特集 図書館と障害者サービス 情報アクセシビリティの向上 【国際動向】 国際図書館連盟の障害者の情報アクセスに関する取り組み 野村美佐子 ●はじめに 国際図書館連盟(以下、IFLA)は、図書館・情報サービスおよびその利用者の利益を代表し、世界の図書館情報専門家の意見を発信する、一九二七年に設立された第一線の国際非営利機関である。本部はオランダのハーグにあり、一五〇カ国から一四〇〇以上の協会および機関会員(二〇一四年一〇月現在)が加入している。IFLAは、全世界の情報専門家に対し、図書館活動と情報サービスのあらゆる分野における意見交換と国際的な協力、研究および開発推進の場を提供している。毎年八月に世界各地で開催される年次大会には、三〇〇〇人以上が参加する。二〇一四年の年次大会は、フランスのリヨンで開催された。 IFLAは、障害者の情報アクセスに関してはどのように取り組んできたのであろうか。障害者の図書館サービスに直接かかわる専門活動は、四三を数えるIFLAの分科会(セクション)内の、「特別なニーズのある人々に対する図書館サービス分科会(LSN)」と「印刷物を読むことに障害がある人々のための図書館分科会(LPD)」という二つの分科会で行われている。両分科会は、相互補完する対象領域を設定しているが、図書館における障害者の情報へのアクセスと著作権に着目し、プロジェクトやセッションを連携して行っている。筆者は、それらの活動に一九九九年から参加している経験を踏まえて、この二つの分科会の活動に基づいてIFLAにおける障害者の情報アクセスに関する取り組みを述べる。 ●LSNの活動 LSNはIFLA最古の分科会で、一九三一年に病院図書館小委員会として創設された。病院にいる、通常の図書館資料を利用できない人々に対する専門的な図書館サービスの提供が目的であった。しかし、活動を通して入院の直接の理由ではないが、様々な障害のために特別な資料やサービスを必要としている患者の存在に気がついた。一九七六年に、「入院患者および障害のある読者に対する図書館サービス分科会」になった。一九八〇年代からは、図書館利用において障害のある人々に対する図書館サービスについて国際的な関心が高まり、本分科会の対象領域が広がっていった。そのため一九八四年に名称を「図書館利用において障害がある人々のための図書館分科会」に変更した。さらに、二〇〇八年には、現在の分科会活動をより反映し、またその関心領域をめぐる専門用語に再び重大な変化がみられたため、現在の名称となるLSNに変更した。現在においても、従来の図書館資料が利用できない人々を支援しているが、たとえば、身体、精神、認知・発達障害者などがいる。またその対象者には、入院患者、受刑者、ホームレス、老人ホームや介護施設の入所者、聴覚障害者、ディスレクシアなどの学習障害および認知症の人なども含まれる。 図書館における障害者の情報へのアクセスを権利として、そのためのアクセシビリティを確保するために、障害の特性に合わせたサービスガイドラインの開発と国際フォーラムの開催により啓発・普及を行ってきた。すでにLSNから、病院患者図書館ガイドライン、刑務所図書館ガイドライン、知的障害者などを対象とした読みやすい図書のガイドライン、聴覚障害者に対する図書館サービスのガイドライン、ディスレクシアの人のための図書館サービスガイドライン、認知症のための図書館サービスガイドラインなどが出版され、公共図書館や専門図書館において障害者サービス提供に有効な資料となっている。 今年のリヨン年次大会においては、国連障害者権利条約に基づき、障害者のための情報や図書館サービスのアクセスを推進していくうえでの図書館の役割についてセッションを開催した。そのなかで、権利条約にある合理的な配慮としてアクセシブルでわかりやすい情報提供が可能となるDAISYの技術にも言及した。また、二〇一三年六月に、世界知的所有権機関(WIPO)が主導して採択された「盲人、視覚障害者およびプリントディスアビリティ(通常の印刷物では読めない障害)のある人々の出版物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約」について、「マラケシュ条約がプリントディスアビリティのある人のための条約だけでなく図書館や社会がよりインクルーシブで公平であるための条約となる」との発言もあった。日本でも、同条約の批准に向けた文化庁文化審議会著作権分科会における審議が始まったところであり、今後の動向に注目したい。 ●LPDの活動 LPDは視覚障害者と他の理由で印刷物を読むことに障害がある人々を対象とした図書館サービスに取り組んでいる。主な目的は、この分野の国内的・国際的協力の促進、研究開発の奨励、情報へのアクセスの改善である。 以前は、盲人図書館分科会と呼ばれ、視覚障害者に対するサービスを主としていた。しかし、二〇〇一年の「EU指令」に従って、欧州各国が著作権法を改正し、プリントディスアビリティを対象にした図書館サービスに関心を持ち、取り組みを始めた。二〇〇五年に、LPDは「情報時代における盲人図書館―発展のためのガイドライン」を出版したが、このガイドラインでは、学習障害、身体障害のために印刷物を読むことに障害がある人々も対象として、視覚障害者以外のサービスの事例も盛り込んでいる。その背景には、一九九六年に同分科会の常任委員会有志が中心となって設立したDAISYコンソーシアムによるDAISYの技術の進化と活用があった。前記の活動を反映して、二〇〇八年に現在の名称に変更した。LPDは、視覚障害者だけでなく、読むこと、理解することが困難な人たちすべてを対象としたサービスを展開するために、公共図書館との連携、出版社とのパートナーシップによるアクセシブルな電子出版の取り組みをも始めた。 また、情報へのアクセスの改善を目指して、DAISY図書などアクセシブルな出版物の国際的な相互貸借を可能にするために二〇〇八年にグローバルライブラリープロジェクトをDAISYコンソーシアムとの連携で立ち上げた。そして、その推進を阻む著作権法の問題を解消するために、世界盲人連合など当事者団体と協力をしてWIPOによる強制力のある国際著作権条約の設立に向けた活動を行った。その結果、前述のマラケシュ条約の成立につながった。 二〇一三年には、パリで開催された第三七回のユネスコ総会で「IFLAプリントディスアビリティのある人々のための図書館宣言」が採択されたが、情報とサービスをすべての人にとってアクセシブルにするための原案はLPDが作成した。 ●おわりに IFLAは、二〇〇三年と二〇〇五年に開催され、国際電気通信連合(ITU)やユネスコなど国連機関が主導した「世界情報社会サミット(WSIS)」に積極的に参加した。その結果、情報社会における情報のアクセスポイントとして図書館の役割を成果文書への組み込みを可能にした。また、国連のポスト二〇一五年開発アジェンダの策定に関して、IFLAは、「情報へのアクセスと開発に関するリヨン宣言」を発表し、同様に情報と知識へのアクセスの場として図書館の役割を盛り込むため国際的な活動を展開している。 前記のIFLA全体としての取り組みのなか、LSNとLPDは、当事者の社会参加を可能にするため、図書館における情報アクセシビリティの保障をめざした活動を続けている。 (のむら みさこ/日本障害者リハビリテーション協会情報センター長) 《参考サイト》 ①IFLAサイト (http://www.ifla.org/) ②IFLA(国際図書館連盟)の障害者の情報アクセスに関する取り組み (http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/ifla.html) ③ Libraries Services to Special Needs Section (http://www.ifla.org/about-lsn) ④ Libraries Serving Persons with Print Disabilities Section (http://www.ifla. org/lpd) アジ研ワールド・トレンドNo.234(2015. 4) p.6-7