column ブラジル  大学主導の障害者向けオンライン資料提供サービス 則竹理人 図書や雑誌のオンラインでの無償提供が進んでいるブラジルでは、障害者に対する資料の提供もオンラインで行われる例がある。本稿では、大学主導のサービスの具体例を紹介する。 一九六二年に開学したブラジリア大学では、中央図書館のサービスの一環として「デジタル・音声図書館」を提供している。このデジタル・音声図書館では、大学内外の視覚障害者の要望に応える目的で、資料がデジタル化・音声化されている。「図書館」と謳ってはいるが、実際の施設として存在するわけではなく、ウェブ上のサービスとしてリポジトリ形式で提供されている。二〇〇八年に開設し、二〇一四年一二月一一日現在、タイトル数は六七二にのぼっている。資料はデジタル化された記事、デジタル化された図書(一冊全て・章単位)、録音された図書の四つに大分されており、さらにそのなかで学術領域ごとに分かれている。利用には登録が必要だが、学生や教職員などの大学関係者には限定しておらず、一般の利用も認めている。申請書には障害の詳細を記入する欄はないが、医師の診断書を大学図書館へ別途提出する必要がある(参考ウェブサイト①)。 一九七〇年にリオデジャネイロの北部に拠点を構えた法人エスタシオの傘下の、エスタシオ・ジ・サ大学カンポス・ドス・ゴイタカゼスキャンパスでは、「仮想音声図書館」というサービスを提供している。このサービスは、北フルミネンセ州立財団の財政援助と、リオデジャネイロ連邦大学の協力によって実現したもので、視覚障害者向けの音声資料が主なコンテンツである。「仮想」という名のとおり、施設としての図書館ではなく、オンラインでのサービスである。ウェブサイト上のフォームに必要事項を記入し、障害を証明する文書等を別途大学に提出することで利用可能になる。登録の際に、大学の関係者であることの証明は求められず、ブラジリア大学の例と同様に学外利用者も認めている(参考ウェブサイト②)。 ここまで挙げた二例のような、対象が障害者に限定されているサービスだけでなく、あらゆる利用者を対象としながら、障害者向けのアクセシビリティを備えている例も存在する。 一九六六年にサンパウロ州郊外に開学したカンピーナス大学にある「アクセシビリティ研究所」のウェブサイトでは、同研究所によってデジタル化された資料が無償で提供されている。資料は雑誌記事、図書(一冊全て・章単位)の三つに分類されており、二〇一四年一二月一一日現在、計二三一タイトルにのぼっている。各資料は、MSワード形式やリッチテキスト形式など、汎用性が比較的高い形式で公開されている(参考ウェブサイト③)。 ブラジルにおけるインターネット普及率は五一・六%であり(二〇一三年現在)、世界平均の二九・九%を大きく上回っている(国際電気通信連合調べ)。ブラジリア大学のデジタル・音声図書館の利用者である、二〇代から六〇代以上の幅広い年齢の男女二〇名を対象にした調査においても、全員が自宅にコンピュータを所持しており、内一五名はコンピュータを毎日利用していると答えた(参考文献④)。資料のオープンアクセスの普及と相まって、本稿で紹介したようなサービスはブラジルでより重要性が増していくと考えられる。開発途中や停止中のため、本稿では取り上げなかったものもいくつかあったが、今後ブラジル社会のなかに、オンラインでの障害者向け資料提供サービスが普及していくかどうか、注目に値する。 (のりたけ りひと/アジア経済研究所 図書館資料企画課) 《参考ウェブサイト・文献》 ①ブラジリア大学 デジタル・音声図書館 (http://bds.unb.br) ②エスタシオ・ジ・サ大学 仮想音声図書館 (http://intervox.nce.ufrj.br/~bibvirt) ③カンピーナス大学 アクセシビリティ研究所 (http://www.todosnos.unicamp.br:8080/lab) ④ Malheiros, Tania Milca de Carvalho. Necessidade de informacao do usuario com deficiencia visual : um estudo de caso da Biblioteca Digital e Sonora da Universidade de Brasilia. Dissertacao de Mestre. Brasilia : Universidade de Brasilia, 2013. アジ研ワールド・トレンドNo.234(2015. 4) p.42