途上国と国際関係 Developing Countries in International Relations

開発途上国の対外行動はどのように決定されるのか?

一般的に、先進国と開発途上国の間には経済的にも政治的にも大きな差異が存在します。このような差異の存在する国際関係の中で、途上国はどのように対外政策を決定し、行動しているのでしょうか?

【視点その1:国際構造からの規定】

国家の対外行動を考える上で、国家と国家の関係の在り方に注目する議論があります。そのひとつが構造的現実主義といわれる理論群です。この理論は、経済力や軍事力、国内制度の安定度などによって定義される「国力」を鍵概念とし、その国力の差異によって形作られた国際構造に各国の行動が規定される、と説明します。構造的現実主義は大国間関係を中心に国際構造を想定しており、途上国の多くがそうであるような小国の対外行動を必ずしも的確に説明できるものではありませんが、現実を見ると、途上国が国際交渉の場で連合を作って国力を結集し、先進国に圧力をかけることがあります。1955年に始まった非同盟運動、1970年代に興った新国際経済秩序(NIEO)運動などは、「持たざる国」からのカウンター・バランス運動として説明できるでしょう。

これに対し、その国家がどういう立場にあるかに注目して対外行動を説明しようとする理論があります。新自由主義制度論と言われるこの理論は、ある立場に置かれた国家が担うべき(と考える)役割を「規範」と定義し、その規範によって規定された行動のパターンを「制度」として重要視します。例えばGATT/WTOは、すべての加盟国を平等に扱うことを基本原則とする一方で、途上国に対して有利な条件で関税を設定すること(一般特恵制度、GSP)や、先進国とは異なる、特別な(special and differential, S&D)待遇を与えることを認めています。これらは、途上国に優遇措置を与えるべきだという規範に基づいてできた制度です。このような規範・制度の存在は、途上国がその立場を強く主張しながら貿易自由化交渉を進めることを可能にしています。

これらの理論は、いずれも国際関係が構造として存在し、それが個々の国家の行動を規定すると主張する点で軌を一にしています。先進国は多くの資源を国際交渉に動員することでその行方を左右することが可能であるのに対し、途上国が動員できる資源は限られていることが多く、その意味からも、途上国の対外行動は国際構造から大きな制約を受けているといえるでしょう。

【視点その2:国内制度との相関】

途上国が現実的に選択し得る対外政策の幅が狭いとしても、残された範囲内で最善の選択をする余地はあります。裁量の範囲が狭い分、残された選択肢を慎重に検討して政策を選択することが重要な課題となります。したがって、途上国の対外政策を分析するためには、国内の政策選好・政策過程も射程に入れる必要があります。国際交渉と国内政策過程をひとつの視野に収めて説明した代表的なモデルとしては、「2レベル・ゲーム」と呼ばれるものがあります。従来の対外政策過程研究が国際レベルと国内レベルを峻別していたのに対し、このモデルは国内社会で受け入れ可能な合意の範囲が国際レベルでの行動を規定すると主張しました。

従来の対外政策過程研究は、政策決定者が国益を客観的に定義し、それを合理的に追求すると仮定してきました。そうした仮説に対して、国家の行動は客観的に定義される利益よりも、政策担当者の主観的な「認識」によって導かれると主張する理論もあります。社会構成主義と呼ばれるこの理論群は、政策担当者は、自分たちの立場や利益を自分が得た情報に基づいて定義し、その定義を誰と共有しているか(いないか)という認識に基づいて取るべき選択肢を決定する、と主張します。また政策担当者の認識は、彼らが置かれた環境の変化や相手との交流の推移によって常に変化します。

構造を重視するアプローチが国内の制度や選好をほぼ捨象していたのに対し、「2レベル・ゲーム」モデルや社会構成主義は、それらの差異こそが国家の対外行動を説明し、また国際交渉・協力の行方を左右する鍵となることを示しました。これらのアプローチは、途上国の対外行動を説明する上で有効な視角を提供しているといえるでしょう。

【静態的把握から動態的システムのメカニズム解明へ】


国家の対外行動メカニズムについての理論は、国家間関係の静態的把握から動態的システムのメカニズム解明へという方向に収斂しつつあります。これは現実の国際関係がますます動態的なものになりつつあることと無縁ではありません。中国、インド、ロシアなどのように「途上国=小国」という従来の枠組みでは括りきれない国々に加え、それぞれが属する地域では「大国」として振る舞うことのできるインドネシア、ブラジル、南アフリカなどの途上国も存在します。また、途上国の中でも新たに急速な経済成長を実現する国が現れ、そうでない国との間でさらなる分化が起こっています。一方では、冷戦終焉以降、欧州連合(EU)、アジア太平洋経済協力会議(APEC)、北米自由貿易協定(NAFTA)のように、先進国と途上国という分類を飛び越えた形で協力関係を結ぶ動きも多く現れています。

途上国の対外行動を分析するにあたっては、急速に進む国際構造変化とともに、国内制度・政策選好との相関をも視野に入れた研究が、今後ますます重要になると思われます。

青木(岡部) まき ・岡本次郎)