特集 図書館と障害者サービス 情報アクセシビリティの向上 【各国事情】 韓国 国立障害者図書館と障害者サービス 崔善植(チェソンシク) ●はじめに 国立中央図書館は、国家代表図書館として障害者の知識情報へのアクセスと利用を確保するために、「図書館法」第四五条に基づき、二〇〇七年五月、国立障害者図書館支援センターを設立した。その後、二〇一二年二月の「図書館法」改正で知識情報弱者に対する図書館の責務が強化されたことから、二〇一二年八月、国立障害者図書館支援センターを国立障害者図書館として拡大、改編した。 国立障害者図書館は障害者図書館サービスの代表機関として、図書館障害者サービスの基準、ガイドラインの制定、サービスの評価および相談を行うと同時に、資料の収集、製作、標準の制定、読書文化プログラムの開発・普及、各種図書館や関連機関との協力強化などを推進することにより、障害者サービスに対する図書館界の認識向上と関連インフラの拡充に努めている。 ●障害者用資料の製作・普及と共有基盤の構築 国立障害者図書館は、二〇〇三年から視覚障害者、聴覚障害者などのための資料の製作・普及を通じて、障害者の知識情報格差の解消に大きく寄与してきた。特に、資料製作のためのデジタルファイル納本を義務化する関連規定(図書館法第二〇条二項、著作権法第三三条)を設けて、出版社と著者からデジタルファイルの寄贈または納本を受け、二〇一四年一二月までに二万一〇〇四点の資料を製作し普及させている。アメリカの場合、学習教材に限り、デジタルファイル納本規定があるが、北欧などのほとんどの国では、デジタルファイル納本規定がなく、デジタルファイル納本義務は韓国が先導して推進しているといえる。 韓国における年間の出版総数の約一〇%がDAISY資料、画面解説映像資料、手話映像図書資料などの多様な形態の媒体で製作されている。電子書籍の場合、製作段階で障害者のための音声または点字変換機能を付与することができるように、電子書籍へのアクセシビリティ標準ガイドラインと電子書籍アクセシビリティ認証プラットフォームの開発を推進している。 韓国の場合、アメリカなどの先進国とは異なり、民間の福祉センターや点字図書館などから障害者図書館サービスが発展してきたことから、資料製作機関の間では、共同活用が体系化されていなかった。そのため、国立障害者図書館では、障害者用資料の共同利用のために、二〇一四年に「国家資料共有システム」を開発し、資料製作機関に対するデータ管理プログラムの普及と書誌情報の標準化を推進することで、障害者である利用者が時間、空間の制約なしに資料を利用できる環境を整えた。 ●障害者サービス環境の向上 国立障害者図書館は、図書館の障害者利用環境の改善のために、二〇〇九年から公共図書館を対象に読書拡大器、音声読書器などの読書補助機器を購入、拡充し、支援事業を推進してきた。二〇一四年には、全国九五の公共図書館を支援し、読書補助機器の利用率を高めるため、障害者サービス担当者教育も実施している。これらの国家主導の体系的かつ積極的な障害者の読書環境の構築と普及政策は、先進国では珍しいケースで、二〇〇〇年代半ば以降に開始された障害者図書館サービスを短期間に全国の図書館に拡充させる原動力となったといえる。 また、視覚障害者に限り施行されていた無料郵便制度を拡大し、図書館への訪問が困難な障害者に対して、郵便局の宅配便を利用して無料で図書館資料を家まで配達する「本の翼サービス」を二〇一一年七月に導入した。「本の翼サービス」は、全国五三〇以上の公共図書館と障害者図書館だけでなく、国家相互貸借サービス(「本の海」)と連携して、大学図書館の資料まで利用できるように支援し、また、支援対象者範囲も拡大して、二〇一四年五月現在で一三一万人の障害者が「本の翼サービス」を利用できるようになった。 ●「障害者の情報広場」の運営 国立中央図書館一階には、障害者だけの資料室である「障害者の情報広場」がある。全国の公共図書館の障害者資料室のモデル提示のために二〇〇九年三月に設置された「障害者の情報広場」は、三二四平方メートルの規模で対面朗読室(三室)、セミナー室(一室)、映像室(三室)、情報検索コーナー(四席)、閲覧席(二〇席)などの施設を備えており、読書拡大器、DAISYプレーヤー、ボイスレコーダーなどの各種補助機器(視覚二三種一一八機、聴覚一三種四〇機、肢体一五種七一機)を備え、提供している。そして四人の専任スタッフと四〇名のボランティアを通じて対面朗読、画面解説、文書作成、画像代筆、移動支援などの個々のカスタマイズサービスを提供している。特に通訳者と手話通訳者の資格を持ったスタッフが配置されており、聴覚障害者のための映像電話サービスなども提供している。そしてボランティアへの基礎教育と応用教育を通じて障害者サービスの質の向上にも努めている。 ●読書プログラムの運営開発と読書振興の拡充 国立障害者図書館では、障害者の読書能力向上、問題解決能力の強化などの潜在的開発のきっかけを提供するために、視覚、聴覚、肢体、発達障害者などを対象に、障害の種類別に「カスタマイズ読書プログラム」を開発し普及している。聴覚障害者を対象とする対面朗読サービスや手話映像図書など様々な障害者用資料を活用した「手話映像広場」、発達障害者のための「簡単に読める読書教室」などを試験的に運営している。 そして、障害者がより簡単に本と馴染めるように、二〇一一年から「障害者の読書運動文化イベント」を開催してきている。これは、作家と一緒に作品の背景地や文学観などを探索して作品を語り合う「作家と巡る読書文学紀行」と、読書指導の専門家と一緒に本を読み議論し、直接作品を書いてみる「読書を通じて私の中の私を見つける」などのプログラムで構成されている。このプログラムは、全国障害者福祉センターと障害者図書館を対象に進めており、二〇一四年一二月末現在で約三〇〇〇人以上の障害者が参加した。 また、毎年九月の読書の月を迎えて、障害児、障害者青少年の読書意欲を高め、読書を通じて成長期の障害児の情緒育成を促進させるきっかけをつくるために、視覚、聴覚、肢体、発達の障害児および障害者青少年を対象に「障害児・障害者青少年読書感想文大会」を開催している。受賞作は墨字(すみじ)と点字の混用図書で刊行され、特殊学校や点字図書館、公共図書館などに配布し活用できるようにしている。 ●障害者サービス強化のための教育開発と国内外交流 図書館で障害者サービスを実施するためには施設、機器、資料などを必要とする。しかし、これだけでは十分とはいえない。障害者サービスの専門知識を持つ人材の確保が何よりも重要であるといえる。国立障害者図書館では、図書館障害者サービス担当者の専門性の向上と図書館間の協力を強化するために、公共図書館、学校図書館、障害者図書館などを対象に、毎年図書館障害者サービス教育と協力ワークショップを開催してきている。その他、大学の図書館情報学の科目である「図書館障害者サービス」を含め、すべての図書館情報学専攻者が障害者サービスの素養を備えることができるように、科目開設の支援と教材の開発・普及を推進している。 そして、図書館障害者サービスのさまざまな優秀事例を発掘し、国内図書館の障害者サービス拡充と質的向上を図るために、二〇〇八年から優秀事例公募事業を実施している。選定された事例は、図書館障害者サービスの運用モデルとして提示するために優秀事例集として刊行され、全国の図書館で利用できるように配布されている。 また、国立障害者図書館は、デジタル音声図書の国際標準であるDAISYの国内活性化のために、二〇一〇年の国際DAISYコンソーシアムの正会員(理事国)に登録し、DAISY関連の国際動向と新技術の把握のために活発に活動している。 ●おわりに 現在、道路や建築物でのバリアフリー化が進み、障害者が各種施設を自由に利用できる環境が整備されてきている。国立障害者図書館は、情報化時代に生きている二五〇万人の障害者が教育、社会参加、文化の享有においても、障害のない人たちと均等な機会を確保できるように、知識情報アクセシビリティの向上に努めていきたい。 (Choi Sun Shik/国立障害者図書館支援協力課長) 《写真》 ①国立中央図書館全景 国立障害者図書館は、韓国の国家代表図書館である国立中央図書館本館の 2階に位置している。(提供:国立障害者図書館) ②障害者の情報広場 対面朗読室(外部)、対面朗読室(内部)、閲覧席、情報検索コーナー、案内デスク、映像室(提供:国立障害者図書館) ③読書振興プログラム “手話映像図書広場”プログラム、2014年作家とめぐる読書文学紀行、2014年障害児・障害者青少年読書感想文大会(提供:国立障害者図書館) アジ研ワールド・トレンドNo.234(2015. 4) p.22-25