本稿では民主主義の安定における違憲立法審査の役割について、以下の2つの疑問をもとに先行研究レビューを行った。第1に、違憲立法審査が先進国民主主義国のみならず新興民主主義にも急速に広がったのはなぜか。第2に、違憲立法審査は、どのような条件の下で多数派の横暴を抑制できるのか。過去約10 年間の先行研究の知見によれば、第1に、違憲立法審査が近年世界的に広がったことの大きな理由は、旧支配エリートが民主体制下でも政治的影響力をある程度維持するために、違憲立法審査が有効だったことである。違憲立法審査は体制移行期における旧支配エリートの脅威感を弱め、彼らが民主主義体制を受け容れやすい環境を作り出す。この機能は、民主主義体制の定着に貢献しよう。第2に、違憲立法審査が多数派の横暴を抑制するために、判事の身分保障など、法制度的な保証は必ずしも不可欠ではない。むしろ重要なのは、立法府と行政府の間、あるいは政党間に競争状態が存在することである。それにより、司法府は時の多数派から独立した判決を下しやすくなる。より洗練された手法としては、司法府の中で党派性の均衡を作り出し、すべての党派に判決を遵守させることや、裁判所が世論やメディアを動員して対抗立法を抑止することなどがある。ところで、これまでの研究で手薄な領域は、司法の説明責任の問題である。少数派エリートを代弁する司法審査が、特に文化的亀裂が深い国々で実施されていることが最近判明している。このような反多数派審査が政治的に持続可能かどうかについて今後の分析が期待される。