財政・金融

金融-開発金融 Financial Development

金は天下の回りもの、うまく集めてスムーズに回すために

並ぶ銀行の店舗:インドネシア中部ジャワ
並ぶ銀行の店舗:インドネシア中部ジャワ

開発金融は開発経済学の歩みと共にあるといえます。1950年~60年代にかけて実施された輸入代替政策を金融面から支えたのが人為的低金利政策です。農村金融では、アジア各地で広まった「緑の革命」を資金面で支えるため、政府による零細農家への低利の農業政策融資が導入されました。国内資金が希少な途上国では、政府介入により資金を優先的な分野へ配分するため人為的に金利を低くする政策が採られたのです。これに対して McKinnon-Shaw は、人為的な低金利によって実質金利が負となり、貯蓄が進まない状態を金融抑圧と呼び、金融自由化の必要性を説きました。1980年代に入ると情報の経済学の発展やて 内生的成長理論 の登場に伴い、経済成長における金融部門の発展の重要性がより明確に議論されるようになりました。また政府の介入についても Hellmann-Murdock-Stiglitz は、実質金利を正に保つ低金利政策を金融抑圧とは区別して金融抑制と呼び、それによって生じたレントを銀行が活用することで金融部門の発展につながるとしました。

現在、開発経済において貧困削減がより重視されるようになっています。貧困削減を目指した金融活動に マイクロファイナンス金融-マイクロファイナンス参照)があります。少額の融資により収入を得る機会を与えるという小口融資(マイクロクレジット)はバングラデッシュのグラミン銀行によって広く知られるようになりました。それまで金融へのアクセスが最も困難であった貧困層、特に女性をターゲットとした貸付の成功は、途上国の金融の幅を広げました。さらに小口融資をグループ貸出で行うことが、借り手のモラルハザードを抑え、逆選択を阻むなど、情報の問題を解決する工夫であると着目され、マイクロファイナンスは理論面からも研究が進みました。また、近年日本でも耳にすることの多くなったイスラム銀行(イスラム金融)は、もともと貧者救済の観念を持つイスラム教の教義に則って運営されることから、ムスリムのいる途上国では、銀行には縁のなかった貧困層がシャリア(イスラム法)をよりどころに金融サービスにアクセスする機会を得る可能性もある、貧困との接点をもつ金融システムといえます。

最近は、開発経済学もミクロ経済主体の制度や組織の分析に重点が移ってきています。それに伴い、開発金融の分野でも各国の金融システムを構成する銀行、金融組織、企業や家計などの経済主体に焦点があてられ、借入れや返済に関するインセンティブや借り手の直面する制約の問題、金融機関の経営設計の問題など、ミクロレベルでの研究が行われるようになってきています。

濱田 美紀