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海外研究員レポート

日中のスマート製造分野の官民交流の模索

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050347

岩永 正嗣

2018年2月

製造部門のスマート化を目指す日中

近年、中国は「中国製造2025」や「Internet+」といった戦略の下、製造業の構造転換と高度化を政策目標に掲げ、製造業の「大国」から「強国」への転換を急いでいる。その中でも、イノベーション促進、ハイエンド化などと並んで、ICTの発展、労働コストの上昇が進む中で、製品の品質向上の要請の高まりをも受けて、足元で特に力を入れているのが、「智能製造」(スマート製造)である。

一方、超スマート社会「Society5.0」の実現を目指す日本においても、モノとモノが繋がるIoT(モノのインターネット)だけでなく、人と機械・システムが協働・共創することでこれまでにない付加価値を創出するいわゆる「コネイン」“Connected Industries”の実現を図っている。

こうした中、日中の関連産業界が協力の可能性を探っていくことは、両国の製造部門の生産性の向上、そして新たな段階での産業の発展にも資するものと考えられる。

しかしながら、近年、日中関係の悪化などを背景に、こうした産業分野毎の日中の官民協力は積極的に行われてこなかった。一方、欧米諸国や韓国はこの分野での中国との官民の協力を積極的に進めてきている様子である。

日中の協力はこうした流れに乗り遅れた形であるが、両国関係に改善の機運が高まっている現在、スマート製造の分野についても官民協力を模索してはどうか。こう考え、小職が所属する日中経済協会は、2017年夏から中国政府・工業信息化部の対日協力担当副局長に呼びかけ、官民の「日中スマート製造交流セミナー」を開催することで合意。その後、工業信息化部は「中国電子信息産業発展協会(CCID)」を中国側主催機関として指名。日本側は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と協力で、経産省の参与も得つつ、同セミナーの実現を目指すこととなった。

スマート製造交流セミナーで目指すもの

一口に「スマート製造」と言っても、その定義は必ずしも定まったものではない。企業におけるスコープや技術開発の方向性も様々であり、中国政府部内の体制も明らかではない。そうした中、日中双方の官民の各プレーヤーが、具体的に問題意識や自らの強みを提示し合うことにより、相互理解を深め、今後のビジネスあるいは政策当局間の協力の端緒としたい。これが本セミナー開催の大きな狙いである。

中国側で本事業の主催者となる中国電子信息産業発展研究院(CCID)は、中国工業信息化部直属の科学研究事業組織であり、2000人以上の職員を擁し、設立20年来、政府及び企業向け研究コンサルティングや評価認定、メディア広報、技術研究開発等を実施している。中国とドイツのこの分野の協力枠組である「中独スマート製造連盟」の中国側事務局でもあり、この分野の交流には多くの実績を有する組織である。

セミナー開催に向けた日中の対応

中国側との度重なる調整を経て、セミナー開催日を2017年12月11日とし、10月からCCIDと共に本格的に会議の準備に入った。

そもそも「スマート製造」は、その定義からして不明瞭である。日本側としては、ICTを活用しつつサプライチェーンの全体を経営的な立場から見渡し、生産体制の抜本的な改善を狙う形で幅広い事業展開を行っている企業から、新技術を用いた工業内での生産ラインの自動化の実現に重点を置いた企業まで、スコープやアプローチの異なる企業5社にプレゼンを依頼した。

一方、中国側参加者については、スコープや開発の方向性も異なるであろう中国側の「スマート製造」の捉え方や政府の関与の仕方を把握する機会ともすべく、まずは中国側主催者であるCCIDや工業信息化部に参加者の選定を委ねることとした。

CCIDが直ちにスピーカーとして登録した企業は、三一集団、瀋陽工作機械、ハイアール、北汽福田汽車の4社であった。瀋陽工作機械については、製造設備におけるICT活用を通じたスマート化、すなわち日本側と同様にソリューション提供側の立場と思われたが、その他の3社については、ソリューション提供側であるのか、むしろスマート化により製造工程をアップグレードした成功例として、日本側参加者に対するユーザーとしてのマッチの可能性を意識してのものなのか判然としなかった。

その後は、日本側も若干のスピーカーの追加、調整を行う一方、中国側から日本側のニーズを聞きたいとのリクエストがあり、参加企業から募った結果、「美的集団」と交流してみたいとの要望があったため、これを申し入れた。

最終的に、中国側は、政府からは工業信息化部装備工業司が参加した。日本側が経済産業省製造産業局の対応となっていることに合わせた可能性も無いとは言えないが、「スマート製造」と広く捉えた場合には、生産設備製造に関する部門が担当するといことであろう。また、企業は、北汽福田汽車は取り下げられ、日本側が要望した美的集団が追加された。北汽福田汽車(FOTON)は商用車製造の大手であるが、当初候補に挙がった理由は明確ではない。

セミナーの概要
政府代表等

セミナーには、日本側からは政府代表として経済産業省製造産業局・及川洋審議官、中国側は工業信息化部装備工業司・銭明華副巡視員が出席した。

及川審議官は、基調講演として「“Connected Industries”実現に向けた日本のスマート製造の取組」と題し、モノとモノがつながるIoTに限らず、人と機械・システムが協働・共創することでこれまでにない付加価値を創出するConnected Industriesとその実現に向けた取組の一つであるスマート製造に関する取組を紹介した。デジタル経済の進展が世界的規模で進む中、我が国製造業においてもデータの利活用の重要性が増加。サプライチェーン上で、全体がつながった「ものづくり」を実現するため、特に鍵を握る中小企業を含めた取組の重要性が指摘された。

銭副巡視員は、スマート製造は「中国製造2025」に定められた主たるターゲットであり、中国製造業のアップグレードの鍵となるものであるとしつつ、「国家スマート製造標準体系指南」を発布し、188の基礎標準、業界標準を整備しつつあること、206のモデルプロジェクトを定め普及を図っていることなどを紹介。本セミナーが日中協力の新たなプラットフォームとなることへの期待を表明した。

中国側基調講演

中国側基調講演を行った中国機械工程学会知識中心・林雪萍副主任は、中国の政策動向やモデルプロジェクトの内訳等の分析(図1)、中国における各種機関の取組、マーケットの規模(図2)等、幅広い説明を行った。特に、中国のスマート製造に関するシンクタンクの中核を為す中国工程院が12月初めに打ち出したスマート製造発展の3段階として、「人」「情報」「物理的系統」の3つの柱の融合プロセスを説明(図3)。2年前までは「無人工場」、「無人化」を追及してきたが、最新の考え方においてはやはり「人」が前面に出るとして、及川審議官の説明に対する共感を表明した。また、国際協力の典型例として、ドイツとの協力枠組を紹介。中独は、Industry4.0協力を進めるための「中独協力行動要綱」を発表。「中独スマート製造連盟」を設立するとともに、政府間において、副大臣級、局長級、実務レベルの3つの階層からなる枠組を構築(実務レベルは中国側においてはCCIDが担当する)。標準協力に加え、産業、標準、モデル工業団地、人材育成の4分野におけるモデルプロジェクトを進めているという。

図1 中国のスマート製造マーケット

図1 中国のスマート製造マーケット

(出所)2017年11月CMISIC.

図2 中国のスマート製造パイロットプロジェクトの政策要素
(2016年の工業信息化部パイロットプロジェクト206件の内訳)

図2 中国のスマート製造パイロットプロジェクトの政策要素

図3 中国工程院によるスマート製造の基礎理論(2017年12月)

図3 中国工程院によるスマート製造の基礎理論(2017年12月)

(注)図中の「授人以魚」、「授人以漁」とは老子の格言「授人以魚不如授人以漁」
(魚を与えれば一日の飢えをしのげるが、魚の釣り方を教えれば一生の食を満たせる)」を表す。

企業による取組例

セミナーでは、日中から各5社、計10社がそれぞれの取組等についてプレゼンを行った。 各社の講演内容を通じて、そのスコープや技術の違い、共通点が浮かび上がった。特に、日本側企業においては、人とIT、機械の連携の重要性を指摘するとともに、また、現場での分析、対応を行う「エッジコンピューティング」に重きを置く声が多かった。

一方、中国企業は、生産設備をネットで繋げる取組等だけでなく、製品ユーザーの利用状況等に関するITを活用した情報収集・分析・利活用を紹介する向きも目立っていた。中国側の方が、製造あるいはサプライチェーン全体のITを活用したソリューション提供というよりも、ICTを使った自社製品に対するアフターケアを含めた捉え方をしていることが見て取れた。

以下、特に中国側プレゼンの概略を紹介する。

(1)ハイアール家電産業集団スマート制造・孫明副総経理

  • ハイアールの提供するプラットフォーム“COSMOPlat”は3.1億人のユーザーを有し、冷蔵庫、洗濯機など商品からユーザーの情報・ニーズを収集。リアルタイムで利用者のニーズに基づいた商品開発を行うなど高精度なものづくりを実現できる。
  • ユーザーがどのように冷蔵庫・洗濯機等を使用しているかを全て把握でき、電気代の節約方法等のソリューションをユーザーに提示可能。商品一つ一つが情報収集器に。さらにこれらソリューションをAIで自己学習する。
  • 本プラットフォームは他分野にコピーできる。海外にも展開していきたい。日本の多くのメーカーにも参加して頂きたい。

(2)三一集団iRootechテクノロジー・張昕副総裁

  •  三一集団は伝統的な産業に新しい変化を引き起こしビジネスモデルイノベーション牽引してきた。研究開発の成果を中小企業にも分かち合い、中国の製造業のレベルをアップさせたい。地方政府、研究所、地域企業と連携を早くから行い様々な賞を受賞してきた。
  • 2008年からIndustrial Internetに取り組んでいる。元々は売掛設備の資産管理の必要性から始めたが、これを顧客へのサービスに利用できることに気づいた。全ての製品が情報収集できる端末になり、ユーザーに情報提供できる。ユーザーの体験をフィードバックしスマート研究開発が可能になり、大幅なコストダウンが可能。
  • 買替え、買増し需要が減る中、商品を継続利用する顧客へのサービスが重要になっている。スマート製造により質の高いアフターサービスを受身でなく積極的に提供可能。ユーザーの製品使用状況に関する情報を収集できることにより、故障予測や部品のニーズ把握が出来、在庫を少なくできる。
  • グループ内に銀行、保険、リース業も保有している。設備がネットで繋がることで顧客の経営状況も把握出来るようになり、様々な金融サービスにも役立てることが出来る。得られた稼働状況はマクロ経済の先行指標にもなり、現在、半月毎に国務院総理弁公室に報告を行ってもいる。
  • デジタル化の本質は全ての生産設備をつなげるようにすること。機械と機械、機械と人間をつなげる。これらを連結した後のマネージメントに我々の価値が出る。中小企業の多くはIT担当者もいないが、このプラットフォームに入ってもらえば彼らもシステムを活用できる。オムロン、三菱などと提携しており、ワンストップのシステムを目指す。農業機械、物流等様々な分野に広めていきたい。海外企業へもサービス提供可能。一帯一路を通してより多くの企業にバリューチェーンを展開していきたい。

(3)瀋陽工作機械ユニス工業サービス・李暁雷副総経理

  • 2001年から機械と人間をつなげるi5システムを構築し中国の工作機械の先端を走ってきた。i5システムは機械から工場、工場からインテリジェント製造まで共有するプラットフォームであり時間、空間の制約を受けずに製造できる。
  • 地域のニーズに基づき江蘇建湖ハイテク区に地方政府とスマート工場を設立した。地域企業の入居者は自分でハードそろえる必要がなく、土地使用量、工場使用量設備保証金なしで、ゼロリスクで事業スタートできる。

(4)美的集団“美雲智数”スマート製造事業部・高一副総経理

  • 2011年頃中国の人口ボーナスによる恩恵が少なくなり会社の方針転換を図った。ダブルスマート戦略を導入し、社屋、機械等、生産要素への投資を減らし、情報化への投資を増やした。会社の人員を55パーセント削減し売上げは2011年の1000億元から2016年には2000億元へ倍増、利益は4倍増となった。
  • モノ、人の連結を効率化し意思決定を透明にしていく。AIによるビッグデータの分析を導入し経営全体をスマート化する。工場のデジタル化を図っても管理方法が古いままなら効率は向上しない。
  • 自社製品の550万台の機械がネットでつながっている。従来はエアコンの修理に関してユーザーから故障の電話を受けエンジニア派遣していたが、一度の派遣で全ての問題を解決できないことも多かった。今のシステムでは故障の情報がメンテナンスセンターに自動的にフィードバックされ、それに基づき一番ユーザーに近い担当者が必要な部品をもって対応する。
  • 問題が発生する前にAI・ビッグデータで故障予知による解決も可能。リアルタイムでデータを分析し、過去のデータに基づき故障のアラームを出す。
  • サプライヤーからの部品等の供給状況を全て把握できるシステムを構築。サプライヤーの評価を公平・透明にすることができる。

(5)賽迪スマート製造測量評価工程技術中心有限公司・安琳総経理

  • 賽迪研究所(※CCIDの中国語呼称)は工業信息化部の所管する機関であり、中国製造2025のドラフトに関わるなど行政のサポートを行っており、スマート製造等の進捗に関しての評価を行っている。
  • なぜ中国でスマート製造が必要なのか。中国人の生活レベルが向上し品質への要求が高くなっている。また、人件費、環境対策等のコストが上昇しており、人気商品を自ら作り出す必要が高まっている。
  • スマート製造のキーワードは、アジャイル(Agile)、リーン(Lean)の二つ。インダストリアルIoTやスマート技術がアジャイル、リーンに貢献しているか、二つを上手く結びつけて低コストで高品質のもの、サービスを提供できているかでスマート製造の進捗についての評価を行う。
総括

セミナーの最後に、林雪萍副主任、及川審議官から総括発言がなされた。

(1)林雪萍副主任

  • 中国には生産メーカーの集積があり、日本には技術がある。また、中国には膨大なユーザーがおり、ユーザーへの新しいサービス提供にも大きな変化が起きている。これまで効率化といえばオートメーションであったが、オートメーションとソフトウェアとの融合が起きており、ユーザーへの様々な新サービスの提供が始まっている。
  • ファーウェイ、中国テレコム、中国モバイルなどICT企業が製造業に入ってきている。また、中国とドイツや米国との協力が順調に進展している。本セミナーを機に日本とも民間交流のプラットフォームを作れればと思う。

(2)及川審議官

  • これまで日中間での官民交流はあまりなかったところ、今回の政府機関を交えての場は大変有意義であった。
  • 日中のこの分野の考え方、課題、ソリューションの方向は非常に似ていると感じた。すなわち、日中は共に大きな製造現場を有しており、エンジに寄せたソリューションを志向しており、現場を重視し人間本位である。そうした観点でソリューションを提供しようというところが他国とは異なる。両国は、協調できる領域を増やしていける。コネクティド・インダストリーとして対応は企業毎に異なるが、それでもデータの利活用、標準化などコネクティド・インダストリーの肝となる部分について協力できるのではないか。
今次セミナーの評価と今後の課題

セミナー当日、アンケートを行ったところ、日本側33、中国側21の合計54枚の結果が回収された。

全体評価について「満足51、普通3、不満0」と参加者の評価も高く、継続開催を希望する声も聞かれた。

評価の声の多くは、「多くの企業の発表で企業による相違が分かった」「中国方針、各社の取り込みが良く分かった」といったものであった。

一方、「スマートファクトリについて、計画系と実行系があいまい」「会社や日中間において発表内容やテーマが不統一の感じ」との声も聴かれた。実は今回の日本側、中国側発表者は日中の主催者がそれぞれに選定したものであり、アンケートの結果は、選定プロセスをも通じて「スマート製造」という概念を日中の官民がどう捉えているかを明らかにしたいという今回の狙いの一端が現れたものでもある。

「日系企業のユーザー側企業の説明も聞きたかった」「発表数を少なく、パネルをやってほしかった」「各発表時間が短い。もっと詳しく聞きたかった」「発表者が多く良かったが時間がタイト」との指摘もあった。

具体的なコメントの多くは日本企業関係者であった。中国側のコメントは少なかったが、以下のようなものが見られた。「民間交流は非常に重要」「会議内容が充実、事前準備が充分、運営が適切、とても有意義なセミナーでした」「見学も望ましい」「もっと各業界の代表的な企業のケーススタディを増やしてほしい」。

今後、聴いてみたい内容等については、日本側からは「中国政府の外資企業に対する規制はどうなっていくのか、何を覚悟しなければならないのか」「ドイツ先進企業による講演」「代表的な中国企業の取組につき、詳細が更に聞きたい」「代表的な中国企業のスマート工場」等、中国側からは「日中スマート製造分野における提携モデルときっかけ」との声が上げられた。

今回のセミナーは、所期の狙いに照らせば、成功裏に開催出来たと言えよう。一方、この分野で今後更に日中両国産業間での交流・協力を深化させていくためには、更に参加企業の選定やテーマの設定において工夫が必要となる。中国政府の更に深い関与も期待される。テーマ更に絞り込むことによって、中国政府の関与もより鮮明に浮き上がってこよう。中国側態勢を明らかにしつつ、日中の適切な企業の関与を確保することで、より効果的な日中経済交流・協力が可能となるのではないか。