中東レビュー
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論稿
ロウハーニー政権:イラン内政の新たな転換
Ghoncheh Tazmini
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2018 年 5 巻 p. 57-71

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抄録

2017年5月の第12回イラン大統領選挙で再選を果たしたロウハーニー大統領は、アフマディネジャード大統領を挟んでハータミー大統領(1997年-2005年)の時代からの内政・外交上の改革政策を継承しつつ、政治手法としては従来と異なった新たなアプローチを取っている。それは①共和主義、②経済発展、③経済的公正、④政治的自由の4つの公準をめぐるイラン近代史の100年間の試行錯誤の帰結として捉えることが可能である。

共和主義との関係でいえば、ロウハーニーはハータミーと同様に改革派的な立場ではあるがハータミー程に急進的ではない。経済発展については1980-90年代のラフサンジャーニーの時代に特に追及され、ロウハーニーもこれを重視している。経済的公正はアフマディネジャードがとりわけ強調した公準である。政治的自由は特に対外関係において1950年代のモサッデク首相の時代と1979年の革命期に前面にでた政治原則である。

我々はこれらの政治的な原則を、「イラン主義」と「イスラーム主義」の2つの軸のあいだのどこかに位置づけて考察することができる。ロウハーニーの政治的な立場について要言すれば、彼はこうした公準のいずれかに傾斜することなく、イラン社会の政治的・文化的および政治経済的な変容の帰結としての「下からの改革要求」に注意深く配慮した「中庸」の選択を重ねてきていると結論づけられる。

総じて現在のイランでは伝統的な社会的・文化的価値体系と近代的な価値体系とのあいだでイランなりの共存の形を模索する過程が続けられている。それはロウハーニー政権下においても変わることなく、社会生活のあらゆる局面で公的空間と私的空間における女性の行動規範の問題をはじめ様々な新たな問題が提起され、議論と再検討が進行中であるといい得るのである。

(文責・鈴木 均)

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