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「新興国の新しい労働運動」 予備的考察

調査研究報告書

太田仁志 編

2019年3月発行

第1章
本章では新興5か国を対象とする、「新興国の新しい労働運動」研究をまとめる序論にむけた作業として、「新しい労働運動」を社会運動ユニオニズムの出自をもとに、2つの系譜に整理した。また分析対象5か国の「新しい労働運動」と、統計を用いて各国の基本特性の確認も行っている。「新しい労働運動」の2つの系譜について、第1の系譜は、社会変革をも視野に入れた、労働組合による時に闘争的な、開発・経済発展や政治体制のあり方が問われる状況下の労働運動、または過去にそのような特性を持った運動の流れを受ける労働運動である。第2の系譜は、担い手が労働組合に限らない、排除された労働者の権利擁護や社会正義の実現を目指す労働運動である。ともに労働組合以外の社会グループや、コミュニティでの協働やネットワークが重要な位置づけにある。
第2章
ブラジルでは1970年代後半に「新しい労働運動」が興隆し、1985年の軍政から民政への移行という国の体制変換に重要な役割を果たした。本稿では「新しい労働運動」を含め、ブラジルの労働運動・労働組合の変遷、現在の状況、直面する問題についてまとめる。その際、軍事政権を含む過去の権威主義的な体制、および、それに類似する可能性のある2019年に発足したボルソナーロ新政権にひとつの焦点を当てる。
第3章
2015年時点で南アフリカにおける組合組織率は27.6%、組合加盟労働者の半数以上が同国最大の労組連合である南アフリカ労働組合会議(Congress of South African Trade Unions: COSATU)加盟労組の組合員となっている。本章では、南アフリカにおける「新しい」労働運動の動態について理解するための準備作業として、先行研究をもとに、1970年代以降の南アフリカにおける労働組合運動の変遷についてCOSATUを中心に考察する。具体的には第一に、COSATU結成の背景や結成後の活動の特徴、反アパルトヘイト運動との関わりなどを検討し、COSATUが社会運動ユニオニズム(SMU)の典型例と見なされてきた所以を明らかにする。第二に、アパルトヘイト体制の撤廃(=民主化)という政治体制の変化が、COSATUを中心とする労働組合運動にどのような影響を及ぼしたのかについて検討する。
第4章

After 117 years, Philippine unionism remain as a vehicle for worker voice and representation in industrial relations, guaranteed by the Constitution and labor laws. The first Philippine union was established in 1902. Interviews and analysis of available documents and statements of Philippine trade union leaders, labor political party groups and worker associations indicate various degrees of engagement in social and political unionism beyond economic unionism through collective bargaining.

Yet, the number and membership of Philippine trade unions remained small and, therefore, weak in terms of collective bargaining. The fragmentation of unions is extreme, and competition among unions continues to make the labor movement weak. The fact that bargaining representation is subject to elections every five years leads to a lot of union raiding across and within industries, and thus unions spend their energies vying for existing membership rather than organizing new members. Without the ability to expand collective bargaining beyond these small numbers, unions would have no significant strength as a voice on the concerns of labor in the economic development process. The inability of unions to resolve jurisdictional problems and come together to cooperate also implies limited ability to focus on the development of solid solidarity work or collaboration.

The diversity and history of Philippine trade unions also shows the need for policy reforms to move forward beyond narrow tripartism, towards greater pluralism to balance competing interests. The promotion decent work and industrial democracy shall build on the historical experience and adjust to the emerging platforms enabled by technology, with changing job designs, employment relations for effective voice and representation of workers’ interest.

第5章
本章では「新しい労働運動」の文脈では従来あまり注目されてこなかった、中国において1980年代後半に出現し天安門事件の中で展開された労働者による要求運動がどのようなものであったのかを、資料をもとに整理する。それに先立ち、建国前後の時代にさかのぼって中国の古い労働運動の起源を追い、官製組合である「工会」の成り立ちと、中国において新しい労働運動が生まれた背景も考察したい。
第7章

本稿は「従来型インド労働運動論」の展開を通じて、インドの「新しい労働運動」への接近を試みる。まず統計を用いて労働組合と労働運動の特性を明らかにし、次いで労働運動の史的展開にアノマリーがあるかを確認すべく、時代区分を取る形で労働運動の特性を追う。最後に2019年1月に実施された全国的な大規模ストライキと、それに連なる前年の労働者全国大会から、従来型労働運動の今日の動態をみる。労働運動の史的展開からは、1970年代~1980年代中盤と1990年代中盤以降の2つの時期の特性を「新しい労働運動」とみなし得る可能性が示される。他方、従来型労働運動も軌道修正を徐々に行っているが、依然としてインドの労働運動は主要労働組合がドミネイトしている。拾われない声/ヴォイスについて、その発言の制度化にも新しい労働運動の可能性があると考えられる。