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経済重視へ舵を切るミャンマーNLD政権

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.129

工藤 年博

2019年5月17日発行

PDF (640KB)

  • アウンサンスーチー国家顧問が率いる国民民主連盟(NLD)政権の、経済重視の姿勢が明らかに。
  • 経済成長には国内市場の開拓と拡大が寄与。今後は輸出振興による外貨獲得が課題に。
  • 動き出した中国=ミャンマー経済回廊の行方に注目。
経済重視へシフトするNLD政権

2016年3月のNLD政権発足後、ミャンマーの経済成長は鈍化した。国内外のビジネスパーソンから景気の悪さについて不満の声があがった。この経済減速の要因は様々あり、NLD政権の経済政策や経済運営にそのすべてを帰責することはできない。しかし、ミャンマー実業界の多くは、少なくとも今回の不況の原因の一端はNLD政権の経済運営のまずさにある、という認識で一致している。  

実際、政権発足後、NLD政権を率いるアウンサンスーチー国家顧問(以下、スーチー国家顧問)は、少数民族武装勢力との和平交渉をおこなう連邦和平会議(通称、21世紀のパンロン会議)に自身の多くの時間と行政リソースを割いてきた。そのため経済政策や経済運営が疎かになった面があった。  

しかし、2020年11月に5年ぶりに実施される総選挙が近づくにつれて、スーチー国家顧問は経済重視に政策の優先順位を移しつつある。多くの国民の期待が、自らの生活に直接関わることがない少数民族地域における和平よりも、暮らしに直結する経済状況の改善にあるということが、ようやく認識されたといえよう。

また、政権発足後3年間のいわば試運転期間を経て、スーチー国家顧問も経済閣僚たちも経済政策・経済運営の実務を理解するようになった。NLDは長年にわたり民主化運動・反軍政活動をおこなってきた政党であり、行政や経済運営についての知識や経験は乏しかった。国家運営という難しい仕事を学ぶのに、3年間というやや長い学習期間が必要であったとしても不思議ではない。  

スーチー国家顧問はすでに選挙運動の前哨戦ともいえる全国行脚を始めており、そこで国民の声を直接聞く機会が増えている。その結果、ミャンマー経済の停滞を打ち破るためには、さらなる改革と自由化が必要であるという認識を得たのではないか。このことが、最近の100年ぶりの会社法の改正、一連の金融自由化措置、保険分野の外資開放といった施策につながってきている。  

日系企業の進出も2018年央まで停滞気味であったが、同年終わりから再び活発になっている様子である。2012年~15年の第一次ミャンマー・ブームのときのようなにぎやかさはないものの、進出業種が多様化してきており、静かなブームが到来するかもしれない。

国内市場の拡大が成長を牽引

こうした静かなミャンマー・ブームを支えているのは主に内需である。ミャンマーに進出する外資の多くは、ミャンマーの内需をターゲットにしている。筆者は2019年3月にミャンマー最大都市のヤンゴンを訪問したが、実際に人々の購買意欲は盛り上がりをみせているように感じた。筆者が宿泊したホテルに隣接する大型ショッピング・モールは平日でも買い物客でにぎわっており、昼食時にはレストランは満員であった。若いビジネスパーソンの姿も目立ち、中間層の台頭を感じた。ショッピング・モールには欧米の有名ブランドが軒を連ねていた。

ミャンマーでは2011年に携帯電話の普及率が数%であったが、通信分野の外資開放により現在はほぼ100%の普及率に達している。しかも、その多くがスマートフォンである。同じ年の中古自動車の輸入自由化により、毎年10万台前後の中古車が日本から輸入された。それまで渋滞知らずであったヤンゴンは、現在大変な混みようである。今、保険業の外資開放が進められているが、これまで保険は国営ミャンマー保険公社が独占しており、本格的なサービスは供給されてこなかった。都市開発・不動産開発も同様である。今、ミャンマーでは近代的なホテル・オフィス・住宅の建設が急ピッチで進んでいる。

半世紀に及んだ社会主義政権と軍事政権下では、こうした潜在的需要が満たされることはなかったのである。ミャンマー経済の成長の原動力は、これまで手つかずであった国内市場の開拓と拡大にある。

写真:ヤンゴン中心部で進む大規模都市開発

(ヤンゴン中心部で進む大規模都市開発、筆者撮影)
輸出促進が課題

国内消費が盛り上がることは良いことである。しかし、国内での生産力が追いついていないため、貿易赤字が年々拡大している。もちろん外国投資をエンジンとして経済成長を目指すミャンマーのような新興国が、貿易赤字に陥るのはやむを得ない。しかし、輸入の増加とともに輸出も伸びていくことが、外国投資の持続的な受け入れのためには必要である。

そのためには、第一に輸出志向型外資の受け入れを促進する必要がある。ミャンマーには例えば隣国タイと比べて、安価かつ豊富な労働力がある。原材料となる農林水産物や天然資源も豊富である。本来、輸出向け生産拠点としても魅力的なはずである。にもかかわらず、こうしたミャンマーの資源を活かした輸出志向型外資は少ない。なぜそうした投資がミャンマーに入ってこないのか、NLD政権はその要因を詳細に検討し、投資環境の整備を進めるべきである。

第二に、外資の輸出解禁を進める必要がある。現在までのところ自社の製造工程をもつ外資にはその製品の輸出許可は出るが、例えば農作物を国内で集めてこれを輸出する場合には、外資に輸出許可が出にくくなっている。こうした規制は国内の貿易業者の利権を守る、実質的な保護政策として機能している。

しかし、保護を続けることで、国内業者は本当に成長することができるのか。いつまで保護を続ければ彼らは競争力を獲得することができるのか。政府はこれらの点を検討し、自由化へのスケジュールを提示すべきである。

中国=ミャンマー経済回廊

ミャンマーの持続的成長にとり、もうひとつ重要な案件が中国=ミャンマー経済回廊である。中国はミャンマーを一帯一路の重点国に位置づけており、経済回廊構想はその中心にある。その詳細は明らかになっていないものの、中国雲南省の昆明とミャンマーのヤカイン州チャウピューを結ぶ道路や鉄道、チャウピューにおける深海港とこれに隣接する経済特区の建設などの大型プロジェクトが含まれている。中国国有の複合企業の中国中信集団(CITIC)を中心とする企業連合が、開発権をもっている。  

しかし、ミャンマー側はいわゆる「債務の罠」を警戒し、プロジェクトの規模を縮小しつつ、ステップ・バイ・ステップで事業をすすめる意向である。また、経済回廊構想には最大都市ヤンゴンと第二の都市マンダレー間の鉄道計画も含まれていたといわれるが、国の中枢ともいえるこの区間の開発権を中国に与えることにミャンマー政府は慎重である。

中国=ミャンマー経済回廊は、インド洋への出口を狙う中国にとって重要な開発構想である。一方、NLD政権はこの経済回廊を利用して、ロヒンギャ問題をかかえるヤカイン州の地域開発を実現したい意向がある。ミャンマーにとっては中国に基幹インフラを握られることなく、しかし中国資本と中国市場へのアクセスを獲得したい。両国の思惑は複雑に絡まっており、今後とも動向を注視する必要がある。

(くどう としひろ/政策研究大学院大学)

本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。