「法と開発」研究の第3 期(1980年代末~2000年代)については、(1) インフォーマル・ルールにも着目した法構造の立体的把握、(2) 国家の役割の重視という2つの特徴がある。本稿では、エスニシティ概念に注目し、無制限に市場化・民主化を推進することへの警鐘を鳴らすChua の議論を紹介する。Chuaは、途上国において市場経済化と民主化を同時に追求しようとするような制度改革を敢行すると、市場化がもたらす経済支配的少数民族と多数派民族とのあいだの格差拡大と、無制限な民主化がもたらす多数派民族の国家主義的な動きによって、民族紛争の危険性が高まることを指摘し、国家がエスニシティを考慮した慎重な法制度を採用・構築することを求める。