資料紹介:地域研究からみた人道支援――アフリカ遊牧民の現場から問い直す――

アフリカレポート

No.56

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050431

資料紹介:湖中 真哉、太田 至、孫 暁剛 編『地域研究からみた人道支援――アフリカ遊牧民の現場から問い直す――』

■ 資料紹介:湖中 真哉、太田 至、孫 暁剛 編『地域研究からみた人道支援――アフリカ遊牧民の現場から問い直す――』
■ 武内 進一
■ 『アフリカレポート』2018年 No.56、p.75
(画像をクリックするとPDFをダウンロードします)

本書は、明確な問題意識の下に編まれた論文集である。アフリカに生きる遊牧民は、気候変動や劣悪なガバナンスの影響を受けて、過酷な環境の下で長きにわたって人道支援の対象とされてきた。編者は本書の冒頭で、遊牧民にとっての人道支援の意味を問い、彼らの状況を改善するために必要な人道支援の理念と方法を問うことを課題として設定している。執筆陣の多くは、長く遊牧民と付き合い、調査を続けてきた人類学者である。彼らが人道支援や開発援助の専門家と対話を重ねつつ、本書をまとめ上げた。

編者のコントロールが効いているのであろう。各章は単なる実態調査報告ではなく、どのような政策提言が可能なのかを意識して書かれている。そのため、研究書でありながら、実務家との対話が十分可能な内容に仕上がっている。とりわけ、「開発援助機関と遊牧民双方の視座でものを見る」ためにグローバルなものとローカルなものの間の「接合領域」に焦点を当てる手法は興味深く、また遊牧民の尊厳を基準にして支援を考えるべきだという主張は説得的に思えた。本書は、研究と実務の架橋という点でも、高く評価されるべき成果である。

評者は本書から多くを学んだが、同時にアフリカ遊牧民が直面する状況がきわめて深刻であることに改めて衝撃を受けた。第1章で詳細に分析されるレンディーレの人々が援助なしで暮らしていける日は、果たしてやってくるのだろうか。危機が常態化し、援助は彼らの生計に織り込まれているように見える。現金移転事業のメリットはよくわかるが、食糧援助が現金移転に代替されただけではないのだろうか。遊牧民の生活様式を維持したままで、援助から脱却する方策はあるのだろうか。それとも、ことさら援助からの脱却など考える必要はないのだろうか。評者には答えの出ない問いが残った。

ケニアの難民キャンプで教育を受けるために、南スーダンから移動してくる子どもたちの話(第6章)にも驚かされる。こうした「教育難民化」現象に現代社会の矛盾や援助のゆがみを指摘するのは簡単だが、難民キャンプが彼ら彼女らに「チャンス」を与える場であることも歴然たる事実である。何をすべきなのか。実践面での課題は巨大である。

終章で編者の一人が指摘するように、支援をする側とそれを受ける側の関係は非対称的である。その点を認識したうえで、後者の尊厳を守る方策を考え抜くしかないのだろう。読後感は重いが、広く読まれるべき本だと思った。

武内 進一(たけうち・しんいち/アジア経済研究所・東京外国語大学)