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アフリカにおける女性の国際労働移動

調査研究報告書

児玉 由佳 編

2018年3月発行

序章

本章の目的は、国連、ILO、OECD などによる統計データをもとに、国際移民の全体像を把握することである。本章では、統計データによって国際移民の現状についての理解を深めるとともに、統計データの持つ限界についても把握することを目指す。 Castles, de Haas and Miller(2014, 16)は、近年の国際移民の特徴として、(1)移民のグローバル化、(2)移民の主要な移動方向の変化、(3)移民の多様化、(4)移民過程変遷の普及、(5)移民の女性化、(6)移民の政治化を挙げている。本章では、数値で確認することが可能な項目について、既存の統計データからの検討を試みた。

第1章

本章の目的は、ケニア共和国に暮らすギクユ人女性の国際移動をめぐる研究の手始めとして、ケニア人の移動に関する基礎資料を整理することにある。ケニア人はこれまで、他のアフリカ諸国や大陸外の国々へ頻繁に移動した歴史があり、とくに 90 年代は多くの若者がアメリカ合衆国へ向かった。初期の渡航は男性が中心であったが、90 年代半ば以降、女性が渡航する例も増えてきた。本研究会では「女性」に注目しているが、移動するケニア人女性に限定した既存の資料は見当たらない。その大きな穴は、継続中である筆者のフィールドワーク結果で埋めていくこととして、本章ではケニア人全体を対象とした移住をめぐる歴史、政策、統計や研究動向についてまとめる。

第2章

1990年代以降、西アフリカ諸国からヨーロッパへの移住は「女性化」が進むと同時に、非合法な渡航/入国/滞在も増加している。他方で2000 年代以降、UNHCR が難民認定における「ジェンダー主流化」を進め、女性性器切除(FGM)は女性に対する暴力と位置づけられた。そしてこれを逃れる女性・少女を「特別な社会的集団」と見なして難民と認定する基準が、各国に採用されるようになっている。EU 加盟国の中でもFGM 実施国出身女性の難民申請を最も多く受け入れているフランスで、FGM に基づく難民認定基準が採用 されるようになった過程を検討する。

第3章

1990年代にアパルトヘイト体制を撤廃し、国際社会への復帰を果たした南アフリカは、国際的な難民条約に加盟し、難民法(1998 年)を整備して、難民受入体制を整えた。それからまだ 30 年も経過していないが、この間に南アフリカの難民保護をめぐる状況は大きく変化し、近年では難民政策の変革をめぐる議論が活発化している。 本稿では、南アフリカにおけるアフリカ系女性難民・庇護申請者(asylum-seeker)を取り巻く状況を理解するための準備作業として、(1)民主化後に整備された難民法制の内容とその特質、(2)南アフリカにおける庇護申請および難民認定数の推移と出身国別の傾向について考察し、難民政策の見直しが行われるようになった背景を明らかにする。

第4章

モザンビークは20世紀を通じて南アフリカとの2国間合意に基づいて南アフリカの鉱山業に男性移民労働者を送り出してきた。しかし、南アフリカの民主化以降、鉱山業に代表されるフォーマル・セクターの労働移民の枠が大幅に削減され、旧来の制度自体も大幅に変更されるなか、インフォーマル・セクターに従事する労働移民が急増してきた。その中でも顕著な特徴は、女性移民の増加である。  

2000年代以降の国際労働移動・移民研究では、こうした新たな移民の登場に注目し、インフォーマル・セクターに従事する女性労働移民の実態に迫る研究が発表されてきた。さらに、貧困削減を謳う開発政策との親和性も相まって、移動性を増した労働移民や送金のインパクトが注目される。本稿は、そうした先行研究を批判的に検討したのち、2018年1月に実施した予備調査から今後の見通しを示す。

第5章

本章では、2016年に施行された「エチオピアの海外雇用に関する布告」(No.923/2016)の内容を概観する。この法令No.923/2016は、エチオピア人が国外に労働目的で渡航するための規定を網羅的に定めたものである。エチオピア政府は、2013年10月に中東諸国への労働目的の移住を暫定的に禁止し、現在は主な移民労働者の受け入れ地域である湾岸諸国と労働者の受け入れ条件に関する二国間協定を結びつつある。そのため、まだこの法令No.923/2016の効果は未知数であるが、政府が国外移民労働者への権利保護を明確に打ち出したことは評価すべきであろう。