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転機の一帯一路構想と日中経済協力

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.133

大西 康雄

2020年4月10日発行

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  • 一帯一路構想は、経済情勢の変化とアメリカとの摩擦激化により転換を余儀なくされている。
  • 中国自身、変化に対応して、国際的援助理念との整合を図り、実施手法を調整している。
  • 日本と中国は、「第三国市場協力」の枠組みでの協力を模索しているが、東アジアを中心に進むサプライチェーン再編に歩調を合わせた企業レベルの協力が有望であろう。
提起以来6年が経過した一帯一路構想(以下、構想)は、転換の時を迎えている。最大の理由は、構想を取り巻く情勢が変化したことだが、中国自身、変化に主体的に対応して、新たな展開を図ろうとしている。日本は、2018年10月の安倍首相訪中時に中国側とも一定の共通認識に達した「第三国市場協力」の枠組みで協力を模索している。以下では、こうした内外の新しい動向を踏まえて、構想の現状を分析し、日中協力のあり方を展望する。
内外情勢の変化

2013年以降、内外情勢は大きく変化し、中国にとっての構想の位置づけも変化している。

まず、対外経済面の変化を見る。構想が提起された当時、輸出の好調により外貨準備は順調に拡大していた。また、リーマンショック以降継続した大型の景気対策と金融緩和で不動産価格は上昇し、人民元の対ドルレートも上昇基調にあったため、中国の不動産に投資して、その値上がり益と為替差益を稼ぐホットマネーの流入が盛んであった。海外投資を奨励する構想が提起された背景には、こうして形成された豊富な外貨準備があったといえる。

しかし、2015年を境に情勢は変化する。株価の暴落や、IMFのSDR通貨入りを目論んで実施された人民元レート調整の不手際からホットマネーが逆流し、国内資金も海外逃避して外貨準備が急減したのである。こうした変化を背景に、2014年に外資導入を上回るまでになっていた対外投資は減少に転じた。

一方、国内経済面では、不動産価格や株価のバブルを抑制するために引締め気味の政策がとられるようになったことから、成長率の鈍化が始まった。習政権は、「サプライサイド構造改革」を掲げて、サプライサイド=国有部門のリストラと金融リスク回避を重視する一方、新興産業振興政策を実行した。上に述べたような経済情勢とポリシーミックスは、併せて「新常態」と呼ばれた。

さらに第19回中国共産党大会(2017年10月)では、「新常態」をイノベーション主導の経済成長である「新時代」に移行させることが宣言され、経済成長に関して「質の高い発展」が強調されるようになった。「構想」の位置づけも変化して、「共に協議・共に建設・成果共有」を旨とするとされている(2018年3月の全国人民代表大会での政府活動報告)。

一帯一路の質の高い発展

「新時代」における「構想」の内容変化をより具体的に検討する。2019年4月の第2回一帯一路国際協力サミットフォーラムにおいては、「一帯一路共同建設の質の高い発展への転換を推進する」ことが決定された。同フォーラムは2年に1度開催される重要会議であるが、ここで、従来の直接投資や資金援助の量的拡大が主導する方式から、より効率が高く、投資・援助受け入れ国に実質的な利益をもたらす方式が追求されることになったのである。

近年、中国が提唱している「第三のシルクロード」こと「デジタルシルクロード」はその一例である。これは、中国が5G通信ネットワークを構築し、そこに電子商取引(EC)等のサービス網を展開しようとする構想であり、従来の交通・産業インフラを中心とした「構想」に、資金対効果という観点からより効率的な「質の高い発展」プランを提示する意味がある。

もう一つ注目すべきは、構想の「質の高い発展」がG20大阪サミット(2019年6月)で中国も署名して採択された「質の高いインフラ建設原則」と共通する内容を有していることである。同原則には、①持続可能な発展のためにインフラの正のインパクトを最大化すること、②ライフサイクルコストを考慮し経済性を向上すること、③環境への配慮、④自然災害その他のリスクに対する強靭性の構築、⑤社会への配慮、⑥ガバナンスの強化(公平性・透明性の確保)、等が含まれている。

こうした内容を追求することは、構想の転換を意味し、その転換により中国の経済外交を新しい段階に導くことになろう。

第三国市場協力と日本の対応

現在、日中間の経済協力は「第三国市場協力」の枠組みを軸に展開されている。2018年10月の安倍首相の訪中時には、「第1回第三国市場フォーラム」が開催され、52件の各種覚書が交わされた。公表されたリストを見ると、まだ一般的な合意にとどまるレベルのものが多いが、日本側はこれを「国際スタンダードに合致し、第三国の利益となる企業間協力を推進する」(日本外務省ホームページ)という枠組みで実施していくと総括している。

また、日本経済産業省は、第三国市場協力の類型として、①日中企業が共同でインフラ案件を受注・運営、②日本企業の受注案件への中国企業によるEPC(設計、調達、建設)・機器供給、③日中合弁企業による製品の第三国市場展開、④日本企業が中国企業に部品等を供給、製品を第三国に展開、⑤日中企業が協力して中国で構築したビジネスモデルを第三国へ展開、⑥日中企業が第三国市場協力に向けた情報共有を強化、の6つを挙げている。

前項で記したG20の「質の高いインフラ原則」に戻れば、それらの原則は、従来から日本がODA(政府開発援助)において実践してきた内容である。構想が同じ内容を追求するものとなれば、日中両国の協力の範囲と可能性が広がることになるといえる。

米中摩擦の激化と日中協力の今後

米中経済摩擦の日中済協力関係に対する影響はどうであろうか。もともと、国内での各種コストの上昇によって中国企業は海外移転を迫られていたが、米中経済摩擦の激化によってその動きは加速している。移転の目的は、移転先の海外拠点から対米輸出を行うことであり、こうした動きは今後しばらく続くと予想される。

そして、この動きは、日本企業にもビジネスチャンスをもたらす。日中両国企業が東アジアで築いてきたサプライチェーンはオーバーラップしており、中国企業の海外展開は日本企業に波及することになる。その舞台は両国企業が投資している東南アジア等の第三国であり、これも第三国市場協力のモデルとなるだろう。

現実のケースはどうであろうか。筆者は、2019年夏に研究会メンバーとベトナム調査を実施したが、その際に観察できた日中協力モデルの第1は、進出した日本企業が中国から移転してきた企業(日本企業以外で中国企業を含む)から部品、中間財を調達するケースであった(JETROハノイ事務所調査による)。第2は、中国企業が受注したインフラ案件(火力発電所)に対し日本企業が発電プラントを提供している複数のケースである(ヒヤリングによる)。第3は、両国(政府・企業)が建設した工業団地に両国企業が相互に入居しているケースである。

若干の展望

最後に、若干の展望を試みる。構想は、中国企業が海外展開を本格化するなかで提起された。インフラ建設やFTA(自由貿易協定)網形成を通じて海外展開を促進し、方向性を与える役割を果たしたといえる。

しかし、米中経済摩擦が激化するなか、中国企業はそれに対応してサプライチェーン再編に動いている。中国企業と密接な協業関係にある日本企業も連携して動くことになろう。

構想は転機に直面しており、今後の日中経済協力関係においては、こうした企業レベルの協力が最も広い可能性を有すると思われる。

(おおにし やすお/新領域研究センター)

本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。