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資料紹介: 紛争をおさめる文化——不完全性とブリコラージュの実践——

アフリカレポート

資料紹介

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■ 資料紹介:松田 素二・平野(野元)美佐 編(シリーズ総編者 太田 至) 『紛争をおさめる文化——不完全性とブリコラージュの実践——』
武内 進一
■ 『アフリカレポート』2016年 No.54、p.89
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本書は、2011~15年度に実施された科研費プロジェクトの成果である。「アフリカにおける紛争と共生」をテーマとするこのプロジェクトには国内外から多数のアフリカ研究者が参加し、成果として京都大学学術出版会からシリーズ「アフリカ潜在力」全5巻が刊行された。本書はその第1巻である。研究プロジェクトの企画、立案、遂行を中心的に担った太田至や松田素二の論文が所収された本書は、シリーズの中でもプロジェクトの狙いが最も明瞭に示された巻と言える。

近年アフリカでは深刻な武力紛争が多発し、国際社会がその解決に向けた関与を続けてきた。そこでは欧米出自の紛争解決策(例えば、処罰を前提とする裁判)が唱導される一方、アフリカ人による主体的な紛争解決や共生の実践は注目されてこなかった。太田や松田は、この部分に光を当て、アフリカ人の実践から学ぶ必要性を説く。それは「近代」に対して「伝統」や「慣習」を称揚することではない。アフリカの人々は、生活の中に必要に応じて欧米出自の制度や思想を取り込み、自分たちの論理や制度のなかで再解釈しつつそれらを利用してきた。こうしたブリコラージュ的実践に典型的に見られる、自らの「不完全性」を前提とした「異種結節」(第9章ニャムンジョ論文)こそ、アフリカの特質であり、そこを評価し、学ぶべきだとの主張である。

本書に所収された事例は、アフリカにおける紛争解決や共生の実践、ブリコラージュの可能性、そしてそれらが特定の状況において持つ有効性を浮かび上がらせる。人類学者によるミクロな調査が、こうした主張を説得的に展開するうえで強みとなっている。評者はマクロ政治を分析対象とする第2巻に参加したが、紛争解決や共生の成功例を探すのは簡単ではなかった。「アフリカ潜在力」という概念は魅力的だが、なお検討すべき論点を孕んでいると評者は理解している。

所収論文の中では、ホルツマンの「悪い友人と良い敵」が非常に面白く、触発されるところが多かった。この論文は、ケニアの牧畜民サンブル、ポコット、トゥルカナの民族間関係の分析から、戦争の不在が共生に繋がらず、紛争を前提とした関係の方が共生を導くことを説得的に描き出す。このパラドクスは普遍的真理を突いており、紛争解決や共生を考えるうえで真剣な考慮に値する。「アフリカ潜在力」はニャムンジョが言う意味で「不完全」な概念だと思うが、それを掲げたプロジェクトから有意義な成果が多く生まれたことは確かである。

武内 進一(たけうち・しんいち/アジア経済研究所)