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規制とプライベート・スタンダード:欧州からアジアへのグローバル化管理政策の波及

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.101

2017年12月1日発行

PDF (652KB)

  • EUの「管理されたグローバル化」の概念は、大きなEU市場とグローバルサプライチェーンを背景に、製品規制政策の他国への波及を通じて、域外に影響を及ぼしている。
  • 生産工程の持続可能性や労働等の要求事項について認証するプライベート・スタンダード(PS)は、規制と類似の効果を持ち、EUの「管理されたグローバル化」政策を補完している。
  • アジアでは、欧州の規制とPSに対し、国別・産業別に、官民がアドホックに対応を行っているが、グローバル化を踏まえた最適な対応策の検討が必要であろう。
1999年当時の欧州委員会委員であったパスカル・ラミーは管理されたグローバル化(managed globalization)という概念を提示した。EU(欧州連合)の政治家や官僚は、EUというプラットフォームを活用することで、加盟国や企業がグローバル化から様々な利益を得て、かつその負の影響を緩和し、欧州の理念や方式を世界に広める方策を検討した。この政策は主に5つのメカニズムによって実施されている。規制による影響力の行使、政策対象の拡大、国際機関のエンパワメント、EU地域の拡大、そしてグローバル化のコストの再配分である。(Jacoby and Meunier 2010)。本稿では、上記メカニズムのうち、規制について論じる。
規制が域外に与える影響

EUが影響力を行使する規制の分野には、化学物質、食品、通信、金融、そして環境等が該当する。環境分野では、EUは厳しい規制を導入し、他国や域外企業がEU規制にあわせるように促しつつ、EUの方式をグローバル標準とする国際交渉を行う戦略をとっている(Kelemen 2010)。 規制政策のなかでも、製品に関する規制政策は、EU市場向けに生産活動を行っている生産者・企業の競争条件を変化させる。具体的には、域内外を問わず、規制を遵守しない製品はEU市場に上市できないことから、厳しい安全性や環境基準を満たすことができる製品や企業の競争力を引き上げ、プロダクト・デザインなどで将来にわたる規制の変化に対応できる企業を有利にする。さらに、厳しい規制政策は、安全で環境によい生産活動を後押し、そうでないものにペナルティを課すことで、高い安全性や環境保護を目指す価値観を他国にも広げていく方策でもある。

規制の波及

EUの電気・電子製品中の有害物質を規制するRoHS指令や化学物質規制であるREACH規則もこのような規制政策の一環といえる。RoHS指令の導入により、電気・電子製品やその部品を生産し、EUを主要市場とする輸出国は、自国企業の規制対応を容易にするため各国版RoHS規則を策定した。グローバルサプライチェーンの役割が高まるなか、その中に組み込まれることが輸出志向の工業発展の方策であることを踏まえ、包摂的貿易(inclusive trade)を目指した産業政策の一環であった。各国版RoHSの策定は、 条約や貿易協定等によらず、各国が自主的に対応した結果であり、全体として政策の波及という事象を生み出し、規制引き上げ競争(race-to-the-top)をもたらした(Michida et al. 2017)。このように、EUの市場規模の大きさをてこに起こった政策の波及も、EUの理念やルールを波及させるメカニズムの一つとなっている。 アジアでは、各国が自国の特性を踏まえてEUの規制政策を模倣した政策を策定した結果、詳細において異なる複数の規制が策定され、自ら貿易障壁を作り出すことになった。また、政策キャパシティが不足しているという理由で同様の政策の導入ができない国は、他国で規制を満たせない製品が輸出される汚染逃避地(pollution haven)となる恐れもある。熟考されたEUのグローバル化管理戦略にアドホックに対応した結果、アジア各国にとっては最適ではない政策形成になったのではないだろうか。

規制とプライベート・スタンダード

製品に関連する規制、例えば化学物質規制は、規制物質が含有されている製品とそうでない製品という区別が可能で、WTOにおいても2つの製品は同種の産品ではないと主張でき、化学物質含有を根拠に含有している製品を規制することができる。一方、同じ性質・用途の製品であるが、生産方法(PPM)の持続可能性、労働基準等の指標を使って製品を規制する場合にTBT協定でどのように扱うかは明確なルールが設定されていない(藤岡 2002)。

生産方法の環境へのインパクトや持続可能性の指標により産品を区別する方法として増えてきているのが、プライベート・スタンダード(PS)である。PSは、公的な規制とは異なり自主的な取り組みである。多くは消費者に、例えば製品が持続可能な方法で生産されているかどうか等、情報を与える目的で策定されている。そして、個別の事業者だけでなく、製品に関わるサプライチェーン全体を認証するものが多いという特徴をもつ。PSは、食品・環境分野に多い。 PSは民間セクターを中心に策定される自主的な取り組みであるが、EUの規制の一部に使われることもある。EU再生可能エネルギー指令(Directive2009/28/EC)では、バイオ燃料に持続可能性指標を満たすことを求めている。そして欧州委員会は、指定されたPSの認証をうけることで、規制を満たすことができるとしている。このように、EUは規制のみを政策としているのではなく、PSを含めて政策を展開しているといえるだろう。 プライベート・スタンダードの波及  規制の波及と同様、PSの波及も起こっている。適正な農業の実践についての工程を認証する仕組みである欧州のGlobalG.A.P.は、日本を含めアジア各国に波及し、類似の認証制度が策定されている。GlobalG.A.P.は自主的な取り組みであるが、欧州の小売り業者を中心に、GlobalG.A.P.認証をもつ農家の農産物から仕入れをするため、事実上の規制のような働きをしている。輸出各国では、GlobalG.A.P.への対応策として、自国の状況を踏まえた各国版GAPを策定し、欧州GlobalG.A.P.認証への足がかりとしようとしている (Michida et al. 2017)。

パーム油認証でも、各国版策定の動きがみられる。欧州で策定された厳しい持続可能性要求を伴うRSPOが貿易障壁であるとして、パーム油の最大生産国であるインドネシアとマレーシアはそれぞれISPO, MSPOという自国版パーム油認証を策定し、RSPOに対抗してこれらをグローバル・スタンダードにしようと考えた。

しかしGlobalG.A.P.やパーム油認証の各国版は、国内での認知が遅れており、認証をうけてもこれらの製品への大きな需要は生まれていない。また目的としていた欧州市場でも受け入れられず、PSの波及が当初の市場アクセスの確保や持続可能性目標を達成につながったのかについては、今後の状況も踏まえて検証が必要であろう。

まとめ
EUのグローバル化管理政策が成功しているのかについても様々な議論がある。一方、国際情勢がEU、米国、中国等と多極化するなか、市場規模の大きい各地域がそれぞれグローバル化戦略を行う場合に、他国はどのように対応していくのか、国・産業分野横断的に協調して考えていく必要があるだろう。
参考文献
  • Jacoby, W., S.Meunier.(2010)Europe and the Management of Globalization. Journal of European Public Policy, 17:3. p299-317.
  • Kelemen, R. D. (2010) Globalizing European Union Environmental Policy. Journal of European Public Policy, 17:3, p335-349.
  • Michida, E., J. Humphrey, and K. Nabeshima (2017) Regulations and International Trade, Palgrave Macmillan.
  • 藤岡典夫(2002)「エコラベルとWTO協定」農林水産政策研究
  • 道田悦代(2017)「森林・住民生活をどう守るか:パーム油スタンダードの影響と課題」(出版予定)

(みちだ えつよ/新領域研究センター)

本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。