特集 図書館と障害者サービス 情報アクセシビリティの向上 巻頭エッセイ 差別解消法は図書館に何を求めているか 石川 准 本特集「図書館と障害者サービス―情報アクセシビリティの向上」は非常にタイムリーな企画である。 来年四月に施行となる障害者差別解消法では公共図書館にも合理的配慮の提供が義務づけられる。視覚障害等で紙の資料の読みに困難のある人にDAISY音訳図書等を貸し出すことをはじめ、来館した聴覚障害者等とのコミュニケーションにおける手話や筆記等での対応、建物や設備がバリアフリーになっていない場合に車いすの利用者への仮設スロープ等の対応も必要になると考えられる。また同法施行のための政府基本方針原案(本校執筆時は閣議決定前であるため原案と記す)は、指定管理等で民間に運営を委託する場合にあっては、合理的配慮の提供を契約条件等に含める等の工夫が求められるとしている。 大学等の教育機関も合理的配慮の提供等障害学生支援の充実が求められる。これまでほとんどの高等教育機関の図書館は、障害学生支援を図書館の仕事と考える意識は乏しく、障害学生支援室や障害学生を受け入れた学部が対応することとして傍観してきたように思う。だが今後は障害学生支援への積極的な貢献が必要となる。 アメリカの議会図書館を参考に立法府に付属する図書館として戦後再出発した国立国会図書館には、行政機関ではないため障害者差別解消法は直接適用されない。しかし、障害者権利条約を批准したいま、その国内実施は行政府、立法府、司法府全体の責務である。ゆえに国立国会図書館のその実力と権限に見合う情報アクセシビリティへの顕著な貢献が期待されるのは当然といえよう。 国際的にも世界知的所有権機関(WIPO)のマラケシュ条約にみられるように、視覚的読書に困難のある人々(プリントディスアビリティのある人々)へのDAISY等のアクセシブルな資料の国境を越えた相互貸借のネットワークを作ろうとする努力が実を結びつつある。同条約は各国の著作権法が認めている視覚等に障害がある人々への複製に関する免除規定の対象者を締約国全体に広げるもので、情報アクセシビリティの南北格差を是正するための有力なツールとなりうるものである。日本も同条約早期批准のための準備を進めている。 本特集の中心的なテーマではないかもしれないが、電子書籍出版の分野でもAmazonKindleブックを中心に電子書籍のアクセシビリティが向上しつつある。Kindleのアクセシビリティ対応はアメリカの障害者政策と障害者運動、そしてAmazon,Apple,Googleなどのアクセシビリティへのコミットメントに負うところが大きい。残念なことに、日本には政策においても運動においても企業の取り組みにおいても、情報アクセシビリティを実現するために必要な情熱が足りていないと感じる。情報アクセシビリティを前に進めるべく発言し活動してきた者の一人として筆者も無力と責任を痛感している。 本特集をひとつのきっかけとして、インクルーシブな図書館と情報アクセシビリティが一歩でも前進することを願っている。 いしかわ じゅん/静岡県立大学国際関係学部教授 静岡県立大学国際関係学部教授、内閣府障害者政策委員会委員長。社会学博士。社会学分野の著作の他、視覚障害者向けの支援機器の研究開発を行っている。 アジ研ワールド・トレンドNo.234(2015. 4) p.1