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アフガニスタン情勢と今後の展望 Security Situations in Afghanistan and Its Future

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.125

2019年4月25日発行

PDF (648KB)

  • アフガニスタンの治安状況は2014年以来好転しておらず、この数年はむしろ悪化している。
  • こうした中10月に下院議会選挙が実施されたが、治安情勢の悪化を背景に選挙運営管理の不手際、不正の蔓延が報告されており、2月段階で未だ全国的な選挙結果は公表されていない。
  • 米トランプ政権は12月にアフガンからの米軍撤退を表明したが、現政権とターリバーン側の交渉開始の目途は立っておらず、治安回復のため国際社会の関与の継続は不可欠である。
はじめに

アフガニスタンは2001年の9・11米国同時多発テロ事件と米英の軍事攻撃によるターリバーン敗走以来、20年以上にわたり日本を含む国際社会が莫大な支援を行い、国土の荒廃からの復興と国家体制の再構築をめざしてきた。  

だがアフガニスタン政府による統治の実態は改善せず、地方社会におけるターリバーンの影響力は近年むしろ拡大している。ターリバーンの主要な収入源となるケシ栽培も2017年には過去最大を記録しており(2018年は旱魃により激減)、国際社会は近い将来ターリバーンをアフガニスタンの実効的な支配権力として認めるか否かの岐路に立たされているといえよう。

アフガニスタンの治安状況と今後の展望

アフガニスタンの治安情勢は近年とみに悪化している。米国のアフガニスタン復興特別査察官の公表した具体的な数字の推移から、治安環境の変化を概観すると、ターリバーンは、①国軍・治安当局の能力の不足、②戦闘現場における強さ、の2点を背景にして、「自らが反政府武装勢力ではなく国家である」、「政府とではなく米国と交渉する」、「和解交渉のための前提条件は駐留外国軍の撤退である」、といった強硬姿勢を取り続けている。  

もとより政府側とターリバーン側が装備している戦力を単純に比較すれば、後者は基本的に正規戦でまともに政府軍と対峙できる体制にないことは明らかである。だが政府側の支配が確立していない地方部の係争地域では、低強度の紛争が常態化しており、また政府側支配地域の一部でも、ゲリラ戦やテロ事案が恒常的に発生しているのが実態であり、この意味で不安定な治安情勢がアフガニスタン全体を覆っていると言いうる。  

ターリバーンが支配する地域の生活水準は、政府側の支配が進んでいないために例えば識字率や貧困率、あるいは保健関連指標の多くで、国内他地域に比べて劣悪な状態にある。この背景には政府側の復興・開発に向けた意思・能力に大きな問題がある。国軍・治安当局を含めた政府末端の職務に対するモラルの低さが常態化しているといえる。こうした間隙をぬってターリバーン側は、広い国土のなかでなかば放置された状態にある住民にサービスを提供し、支配領域を拡大しているのである。  

こうしたDemodernization、いわば「近代化からの逆流現象」の典型的な事例とも言いうる国家と社会の実情にも拘らず、アフガニスタンでは10月に下院議会選挙が実施され、その不完全な近代国家としての限界を改めて露呈した。次項でその要点を振り返る。

下院議会選挙の実施状況

アフガニスタンで10月20日・21日(カンダハール州は27日に延期、ガズニー州は未実施)に下院議会が実施されたのは、2010年以来8年振りのことであったが、今回の選挙では日程的にもまた実施の状況をみても、アフガニスタン国家が基本的な国民統治という意味で、依然として大きな問題を抱えていることが改めて明らかになったと言わなければならない。それを何よりも物語っているのは、2019年2月の時点で、全国34州のうち僅か18州の最終結果しか公表されていないことである。  

また、アフガニスタンでは政党政治が全く根付いておらず、全立候補者2,565人のうち政党からの立候補者は僅か7.4パーセントにすぎず、部族的つながりを主とした投票行動が顕著にみられるという。  

選挙期間中を通じて改めて明らかになった課題として、①治安上の問題、②当局による選挙運営管理の不手際と技術的不備、③投票所で偽装的な票の詰め込み等の不正が多数行われたこと、が挙げられる。①に関してはターリバーン側が、占領者である米国に押し付けられた選挙に参加しないよう事前に計4件の声明を発しており、実際に国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)の発表によると、選挙前の7カ月間における治安事案で計496人が死傷、さらに投票日の3日間では計435人が死傷している。

②に関しては、投票日当日の予定時刻に開所しない投票所が続出し、また本来投票所に配置されているべき有権者リストがきちんと設置されていない、さらに投票日直前になって導入が決定された生体認証機材の不具合や扱い方の知識不足が原因で投票できない、といった事例が続出した。また③に関しては、投票後の11月19日の段階で計12,000件の不服が申し立てられ、うち10,564件が決裁され、119件が犯罪と認定されたという。

こうした中で新たな傾向として、若いビジネスマン、市民社会・マスメディア出身者、女性の出馬が少なからずみられたことは、アフガニスタンの国家と社会の将来にとって明るい材料ではある。

米トランプ政権発足の影響と和平への一歩

オバマ政権期において既に米軍撤退が始まっていたアフガニスタン情勢は、2017年のトランプ政権の発足の時点で、明らかに再び新たな転機を迎えた。2018年末に、トランプ政権がシリアおよびアフガニスタンからの米駐留軍撤退の意図を表明したことは、流れとしては2017年のトランプ政権の発足時からある程度予想されていたことではある。

また2018年中にターリバーンの一部が初めて政府軍側との一時的な和平に応じたことも、将来的な恒久的和平の実現には今後とも長期間の交渉が求められるとはいえ、歴史的に必然的な第一歩であったという意味では積極的に評価できるだろう。

日本としてどう関与すべきか

アフガニスタンは依然として厳しい情勢下に置かれていることは間違いないが、日本や近隣関係国を中心とする国際社会が、同国の治安状況を改善すべくさらに支援を重ねていくことの必要性については改めて強調する必要もない。  

日本としてアフガニスタンおよび周辺地域に対して具体的にどのような関与の方向があり得るかであるが、一例として2017年以来動き出しているイラン・バルーチスターン州モクラーン地方のチャーバハール港の開発プロジェクトが考えられる。このプロジェクトは、当初インドと日本の主導で、ペルシャ湾の域外に位置する良港であるチャーバハールの港湾開発と周辺地域の総合的な開発を企図したものであったが、日本はその後積極的な関与を止めている。だがこのプロジェクトは、直接の当事国のみならず、オマーンや中央アジア各国へのプラスの波及効果も期待できるという意味で、日本としても再度積極的な関与を検討するだけの価値があるだろう。  

なお、最近の報道によると、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(MBS)が2月にインド、パキスタン、中国を歴訪し、パキスタンへの巨額の投資を約束したとのことである。これが、オマーン海を囲むこの地域での、新たな緊張の火種になるようなことのないように、日本としても注視していく必要があろう。

(すずき ひとし/新領域研究センター)

※本ポリシーブリーフは、2017年度から2年間実施した、アジア経済研究所中東政策提言研究アフガニスタン分科会の最終報告書「アフガニスタン情勢報告」の内容を要約し、その結論として日本がどのように関与すべきか述べたものである。

本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。