都市化 Urbanization

成長の中心、民主化の中心、そして国家の将来像

ケニア・ナイロビの密集居住地区
ケニア・ナイロビの密集居住地区

2006年前後を境に、世界の人口都市化率は50%を超え、いわば、世界人口は都市居住が前提となる社会へと移行しつつあります。 都市化のトレンドは不可逆的であり、中国の下放政策の経験などをみると地方間の人口移動はあっても、一旦、都市化した人口の大規模な地方環流は極めて困難です。都市化は経済成長と相関関係があるとする見方は島嶼、砂漠乾燥地帯などを除くと妥当な場合もありました。しかし、それは産業革命や工業化、経済の高度化と類される現象が都市化要因であった時代のことであり、今日、例えば多くのアフリカ諸国での、工業化や経済成長を伴わない急激な都市化をみると、都市研究は新たな視角を必要としていると言えます。

途上国地域における都市化とその結果としての都市問題には、制度が未整備であることに起因する問題と、圧倒的な都市労働市場の逼迫による問題、武器の流入や不法行為の卓越による治安・安全の問題などの側面があります。途上国都市の財政基盤は弱く、そもそも地方税制の制度は往々にして未整備です。都市という局所空間的な現象への対処を中央に委ねねばなりません。財政収支の地域差や、地方資源産地と都市との間のバランスを欠いた支出、その結果としての都市への集中的支出は都市偏重主義(アーバンバイアス論)として問題視される向きもあります。また、首都圏や一部の資源産地で歳入を賄うような国の場合は、中央の政治・行政と大都市行政の間にはヘゲモニー争いが生じています。

都市化と大都市問題研究の視角は、これまでに世界の大都市化が顕著であった地域の状況に特徴づけられているところがあり、その意味で地域研究とともに発展してきたと言えます。その軌跡をみると、1970年代の南米の大都市サンパウロやリオデジャネイロ、あるいはメキシコシティといった大都市での状況、例えば大規模スラム問題や大気汚染などの状況は、途上国都市の周縁化を通して論じられました。その後、1980年代には経済成長と都市化が急速に進むバンコクやソウルの状況からは地域間格差の点、つまり首位都市のみが成長して大規模になり第2都市以下との格差が拡大するプライメイトシティ(首座都市)問題が注目されました。また、不完全な都市労働市場の中で、就業機会を自ら作り出す都市雑業層は都市インフォーマルセクターとされましたが、今日ではこのセクターを国民経済に取り組む工夫が進んでいる地域もあります。そして、近年、最も早い速度で都市化が進んでいるのは、東アフリカから西アフリカにかけての地域です。この地域の都市が経験しているのは、南米やアジアの大都市とは異なる経済成長なき大都市化です。そして、このような都市は後背地に内戦・紛争地区を背負っており、絶えず国内外の難民が流入していますし、戦地を経由した小火器が流入し、違法な経済活動が卓越しています。そのような場所では、犯罪国家あるいは新家産国家の中枢機能が開発援助資金や海外直接投資資金の一部を資金源として一般の都市住民とは別のエリート都市の空間を構築します。そこではアメニティ(快適な環境)を独占する都市エリートと、都市雑業や都市農業に携わる都市大衆の間のヘゲモニー争いがあるのです。このような財政が確保できず、職の創出もできない都市では、都市をどう維持するべきか、都市の維持管理と都市のガバナンス、また都市の持続性が論じられるとともに、治安維持や都市の安全保障にも関心が寄せられています。

(吉田 栄一)