column インド デリー大学点字図書館を見学して 坂井華奈子 一二億人もの人口を抱えるインドには障害を持つ人々も数多く暮らしている。二〇一一年のセンサスによれば障害者数は約二六八〇万人、うち視覚に障害を持つ人は約五〇〇万人、そのうちの識字率は五三%である(参考文献②)。 以前インドの大学図書館でスキャナとヘッドホンが接続されたパソコンで資料を利用するコーナーをみたことがあったが、デリー大学には点字図書館があると聞き、見学に訪れた。 デリー大学点字図書館は、視覚に障害を持つ学生らに点字資料や対面朗読サービスを提供することを目的として一九七〇年代後半に設立された。現在では録音スタジオや点字作成部門を備えており、墨字(すみじ) 資料から点字への変換・印刷、デジタル録音資料の作成・提供も行っている。 サービス対象は学内の学生・教員で、利用者登録を行いIDとパスワードを取得すると学内限定のサイトでデジタル資料にもアクセスできる。様々な学部で約一三〇〇人の視覚に障害を持つ学生が学んでいるそうだ。一日の来館者数は一五人程度で新学期など多いときには五〇人ほどが訪れる。来館していた学生に少し話を聞いてみた。専攻は政治学で主に利用する媒体は録音図書やEテキストだが、参考にしたい資料がPDFファイルであれば変換する手間を省き画面読み上げソフトで利用することもあると話していた。 学内限定のイントラネットではリストの目録を提供しており、タイトル、著者、主題で検索でき語が三割だそうだ。選書・収集の基準は全面的にる。JAWSという画面読み上げソフトと音声認識機能によりエンドユーザーによる検索にも対応している。政治学関連の資料を検索してみたところ一五二件がヒットした。 録音図書作成作業を見学したところ、ブースで録音後、編集部門でエラーの確認や不要なブランク等の除去作業が行われていた。表の読み上げ方について尋ねてみると、まず行と列の数を示し、その後何行目の何列目として内容を読むとのことであった。録音図書はDAISY形式で作成し、 Sigtunaというソフトウェアを使っていた。一冊に対して保存・利用のために三枚のCDを作成し、複製して提供している。点字資料に関しては参考図書室に辞典類が備えられていたが、点字は指で触って読む特性上、利用するにつれ磨耗し読みにくくなるため、利用頻度が高い教科書は点字プリンタから印刷し各学生に無料で提供しているそうだ。プリンタはパソコンに接続されており、英語はスキャンしてOCR(光学文字認識)で点字に変換可能だが、ヒンディー語はうまく変換できないためテキストをパソコンで入力するそうだ。インドではこのような視覚障害者がアクセス可能な形式への資料の変換や複製は、二〇一二年に改正された著作権法により、特定の条件下では著作権侵害に当たらないとされる。 蔵書数の内訳は、録音図書が約二〇〇〇点、点字図書が約一〇〇〇点、Eテキストが約八〇〇点で、言語別の利用割合はヒンディー語が七割、英利用者のニーズに基づいており、リクエストされた資料を学内外の図書館から取り寄せるか、購入し、随時録音図書などの形式に変換する。 インド国内の一例ではあるが、要望に応じて随時アクセス可能な形式に資料を変換し無料で提供するなど、デリー大学は充実したサービスを提供しているように感じられた。しかし、多くの障害者を抱え、世界で最初にマラケシュ条約を批准するなど障害者の情報アクセス向上に積極的にみえるインドも、筆者の調査テーマである政府情報についてはまだ対応が進んでおらず、情報アクセシビリティに関するガイドラインがあるにもかかわらず選挙管理委員会を含む主要な政府機関のウェブサイトはほとんど視覚障害者に対応していないという新聞記事をみかけた(参考文献①)。障害を持つ人々の情報アクセスの更なる改善が望まれる。 (さかい かなこ/アジア経済研究所 在デリー海外派遣員) 《参考文献》 ①Manash Pratim Gohain,“Top govt websites Times of India.” are not disabled-friendly.Aug26,2014.(http://timesofindia.indiatimes.com/ india/Top-govt-websites-are-not-disabledfriendly/articleshow/40876938.cms)(二〇一四年一二月一五日最終アクセス) ②Office of the Registrar General & Census ) Commissioner , India (ORGI). Population Enumeration Data(Final Population)(http://www.censusindia.gov.in/2011census/population_enumeration.html)(二〇一四年一二月一五日最終アクセス) アジ研ワールド・トレンドNo.234(2015. 4) p.33