資料紹介:世界がわかる地理学入門――気候・地形・動植物と人間生活――

アフリカレポート

No.56

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050435

資料紹介:水野 一晴 著『世界がわかる地理学入門――気候・地形・動植物と人間生活――』

■ 資料紹介:水野 一晴 著『世界がわかる地理学入門――気候・地形・動植物と人間生活――』
佐藤 章
■ 『アフリカレポート』2018年 No.56、p.79
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本書は、世界のさまざまな気候帯のもとで、自然、気候メカニズム、生態環境、生業、人びとの生活がどのようなものかを解説した入門書である。新書版のコンパクトなサイズのなかに、具体的な情報がふんだんに盛り込まれ、多数の図版や写真が理解をさらに深めてくれる。人びとの生活に関しては、とりわけ先住民に焦点が当てられており、環境に適応した暮らしを営んできた人びとの姿を通して、自然と人間の関係について多くを学ぶことができる。

「読者のみなさんには本書によって(中略)世界旅行をしていただければと思う」(p.13)というのが著者からのメッセージであるが、本書全編を通して、とりわけ熱烈に誘いがなされるのがアフリカである。熱帯気候(第1章)と乾燥・半乾燥気候(第2章)に関しては、コンゴやギニアの熱帯雨林、大型類人猿、「緑のサハラ」、天然ゴムやカカオなどの農作物、焼畑農業、ナミブ砂漠とそこに暮らす興味深い生物、狩猟採集民や牧畜民のくらしなど、アフリカでの事例がたくさん紹介される。アフリカの事例は、それだけではなく、寒冷・冷帯気候(第3章)と温帯気候(第4章)の記述のなかでも触れられる。赤道直下のケニア山には氷河があり、南アフリカのケープタウン周辺には、ペンギンが生息し、温帯地域のなかでも特異な独特の植生が見られるのだという。この点で本書は、アフリカ大陸の豊かな気候的多様性を描いた本でもある。

日本に拠点を置くアフリカ研究者の研究成果が数多く紹介されているところも本書の読みどころである。熱帯の森林、乾燥したサバンナ、砂漠といった異なる環境のなかでの研究者たちの臨場感ある体験は生々しく、思わず引き込まれる。紹介された研究についての情報は、巻末の参考文献リストに網羅的にまとめられており、これを手がかりにさらに読み進めていけるのもうれしい。

大学の学部生向けなどのアフリカに関する入門的な講義をする際、アフリカの気候が実に多様なことを紹介すると、きまって聴講者から驚きの声が上がる。本書を読んでやはり同じような驚きの声を上げる人びとがいるに違いない。また、自分自身を振り返ってみるに、アフリカの国を研究しているとはいえ、実際に訪れた国は限られているし、行き先も都市にとどまることがほとんどだ。自分がいまだ体験したことのない広大なアフリカへの思いをかき立てくれる一冊である。

佐藤 章(さとう・あきら/アジア経済研究所)