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足踏み状態の2018年GDP

ブラジル経済動向レポート(2019年2月)

海外調査員(サンパウロ大学客員教授)近田 亮平

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2018年GDP: 2018年の年間と第4四半期のGDPが発表され、年間の名目額がR$6兆8,276億(ドル換算でUS$1兆8,679億)で、成長率は1.1%と2017年と同じとなり、景気回復の足踏み状態を示すものとなった。一人当たりGDPは名目額がR$ 32,747、成長率は0.3%と同様に前年と同じ数値となった(グラフ1)。2018年は、5月後半のトラック運転手の道路封鎖ストライキにより物流をはじめ経済が一時停止状態になったことや、10月の大統領選をめぐり不透明感が増したことなどが、経済を予想より低い成長にとどめる主な要因となった。また、第4四半期GDP(名目)はR$1兆7,797億(前期比0.1%、前年同期比1.1%)で、直近四半期の推移も経済が足踏み状態であることを示す結果となった(グラフ2)。そのため、2019年のGDP予測を2%台半ばからほぼ2%へと下方修正する動きが見られた。

グラフ1  過去10年間の年間GDPの推移

グラフ1  過去10年間の年間GDPの推移

(出所)IBGE  (注)左軸がGDPの金額(「T」は「兆」、棒グラフの「B」は「10億」)、右軸が成長率。


グラフ2 四半期GDPの推移:2017年第4四半期以降

グラフ3 四半期GDPの推移:2017年第4四半期以降

(出所)IBGE  (注)左軸が成長率、右軸が金額(「B」は「10億」、棒グラフの数値は「百万」)。


2018年GDPの需給部門を見ると(グラフ3)、需要面で家計支出が1.9%と2年連続のプラスとなったことに加え、設備投資である総固定資本形成(4.1%)が4年ぶりにマイナスからプラスに転じたことが好材料であった。緊縮財政の影響もあり政府支出(0.0%)はゼロ成長だったが、輸出(4.1%)は4年連続、輸入(8.5%)は2年連続のプラスであり、貿易の好調さを示すものとなった。また供給面では、前年に大幅なプラスとなるなど景気回復を牽引してきた農牧業(0.1%)が、トラック運転手の道路封鎖ストライキの影響を受け僅かな伸びにとどまったことが、全体の成長率を引き下げる要因となった。ただし、工業(0.6%)は4年ぶりにマイナス成長を脱し、サービス業(1.3%)も前年を上回る伸びとなった。
グラフ3 2018年GDPの需給部門:前年との比較

グラフ3 2018年GDPの需給部門:前年との比較

(出所)IBGE


2018年の第4四半期の需給部門の概要(グラフ4)および前期比の推移(グラフ5)では、家計支出(前期比0.4%、前年同期比1.5%)は低い伸びながら堅調に推移しているが、2018年通年で高い伸びを示した総固定資本形成(同▲2.5%、3.0%)が第4四半期では前期比がマイナスに転じたことが懸念される。また、トラック運転手による道路ストライキ後に輸出(同3.6%、12.0%)が順調に回復した一方、輸入(同▲6.6%、6.0%)は前期比が大幅なマイナスとなった。2018年通年では4年ぶりにプラス成長に転じた工業(同▲0.3%、▲0.5%)は、鉱業(同1.9%、3.9%)が堅調だったものの、製造業(同▲1.0%、同▲1.5%)や建設業(同0.1%、同▲2.2%)の影響から第4四半期は再びマイナスとなった。サービス業(同0.2%、1.7%)はプラス成長を維持したが、商業(同▲0.1、0.9%)が前期比でマイナスだったこともあり、低い伸びでの推移となった。
グラフ4 2018年第4四半期GDPの需給部門

グラフ4 2018年第4四半期GDPの需給部門

(出所)IBGE


グラフ5 直近5四半期GDPの需給部門の推移:前期比

グラフ5 直近5四半期GDPの需給部門の推移:前期比

(出所)IBGE


貿易収支:2月の貿易収支は、輸出額がUS$162.93億(前月比▲12.3%、前年同月比▲6.4%)、輸入額がUS$126.20億(同▲23.0%、同▲12.4%)で、貿易収支はUS$36.73億(同+67.6%、同+22.4%)と2017年(US$45.60億)に次ぐ黒字額だった。年初からの累計は輸出額がUS$348.72億(前年同期比+1.3%)、輸入額がUS$290.07億(同+1.4%)で、貿易黒字額はUS$58.65億(同+0.7%)だった。

輸出に関しては、一次産品がUS$83.63億(1日平均額の前年同月比+10.2%)、半製品がUS$19.74億(同▲21.2%)、完成品がUS$59.56億(同▲32.3%)であった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$45.53億、同+17.1%)、2位が米国(US$21.57億、同+4.7%)、3位がアルゼンチン(US$8.61億、同▲47.3%)、4位がオランダ(US$7.07億)、5位がドイツ(US$4.48億)であった。輸出品目に関して、増加率ではエンジンなどの航空部品(同+182.4%、US$1.79億)が100%以上の伸びとなり、減少率では大豆油(同▲76.5%、US$0.25億)と貨物車(同▲56.3%、US$0.95億)が50%以上減少した。輸出額では(「その他」を除く)、大豆(US$22.06億、同+81.6%)が20億以上、原油(US$15.34億、同▲9.5%)と鉄鉱石(US$15.29億、同+9.4%)がUS$10億以上の取引額を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$13.83億(1日平均額の前年同月比▲61.9%)、原料・中間財がUS$79.95億(同▲2.9%)、耐久消費財がUS$4.23億(同▲18.3%)、非・半耐久消費財がUS$15.77億(同▲9.3%)、基礎燃料がUS$6.27億(同▲22.2%)、精製燃料がUS$6.10億(同▲43.4%)であった。主要輸入元は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$26.68億、同▲4.2%)、2位が米国(US$ 20.78億、同▲12.4%)、3位がアルゼンチン(US$8.97億、同+7.6%)、4位がドイツ(US$7.95億)、5位が韓国(US$3.54億、▲25.8%)だった。

物価:発表された1月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.32%(前月比+0.17%p、前年同月比+0.03%p)であった。また、直近12カ月(年率)は3.78%(前月同期比+0.03%p)だった。

分野別では、飲食料品分野が0.90%(前月比+0.46%p、前年同月比+0.16%p)で、トラック運転手の道路封鎖ストライキで高騰した去年6月(2.03%)以降で最も高い数値となった。トマト(▲19.46%)など値下がりした品目もあったが、フェイジョン豆(carioca:19.76%)とタマネギ(10.21%)の10%超をはじめ、値上がりした品目が多かった。非飲食料品では、年始に当たる1月に休暇を取得する人が多く、旅行(6.77%)やホテル(1.06%)が大きく値上がりしたことから、個人消費分野(同0.29%→0.61%)が高い伸びとなった。一方、教育分野(同0.21%→0.12%)のように数値が減少した分野もあり、年末のプレゼント・シーズン終了で需要が減少した衣料分野(同1.14%→▲1.15%)はデフレを記録した。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は6日、Selicを6.50%で据え置くことを全会一致で決定した。今回でSelic据え置きは7回連続で過去2番目に多い据え置き回数となったが(最多は2015年9月から2016年5月までの9回)、市場関係者の予想通りであった。今回までのCopomの議長はTemer前政権下で中央銀行総裁だったIlan Goldfajnが務めたが、次回3月からはBolsonaro政権で中央銀行総裁に就任したRoberto Campos Netoに交代することになる。Roberto新総裁は経済リベラル派と見られているが、年金改革法案の議会交渉が本格化すること、物価が落ち着いて推移していること、景気回復の足取りが鈍いことなどから、新メンバーとなるCopomでもSelicはしばらく据え置かれるであろうとの見方が多くされている。

為替市場:2月のドル・レアル為替相場は月の前半、ドル高レアル安が進む展開となった。その要因として、Guedes経済大臣が年金改革法案の内容を発表したが、受給最低年齢を男女とも65歳に設定したり、40年間の保険料納付を年金の全額受給の条件としたり、抜本的なものとなっており市場や経済界からは前向きな評価を得たが、議会だけでなく政権内でも同法案に異を唱える意見が多く出たことが挙げられる。また、米国の政府機関が再び部分的に閉鎖される可能性や、米中の貿易交渉をめぐる不透明感もリスクテイクの動きを弱め、14日に月内のドル最高値となるUS$1=R$3.7756を記録した。

その後、月の後半はほぼ横ばいの値動きとなった。レアル高の要因としては、年金改革に関して受給最低年齢を男性65歳、女性62歳に設定するなどの新たな政府案が提示され、20日に正式な年金改革法案が議会に提出されたことが挙げられる。また、米中の貿易交渉が進展を見せたこともリスクテイクの動きを強め、レアル買いとなった。一方、与党の社会自由党(PSL)に対して昨年の大統領選での不正資金疑惑が浮上し、当時の同党の党首だったBebianno大統領府事務総長とBolsonaro大統領の間の関係が悪化したことが、レアル売りの要因となった。結局、Bebianno大統領府事務総長は更迭され、政権発足後2カ月未満で与党の要人である大臣が解任されたことで、Bolsonaro政権にとって年金改革法案などの議会交渉が困難になるとの懸念が高まった。そのため、月末は前月末比でドルが2.37%の上昇となるUS$1=R$3.7385(売値)で2月の取引を終えた。

株式市場:2月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は月の初め、上下院議長に政府寄りのMaia下院議員(DEM:民主党)とAlcolumbre上院議員(同)が選出されたことに加え、昨年の選挙で選出された国会議員による新たな議会が開会し、所信表明演説で抜本的な年金改革の提案や犯罪組織との闘いが強調されたことを好感して上昇し、4日に史上最高値となる98,589pを記録した。しかしその後、政府が提案した年金改革や治安対策の内容に対して、反対する議員や難色を示す政府要人もいたため、議会での法案審議が難航するとの見方が強まった。また、米国のTrump大統領が行った一般教書演説において米中貿易摩擦の具体的な解決策が示されなかったことや、一部の政府機関が再び閉鎖される可能性が高まったことを嫌気し、株価は大きく値を下げた。さらに、EU離脱交渉が難航している英国の2018年第4四半期GDPが予想より低く、英国やEU経済に対する不安が高まったことも、下落の要因となった。

月の半ば、Trump大統領が主張してきた国境の壁建設をめぐる予算に関して、与野党間で妥協点を見出すことができ、懸念されていた米国の政府機関の一部封鎖が回避されたことや、去年の選挙キャンペーン中に襲撃された傷の最終的な治療を行うべく入院していたBolsonaro大統領が、予定より遅れたものの退院できる見通しとなったことで、株価は上昇に転じた。また、退院したBolsonaro大統領がGuedes経済大臣などと話し合いを行い、年金受給最低年齢の設置や過去の法案より短期となる12年間の移行期間の設定など、年金改革の政府案を最終的に決定したことも好感された。

しかしその後、去年の大統領選における与党の社会自由党(PSL)の不正資金疑惑が浮上し、同党の当時の党首だったBebianno大統領府事務総長に対して、Bolsonaro大統領と議員である大統領の息子が“嘘つき”と呼ぶなど批判的な言動を行った。政権内および議会交渉で重要な人物の解任に否定的な意見もあり決定が遅れたが、最終的にBebianno大統領府事務総長は更迭された。喫緊の課題である年金改革法案の議会審議を前にして、Bolsonaro大統領が政権内部をまとめ切れていないことを露呈するかたちとなり、株価は下落。20日に議会へ正式に提案された政府の年金改革法案への期待や、米中の貿易交渉が進展を見せていることを好感し、上昇する場面も見られた。しかし、発表された2018年GDPで景気回復が足踏み状態であることが示されると株は大きく値を下げ、月末は前月末比で▲1.86%の下落となる95,584pで2月の取引を終了した。