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メコン地域の輸送インフラと物流事情

調査研究報告書

石田 正美梅﨑 創 編

2018年3月発行

第1章
本稿ではベトナムとミャンマーで2017 年に実施した物流企業調査結果を報告する。ハノイ-ホーチミン市間 1607.5 キロメートルは,ドア・トゥ・ドアで道路輸送の場合3日弱,鉄道で 4.5 日,貨物船の場合6日もかかるが,他方航空機であれば 12 時間で済む。この区間は,ハノイからホーチミン市への輸送需要に対し,ホーチミン市からハノイに向かう需要の方が大きいことから,輸送料金は後者が前者の 1.4 倍も高い。他方,ミ ャンマーとマンダレーとの間は,高速道路で631.5 キロメートル,一般国道を利用した場合は 676.1 キロメートルで,一般国道を利用した場合の所要時間は 1.6 日であるが,高速道路を利用した場合の所要時間は 11 時間に過ぎない。しかし,コンテナを牽引したトレ ーラーなどは高速道路を走行できず,一般国道を通らなければならない。越境輸送では,ベトナムとラオスとの国境で越境手続きに要する時間が約4時間と改善が認められたが,カンボジアおよびラオスの通関費がベトナム側の通関費と比べ 8.3 倍と 3.6 倍と高く,物流業者の陸上輸送へのインセンティブを低下させているようである。他方,ミャンマーについては,通関書類がそろっていてもミャンマー側だけで2日間の時間を要するなど,越境手続きの簡素化が求められる。また,ベトナムの企業調査から,20 フィート・コンテナに対する 40 フィート・コンテナを輸送した場合の輸送料金の比と各区間の片荷の割合と片荷が両荷になった場合の割引率を本稿では報告する。
第2章
メコン地域の経済開発においては,ADB 主導の経済回廊構想などを通じて,陸上輸送や海上輸送の強化に焦点が当てられてきたが,航空輸送もその特性を活かした補完的な役割を果たしてきた。実際に,アジア太平洋地域,ASEAN 諸国,メコン地域における航空貨物市場は世界平均を上回る速度で拡大を続けている。特に 2011 年以降はメコン地域(CLMV 諸国)の成長が著しい。ASEAN 内部では,チャンギ空港,スワンナプーム空港は ASEAN 域内外を接続するハ ブとして安定的に成長している。ドンムアン空港は,タイと周辺国を結ぶ地域的なサブ・ハブになりつつある。ノイバイ空港とタンソンニャット空港は,外国との連結性を強化しつつ,国内航空貨物市場の発展に大きく寄与している。ヤンゴン,プノンペン,ビエンチ ャンは,各国と国外を結ぶ窓口へと変貌を始めた段階にある。
第3章

タイの物流事情(1.10MB)/ 蒲田 亮平

タイでは自動車産業の集積を背景とした部品の調達,製造物流が引き続き拡大傾向にある一方,電子商取引の拡大に対応する小口物流拠点・サービスの整備も進む。タイ政府は東部臨海地域(EEC)開発の主要な柱として物流結節点の拡充やそれらを結ぶ物流網の整備を掲げ,今後は EEC 地域を中心に物流インフラの整備が進められる見通しである。他方,政府によるコミットメントの弱さは一層の投資を引き付ける上での大きな制約となっている。タイはメコン地域の中核に位置し,その物流インフラ開発計画は周辺国にも大きな影響を与える。今後は国内政策と地域開発計画の整合性を意識した開発が求められる。
第4章
カンボジアの物流セクターは,今後の産業発展のために優先的に改善が進められている分野のひとつである。道路・港湾・鉄道などのハード・インフラは,物流需要の増加に対応すべく,改善・修復が進められてきており,近年もさらなる整備を進めている。通関手続きなどの手続き面での透明性や効率性の改善も,引き続き重要な課題である。カンボジアの主要輸出産業である縫製業の原材料は,シハヌークビル港もしくはベトナム経由プノンペン港からプノンペン周辺の工場へと供給され,完成品は i)プノンペン港経由もしくは ii)陸路のバベット経由でベトナムの港から,iii)シハヌークビル港から,場合によっては iv)空路,タイ国境に近い地域だと v)ポイペト経由でタイから輸出されている。取扱貨物量は年々増加してはいるものの,カンボジア発の貨物は周辺のハブ港に頼らなければならないことから,貨物を輸送する際の金銭的なコストのみならず,シハヌークビル港やプノンペン港,ベトナムのカイメップ・ティバイ港の船のスケジュールも影響を及ぼす。その際,物流インフラ側のキャパシティに加え,縫製工場などの生産者側がしかるべきタイミングで一定レベルの製品を生産・提供する能力の有無も,物流の活用状況に関係してくる。効率的な物流を構築していくことは,カンボジアの産業全体の大きな課題である。
第5章

大メコン圏の中央に位置する内陸国ラオスでは,慢性的に高い物流コストを削減するため,1990 年代以降国内およびタイやミャンマーとの国境に架かる多くのメコン川の橋が多国間協力体制によって整備されてきた。本稿の目的はこれらのメコン川橋の整備とラオスの越境物流コストとの関係を考察することである。国際機関や関係国の地域データを検討した結果,メコン川橋の整備によって貨幣の輸送コストは,名目では低下していないことが分かった。しかし,メコン川橋によって拡大した越境輸送のキャパシティ ーが越境の時間コストを低下させ,そして,それが越境貿易額と越境交通量の拡大をもたらした。

第6章

ミャンマーの物流事情と今後の展望(1.31MB)/ 水谷 俊博・堀間 洋平

ミャンマーは 2011 年の民政移管以降,貿易が増加傾向にあり,日本企業による運輸・物流分野への進出も拡大している。対内直接投資の拡大や海外からの援助の増加等もあり,経済は堅調に推移しており,内需の拡大により若者たちの間では SNS を活用したインターネット・ショッピングなども流行している。それに伴い,ヤンゴン市内では小口物流に対するニーズが高まる等,新たな潮流も生まれつつある。こうした商品は主に海外から輸入され,中国やタイの国境等を通じて輸送されるケースが多い。中国国境の町であるムセを通じた国境貿易は,ミャンマーの貿易全体の3割を超える水準まで高まっており,国境貿易を通じて運ばれる貨物は今後も増加傾向が続くと思われる。 昨今の物量増加に伴い,ミャンマーの主要税関には電子通関システムが導入され,今後は非居住者在庫制度,2国間での相互通行ライセンスの整備が進むことが期待される。

第7章

ベトナムの物流事情と課題(1.94MB)/ 池部 亮

本稿はベトナム社会科学院の協力を得て実施した現地企業へのヒアリング調査による事例研究を交えつつ,ベトナムの物流を概観する。ベトナムは中国,ラオス,カンボジアと陸続きで,それぞれ経済回廊と呼ばれる陸上輸送路を有す。このため,先行研究の多くが,隣接国との貿易円滑化と外資系企業の国際分業の連結性を焦点としてきた。対外貿易構造の変化としては,一次産品貿易から IT 関連製品などの品目に変化してきたこと,生産ネットワークの一部としてベトナムがこれら製品組立だけでなく部品供給国としての役割を担うようになったことを導出する。中国は最大の貿易相手国となり,中越間の輸送モードも IT 製品の輸送に適したトラックと航空輸送に変化してきた。一方,ベトナムの物流(重量ベース)で圧倒的なシェアを占めるのはハノイとホーチミン市を結ぶ南北間輸送である。その8割弱がトラック輸送に偏重し,鉄道輸送量はこの20 年間でほとんど変化していない。外資系企業の国内物流業への参入規制が円滑な物流環境の実現を阻んでいると考えられる。同国の経済高度化にとって重要な国内物流の円滑化(コスト,時間,質の改善)の実現に向け,公正な競争環境の整備が急務である。