工業化

工業化-主要セクター Major Manufacturing Sectors

基本は繊維、電子は初級から上級まで、みな憧れる自動車

カンボジアの縫製工場(工藤年博撮影)
カンボジアの縫製工場
(工藤年博撮影)

経済発展の具体的なメカニズムを観察しようとするならば、個別の産業セクターに目を向ける必要があります。生産要素の結合、技術の形成と伝播、企業家の挑戦と挫折、企業間の競争と協調、国家の介入は産業という場ごとに展開されています。これまでの開発途上国研究の中で、最もよく議論されてきたのは繊維産業、電子産業、自動車産業でしょう。

繊維産業は開発途上国が工業化を始めようとするとき、多くの場合、最初に手がける産業です。その製品は衣食住という生活の基本となる物資の1つですから、どの国にも一定の需要があります。技術的にも比較的、簡単です。また、労働集約的ですので、賃金水準の低い開発途上国には比較優位があり、輸出を期待できます。日本をはじめ東アジア諸国では、かつて繊維産業が工業化と工業製品の輸出の先兵となり、今、南アジアやCLMVの国々が輸出向けの繊維産業から工業化を推し進めようとしています。ただし、2004年までMFA (Multi Fiber Arrangement)の下で、多くの国のほとんどの繊維製品は欧米への輸出に数量規制が課せられていました。MFAは2005年からなくなりました。その中でどの国の輸出が増加し、どの国が減少するのか、関心を集めています。

このほか、食品産業は繊維産業と並んで初期の工業化の柱です。農業と連繋しながらレベルアップを進めている国もあります。工業化が進行すると、鉄鋼や石油化学という素材産業の建設が課題になります。工作機械産業は一国の技術水準を示すバロメーターと見られてきました。それぞれ少なからぬ研究の蓄積があります。

今日、電子産業は規模が非常に大きく、かつ多種多様なサブセクターを持つ産業です。最先端の技術が用いられている分野と、技術が成熟化し、激しいコスト競争が行われている分野が並存しています。賃金水準の低い開発途上国にとっては後者が狙い目です。そこからスタートし、その後、技術水準の高い分野へ、例えば家電製品からIT製品へと、漸進的にステップアップしていく戦略が考えられます。
台北のコンピュータ展示会(TCA東京事務所提供)
また、時には韓国の半導体のように、資源を集中的に投入して、飛躍的にレベルを高めることも不可能ではありません。電子産業は多国籍企業による直接投資(cf. 貿易・投資 )や、先進国企業が開発途上国に製造を委託するOEM (original equipment manufacturing) が活発な産業です。さらに今日では、多くの製品においてグローバルなサプライチェーンが構築されています。その中で開発途上国がどのような役割を果たしているかは現在の重要な研究課題です。特に近年、生産の中国への集中と、その他の国への影響に強い関心が持たれています。
自動車産業は裾野が広く、大きな連関効果が期待できるので、多くの開発途上国で産業政策の重点とされました。国内市場を保護して先進国企業を誘致したり、国産化率規制によって部品産業の育成を図ったりしました。ただし、数万の部品を統合する自動車は技術的な困難が大きく、成功例は韓国やタイなど一部に限られています。最近は グローバリゼーション の中で再編を迫られている国もあります。
現代自動車蔚山工場
(ヒュンダイモータージャパン提供)
同じ輸送機器でもオートバイは技術的な難度が低いので、台湾、中国、インドにおいて地場民間企業の自律的な発展が観察されています。



【参考文献】
繊維産業におけるMFAの撤廃とその影響に関しては、次の文献を参照してみて下さい。
Nordas, Hildegunn Kyvik [2005] "The Global Textile and Clothing Industry post the Agreement on Textiles and Clothing."(discussion paper) . Geneva: World Trade Organization.

佐藤 幸人