
「越境水資源管理に関する国際制度のダイナミズム―メコン流域の事例」
(大塚健司(ジェトロ・アジア経済研究所 新領域研究センター 環境・資源研究グループ 研究グループ長))
  • メコン河は中国のチベット高原から雲南省を通ってミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムを流れる国際河川。雲南省でのダム開発、下流域のダム開発や都市開発により流域環境が改変され、人々の生活に大きな影響が出ている。下流域では干ばつが頻発しており、2019年の干ばつの原因をめぐって中国と下流諸国の間で論争が起こった。干ばつの因果関係をめぐる論争が、どのように協調的な国際制度の構築につながったのか、科学的なエビデンスが政策にどのように影響を与えるのかについて見ていきたい。
  • メコン流域の越境水資源管理に関する主な国際制度には、国際水路条約(メコン流域ではベトナムのみ批准)、メコン川委員会(MRC。タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムによって発足。中国とミャンマーは未加盟)、瀾滄江―メコン河協力メカニズム(LMC)等があるが、包括的な国際制度は不在。
  • 2019年の干ばつに関して、下流国は中国のダム開発が原因と主張し、中国は反発。このような中、米シンクタンクStimson Center(SC)がEyes on Earth(EoE)のリモートセンシングのデータ分析によるレポートを、ウェブサイトやメディアなどを通じて発表した。EoEを根拠にしたSCの主張は、中国のダム運用が下流の水位を不規則かつ破滅的に変えている、というもの。
  • しかしMRC等が、EoEのレポートは科学的な信頼性に欠けると批判した。MRCは独自の水文データを用いて検証した結果、干ばつは異常気象が影響しており、流域国と中国は情報共有を進めるべきと提言。豪研究チームは、EoEの分析が古いデータに基づいていることを批判しつつ、人工衛星データを使って越境流域の水文状況を独自に捉えることの可能性を評価した。中国・清華大学の研究チームは論文で、干ばつは降雨量の減少が原因と指摘し、ダムの共同運用や予報システムの共同研究を提言した。中国とアメリカの外交筋の間では論争となった。
  • 中国は瀾滄江の水文データを一部しか提供してこなかったため、それが下流諸国との信頼関係構築の阻害要因となっていたが、一転して2020年から通年リアルタイムでの水文データの提供を開始した。EoEのレポートに基づくSCの主張が、メコンでの米中対立という「意図せぬ影響」をもたらし、「語られぬ動機」によって中国が水文データの共有について下流諸国に歩み寄るようになった。
  • 科学と政策のインターフェース(SPI)において、科学的なエビデンスが政策に繋がるという単線モデルと、産業、世論、メディア、議会などが絡み合って政策が出来ていくとする共創モデルが考えられるが、共創モデルはメコンにおいて重要。気候変動ではIPCCのような独立した科学者のプラットフォームがあり、エビデンスが積み重ねられて政策形成に影響を与えている。豪研究チームは、メコン流域の越境水資源ガバナンスについても、IPCCのような経路をつくったらどうかと提言している。MRCは科学的コンサルティングおよび連携のハブとして機能する可能性がある。MRCを中心とした共創モデルによるガバナンスに舵を切っていくことで、越境水資源管理をめぐる国際制度をより包括的かつ効果的なものにできるかもしれない。
パネルディスカッション
(モデレーター:鄭方婷(ジェトロ・アジア経済研究所新領域研究センター 法・制度研究グループ))
  • (鄭)既存の越境環境問題の比較として、登壇者の間で、海洋資源保全、化学物質(含有規制)、農産物(認証)、海洋プラスチック、越境水資源、気候変動のそれぞれについて、財の性質、先進国と途上国の発生・対処義務に関する違い、科学的知見、適切な処理のあり方、合意の性質・法的拘束力の有無について整理した。
  • (鄭)環境問題を解決する国際制度の形成には、問題の発生源特定や責任帰属、解決方法についての関係者の受け入れが重要だが、簡単ではない。
     例えば気候変動では、COP27でロス&ダメージ(損失と損害)を巡って資金支援メカニズムが合意された。気候変動がもたらした途上国での損失・損害は誰が償うのか、形式上の合意はされたが、具体的な交渉はこれからとなり、今後は途上国と主な排出国の間の対立になると見られる。
     パネリストのそれぞれの分野で、原因の特定、対処責任、解決方法の受け入れに関し、関係国の間で対立がみられているか?もし対立がある場合は緩和につながる要因にはどのようなものがあるか?対立が見られない場合どのようなメカニズムが働いているのか?
    • (箭内)海洋資源保全を持続可能にするための合意形成と、IUU漁業への対処についての合意形成では様相が異なる。漁業が主要産業の国はあまり管理されては困ると考えており、海洋資源保全に関しては合意形成が簡単ではないが、IUU漁業規制に関しては基本的にすべての国が共通の国際問題として認識している。また、漁業大国には途上国が多く、途上国・先進国という立てつけで議論するのは難しい。WTOで漁業補助金交渉が20年間続けられようやく合意に至ったが、継続交渉の議題も多くあり、完全合意までの道のりは長い。ただIUU漁業に関しては責任の所在が寄港国や旗国などで大体決まっているので、条約化・法制化は合意しやすいと思われる。
    • (道田)農産物の認証では、途上国と先進国の間で対立がある。農園開発による森林伐採や木材利用は、利用を進めている途上国側の問題とも言えるが、先進国が途上国の森林資源を使って経済成長をしてきたという経緯もある。これまでは小売業者が調達先の農園まで行ってきちんとできているか確認してから調達してきたが、民間の小売業者がサプライヤー、加工業者、農園企業などに認証取得を要求するようになった。認証取得が農園やサプライヤーの責任となるため、途上国の農家は反発している。今まで先進国が森林破壊をしてきたのに、伐採を止めようとなった時に、途上国側が認証のコストを払わないと輸出出来ない、ということに反発がある。途上国では自ら認証を作ろうという動きも見られる。民間の取り組みでは、誰に責任があるかを議論せず、市場メカニズムとして誰がコスト負担するかが決定されている。
    • (小島)プラスチックの海洋への流出では、途上国からの流出が多い。先進国は廃棄物処理・処分をしっかりしているので流出量が少ない。責任の所在についてはプラスチック自体の生産者、プラスチックを使った商品の生産者、消費者について考えられるが、廃棄物処理については政府のサービスも関わっているので、どのアクターに責任を負わせるかは非常に難しい問題。プラスチックの代替もあるが、プラスチックでしか作れない製品もたくさんある。途上国が発生源になっているものの、途上国に厳しい制約はかけにくいため、どのように途上国を支援して流出量を減らせるかが大きなポイントになる。
    • (大塚)中国が下流諸国とのデータ共有を進めることになったという話をしたが、中国が開発したダムの下流諸国の生態系への影響については、責任を問うておらず棚上げになっている。SCは干ばつの原因を巡って中国に責任があると主張したが、中国と下流諸国の間での責任のあり方と、アメリカによる責任追及は異なる。責任を追及することが国際制度の構築にプラスになるのかマイナスになるのか、非常に難しい問いを投げかけた事例だった。上流国の中国と下流諸国との対立では、中国のダムによる水量の変動が予測できなくなったことが、不信の大きな要因だった。情報共有が対立の緩和につながった。
  • 2022年6月、WTOで漁業補助金協定が締結されたが、本協定の効果を、持続可能性の観点からどのように考えるか?
    • (箭内)20年来議論されてきた漁業補助金が合意されたが、半分くらいの項目についてのみ先行合意という形。IUU漁業につながるような補助金や、乱獲状態にある資源に関する漁業への補助金は禁止という点では合意に至ったが、過剰漁業につながる補助金については合意に至らなかった。どういう状態を乱獲状態や過剰漁業と呼ぶかは沿岸国が判断することになっている。補助金をやめただけでIUU漁業が撲滅されるわけではない。臨検などの法制化も効果があるがトレーサビリティの強化など、民間認証も組み合わせて対処すべき。
  • EUがより規制へと動いていくという紹介があったが、もう少し詳しく具体的な農産物への適用などについて説明をしてほしい。
    • (道田)パーム油の民間認証はEUの規制の中でも使われてきたが、この認証のグローバルなシェアは2割くらいで止まっている。認証の需要者が先進国に限られている一方、パーム油の輸出先では中国、インド、アフリカが増えている。これらの国で認証の需要はそれほど大きくない。コーヒーやカカオなどの民間認証も似たような状況になっている。認証が広がらないため、EUでは規制の方向へと揺り戻しが見られる。EUではRegulation on Deforestation-Free Productsが導入されることが決まり、対象は大豆、家畜、パーム油、木材、カカオ、コーヒー。これらと、これらを原料とした派生物に関して、合法で森林破壊を起こしていないものだけをEUに輸入できるという規制。人権デューデリジェンスとともに、森林破壊についてもデューデリジェンスとして、企業の責任として課されることになる。
  • 各製品に対して各国規制に対応するメンテナンスに苦労している。全世界的に統一されると非常に良いが、良い対策はないか。
    • (道田)化学物質規制が国によって異なることをフラグメンテーションと呼ぶが、グローバル化の社会の中では非関税障壁であり、問題である。その一方で、政策波及の意図によって、どういう仕組みが各国で波及するかが異なってくる。マーケットアクセスが重要であれば輸出先のマーケットに合わせるような基準になるが、自国の生産者の対応が難しい場合は、より自国にチューニングした制度を作る必要がある。既存の政策との整合性が必要な場合は、各国の状況に合わせた制度が作られていく。EUだけでなく中国の市場も目指したい場合は、どちらの市場に合わせるのか、という問題もある。従って、規制がハーモナイズするという見通しが持てない。食品安全に関するグローバルな消費財業界団体であるCGF(Consumer Goods Forum)が運営母体であるGFSI(Global Food Safety Initiative)という会議で、民間基準がハーモナイズされた例はある。
  • EUが主導的に基準を決めて、取引のある日本企業はそれを受け入れざるを得ないという状況の中で、なぜ日本はもっと率先して野心的な規制を導入し、それを国際的に提案しないのか。
    • (道田)個人的な観測だが、厳しい基準を入れるのは、大企業にとっては有利だが、中小企業にとっては厳しいことなのではと思う。基準や規制の導入について科学的議論も必要と思われる。
  • 廃プラスチックの流出量が正確にわかっていないという課題に対し、最近の研究・開発で、より良い測定方法に関する提案はあるか。
    • (小島)川からどれだけマイクロプラスチックが流出したか、海にどれだけマイクロプラスチックがあるかについては調査がされていて、調査のハーモナイズのためのガイドラインもある。ただ川や海で測ったものだけでは全体の流出量は推計できない。廃棄物をどれだけ処理できているか、廃棄物中のプラスチックの割合はどれほどか、というデータも推計に必要だが、廃棄物のデータがきちんととれていない国も少なくない。また、データは容器包装のプラスチックが中心で、家電のプラスチックや、衣服の繊維に含まれるプラスチックが洗濯水で流れ出る分については、推計に含まれていない。
  • 将来船舶に海洋プラスチック回収装置の搭載を義務付けることについて、国際会議で議論されているか。今後議論される可能性はあるか。
    • (小島)国際条約に向けた議論が始まったばかりで、回収装置を搭載すべきかどうかという議論はまだ聞いていない。プラスチックを回収する場合に、微生物を含め海洋の生態系に影響が出ないかを考えなければいけない。プラスチックだけを回収できればよいが、プランクトンなども含め海洋生態系に影響が出ないか、懸念されると思う。海からプラスチックの回収をしなければならないという点では重要だが、義務付けられるかどうかはまだわからない。
  • 科学的知見の質を高めるために、どのような努力が必要か。
    • (大塚)メコン流域の干ばつに関する、科学的な因果関係の論争を巡って出てきた参照モデルはIPCC。但しIPCCについては様々な評価があり、うまくいった、うまくいかない、と一言で言うことは難しい。何がどこまでわかっていて、何がわからないのか、がはっきりしないこと自体が問題。中国の影響だという主張もあれば、時間軸を伸ばして考えれば気候変動の影響だという主張もある。2019年の一つの事象が、果たして気候変動の影響だと言えるかは、立証が難しい。何が分かって何が分からないのかを、確からしさという形でグレード分けして共有していかないと、対策が有効なのかもわからないし、責任の所在についても堂々巡りになる。メコン流域で関係者の知見を集めるフォーラムが必要なのではという議論を始めている。

※肩書および解説はすべて講演時点のものです。

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