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フォト・エッセイ

黄金麒麟の山
黄金麒麟の山
アジ研ワールド・トレンド2012年7月号(第202号)掲載

魅惑の遊園地「スイティエン」
—世界12位の貫禄—

写真・文: 荒神衣美・初鹿野直美 (Emi Kojin ・ Naomi Hatsukano)

入場ゲート。しばしば遠足で来た現地小学校の子供達に出くわす
入場ゲート。しばしば遠足で来た現地小学校の子供達に出くわす

お金にまつわる神様、であろう
お金にまつわる神様、であろう

園内周遊ミニバスのチケット売り場。休憩中だろうか、なかに人はいない
園内周遊ミニバスのチケット売り場。休憩中だろうか、なかに人はいない

アシカ・イルカショーも楽しめる
アシカ・イルカショーも楽しめる

経済発展の進むホーチミン市。街中には新しいビルが次々と建設され、街の景色はめまぐるしく変わっている。その一方で、子供の遊び場の整備はなおざりにされがちである。現状、週末等に子供を連れて遊びにいけるレジャー施設といえば、ホーチミン市動植物園、ダムセン公園、スイティエン・テーマパーク、少し足を伸ばしてダイナム・テーマパーク(ビンズオン省)あたりがせいぜいであろう。

そんななか、2011年11月、世界各地の観光情報をランキングで紹介するウェブサイトThe Travelers Zone の特集「世界で最も有名なテーマパーク12選」で、前記のスイティエンが第12位にランキングされていることが現地新聞等で話題になった(ただし、ウェブサイトを見る限りでは、ランキング自体は2008年のもののようだ)。このランキングによれば、スィティエンはフロリダ・ディズニーランド(1位)、デンマーク・チボリ公園(8位)、東京ディズニーランド(9位)など錚々たる遊園地が並ぶなかでの、堂々の12位入りである。

スイティエンとは一体どんなところなのだろう。ホームページによると、スイティエンは1995年、ディン・ヴァン・ヴイ氏率いる「スイティエン林産物・美術品有限会社」によって創設された。現テーマパークの場所は、もともとは林と沼の広がる開地で、抗米戦争時には革命軍の拠点ともなった土地だった。地元の人々にとっては神聖な土地でもあった。林中の泉に7人の女神が宿るという伝説から、地元の人々はこの地を「妖精の泉(スイティエン)」と呼び、しばしば香を焚いて神に祈りを捧げてきた。ヴィ氏は林場経営を目的として1987年に同地の開拓を開始して以降、1992年頃までニシキヘビ養殖などを手がけていたが、経済発展にともなう文化・観光施設整備の需要をくみ取り、1993年、林場だった土地を含む45ヘクタールを使って、スイティエン・テーマパークの建設を開始した。スイティエンは、「たゆみない改進・創造を」をモットーに拡大・開発が続けられ、現在の総面積は105ヘクタールに至っている。

では、訪問体験に基づき、スイティエンの実態を紹介したい。ホーチミン市中心部からハノイ高速道をドンナイ省方面に車で30分ほど行くと、突如として「人面山」とでもいおうか、人の頭全体が山になったような形の岩山が見えてくる。それがスイティエン到着の目印だ。車を降りると、「フォーッフォ!」という大音響が耳に飛び込んでくる。園の入り口に立っている巨大な神様型電動人形が訪問客を歓待しているのだ。神様のさらに手前には、赤目金色の巨大ガマガエルが銭をくわえて睨みをきかせている。丘の上にそびえたつ入場ゲートに向かって階段を上るうち、「いったい中にはどんな世界が広がっているのだろう。」と期待感が高まる。

園内に入ってみると、なんといっても、オブジェの数の多さ、また各々の巨大さ・奇抜さに驚かされる。オブジェのほとんどは、前記の岩山も含め、園のテーマであるベトナムの伝統文化・伝説に根ざして作成されたもののようだが(その大半が来園者に幸福をもたらすとされている)、各伝統・伝説があまりにもダイナミックかつ鮮やかに表現されているため、外国人の目には、いかにも奇抜なものに映りがちだ。

圧倒的な存在感を放つ像群に魅了されながらも、園内を注意深く見回してみると、園には実に様々な施設が併設されていることに気づく。プール、遊園地、4Dシアター、水族館、ワニ園等々。また、園内あちこちに比較的清潔なレストラン、カフェがあり、要所にトイレも設置されている。ある程度の準備をしていけば、1日中園内にいても、退屈することなく楽しめると思われる。

1990年代後半に開園しながらすでに閉鎖してしまったウォーターパークが数々あるなか、スイティエンは、多くのベトナム人客を取り込みつつ、ここまで生き残っている。外国人にとっては迫力だけで十分に魅力的なスイティエンであるが、その訪問客の大半を占めるベトナム人にとっては何が魅力なのだろう。筆者が2年間のベトナム生活から得た情報をもとに考察するに、おそらく以下の点が魅力なのではないかと考える。

第1に、園内サービスの多様性である。前述のように、スイティエン内には、プール、遊園地、ワニ園など、様々なアトラクションがてんこ盛りである。聞くところによると、園内のレストランでは結婚式もできるそうだ。多様な需要を1カ所に取り込んだことが、スイティエン存続の一要因ではなかろうか。

第2に、ベトナム人から見た「美しさ」の基準に合致しているのだろうということである。外国人にとっては奇抜に映りがちな園内の巨大な像群も、ベトナム人にとっては美しいものなのだろうと想像する。旧正月やクリスマス時の街中の飾り、ベトナム人から贈られるプレゼントなどからしても、ベトナム人が美しいというものは、たいてい非常に大きく、色鮮やかで、かつどこか写実的である。

第3に、入場料・施設使用料設定の妥当性である。スイティエンの基本入場料は大人1人6万ドン(約240円)、それにプールや遊園地の乗り物、ワニ園への入場料などを合わせても、だいたい15万〜20万ドン(600〜800円程度)で1日遊ぶことができる。今のホーチミンの人々にとっては、それほど高い値段ではないだろう。

以上の点は、スイティエンと並ぶホーチミン市内の老舗レジャー施設ダムセン公園にもあてはまる。また、筆者がホーチミン市以外の街で訪れた子供向けレジャー施設にも、多かれ少なかれ前記の特徴が兼ね備わっていた。各レジャー施設がベトナム観光・行楽部門で生き残るために押さえておくべきポイントだったと推察する。

一方、こうしたいかにもベトナムらしい子供向けレジャー施設も、経済発展や国際化の波に乗って、いつしか「古びたもの」と捉えられるようになる日が来るのかもしれない。2011年末には、ホーチミン市4区にKizciti という子供が擬似的に就業体験できるテーマパークがオープンした。入場料1日18万ドン(720円)で、世界各地の子供達と同様のアミューズメントを体験できる。こうした国際的にも認知されたタイプのレジャー施設の開園によって、ホーチミンの子供達にとっての選択肢が増えるのは喜ばしいことだ。しかし、筆者を含む多くの外国人の度肝を抜いたスイティエンが「国際的」な基準で洗練される日が来るかと思うと、どうにも寂しい。スイティエンには今後ともぜひ独自の感性を貫きつつも「たゆみない改進・創造」を続けてもらいたいと願わずにはいられない。


(こうじん えみ・はつかの なおみ/アジア経済研究所 )