障害と法 Disability and Law

人権と開発へのインクルージョン
Inclusion in Human Rights and Development

手話によるインタビューを見つめる子ども
手話によるインタビューを見つめる子ども

2006年に制定された国連障害者権利条約は前文で、障害者の人権、基本的自由および完全参加の促進は、社会の人間的・社会的・経済的開発および貧困の根絶の前進に大いに貢献すると謳っています。従来、障害者の問題はその重要性にもかかわらず、人権、開発いずれの分野においても周辺化されてきましたが、同条約の採択は障害者も非障害者と同様の基本的人権を享有することについて国際社会のコンセンサスがまとったことを示し、これにより障害分野においても権利に基づくアプローチ(Rights-Based Approach)による開発枠組みが整ったといえます。また、同条約は障害の社会モデルに立脚しており、障害者の問題の原因と責任は障害者個人ではなく社会に帰属するものとして構成し、社会の責任を明らかにしています。

ところで、障害者権利条約が国際社会のコンセンサスによって制定され、締約国は義務的に国内的措置をとるものと規定されているものの、障害者の権利を現実に確保するためには、究極的には国内法に障害者の諸権利が組み込まれることが必要となります。アジアでは1981年の国際障害者年など国際的な動向を契機として障害者立法が整備されてきました。従来その多くは障害の医学モデルに立脚し、障害者個人に対する福祉サービスやリハビリテーションを提供することを主な内容としていました。しかし、今後、アジア各国の障害者立法も条約に合わせて障害の医学モデルから社会モデルへと転換し、障害者を福祉・保護の客体ではなく権利の主体として、非差別を確保するための立法に転換していくことが期待されています。

各国の法律はその歴史、文化、発展段階および法制度によって異なっており、各国の障害者立法も障害概念のとらえ方やその目的によって異なります。したがって、障害者の権利は、憲法、刑法、民事法・差別禁止法あるいは社会福祉立法など様々な形式で制定され(Degener & Quinn [2002])、規定の内容によって障害給付型立法、行動計画型立法、権利に基づく立法などに分類できます(Byrnes [2009])。実際、アジアの国々も少なからず障害者権利条約の成立に前向きに取り組み、同時に国内の障害者立法がそれとの整合性が保たれるよう制定、改正作業を行ってきました。研究では、開発途上国の障害者の実態把握とともに、現地の文脈を考慮しながら、障害者立法が非差別原則、合理的配慮、法の下の平等など条約の諸原則と合致するのか検討されなければなりません。また、障害者立法の裁判規範性、法律の履行・執行、権利救済制度とその運用など障害者の権利実現の法的課題、さらには権利実現をとおした貧困解消や生活水準の向上などの理論・実証研究の実践が期待されています。

小林 昌之