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フォト・エッセイ

結婚式場への車に乗り込む新郎
結婚式場への車に乗り込む新郎
アジ研ワールド・トレンド2009年12月号(第171号)掲載

ガザでただいま婚活中

写真・文: 大月啓介 (Keisuke Otsuki)

ガザの海にて仲良し4人組
ガザの海にて仲良し4人組

ガザ中心部の服屋
ガザ中心部の服屋

店頭に並ぶヒジャーブ (女性の被るスカーフ)
店頭に並ぶヒジャーブ (女性の被るスカーフ)

結婚式にて
結婚式にて

パレスチナ自治区・ガザに住む友人Aと出会ったのは5年前のことだ。当時彼は大学を卒業したものの、ガザの若者のご多分に漏れずに職がなく、日々フラフラと過ごしていた。そんな彼にも将来を誓い合った相手がいたが、イスラムが強く保守的な風土のガザでは、未婚の男女が大っぴらに交際することは難しい。2人は携帯電話やチャット、そして密かに交わす恋文で募る想いを伝え合っていた。

アラブの男よろしくロマンティックなAは、私に会う度に彼女がいかに美しいかをうっとりと描写し、2人の愛がどれほど深いかを語り、さらには彼女への想いを詠った詩の朗読を私に聞かせ始めるのだった。

しかしAは焦っていた。ガザではいわゆる恋愛結婚は珍しく、親の主導で選んだ相手と結婚するのが一般的だ。早く婚約をしないと他の男性に彼女を奪われてしまう。だが無職男によろこんで娘を嫁がせようという親がいるはずもない。パレスチナでは男性にとって結婚は非常に高くつくのだ。職ナシのAには結婚式すら挙げられない。

ところがその後、アラーの思し召しかAは幸運にも大学の講師の職を得た。さあこれで堂々と求婚できる…はずであったが、結局2人が結ばれることはなかった。女性の父親が、そもそも難民の出のAを娘の相手として認めなかったのだ。やがて、最愛の女性は親の決めた他の男性のもとへと嫁いでいった。3年前のことだ。

一本気な純愛を誓っていたAは傷心のあまり、一時やさぐれかけたが、その後は逆境をバネに仕事に打ち込んだ。彼の働きぶりは周囲に高く評価され、収入も順調に伸びていった。失業者が増える一方のガザにあって彼は若くして「成功者」の貫禄すら見せ始めた。初めて会ったときの所在のなさがまるでウソのようだ。かつて愛した女性への想いも、ようやく断ち切ることができた。そして今、Aはまさに満を持しての婚活の真っ最中だ。

この3ヶ月でAは5人の娘と顔を合わせてきた。だが「これぞ」という女性にはまだ巡り会っていない。「嫁選びに妥協はしない」とキッパリ。

Aの「嫁探し」は、母親が周囲に「うちの息子にふさわしい娘はいないか」と聞いて回るところから始まった。そして白羽の矢の立った娘の家に母親が訪れ、息子が婚活中の旨を伝える。それを相手が承諾すれば、次は素行調査。お相手のご近所、勤め先もしくは通学先などに探りを入れる。娘本人のみならず家柄についてもチェック。かつての苦い記憶ゆえ、今回のAの嫁探しでは難民の娘以外は対象外とのこと。

娘の評判に問題がなければ、改めて母親と息子で先方に出向き、両家の親の同席のもとで若い2人が初めてご対面。そこでAは娘を穴が開くほどじっくりと観察するとのこと。曰く「ちょっとした表情の動きも、言葉の選び方も見逃さない」。そして双方が基本的に同意すれば、今度は逆に娘の家が男性側の素行調査をする、という段取り。

ところで、ご対面してきた5人の娘は、なぜ晴れてAのお相手とならなかったのか。彼のお見合い遍歴を聞いてみた。

1人目。お相手のお宅に行ってびっくり、かなりの金持ちだった。家族間の経済格差は結婚にとって好ましくないとAは考えている。中流のAの一家からするとマイナス1ポイント。さらに娘は頭髪を隠すスカーフをしていない。マイナス2ポイント。Aが率直に「スカーフをしないのであれば妻にはできない」と言うと、娘の返事は「堅いことは言わずに、それはおいおい話し合いましょう」。これがダメ押しとなり、Aはこの話を丁重にお断りした。

2人目。この娘はルックスも身だしなみもAの厳しいおメガネに適った。しかし彼女は「将来は海外の素敵な場所に移り住んで、別荘を買って…」などと、うっとりと夢を語り出した。その後も非現実的な将来像を披露し続ける彼女をAは「生涯の伴侶にはふさわしからん」と判断、これまた丁重に断った。「ガザで苦境を共に乗り越えていける、現実的な娘でなくては伴侶にはできない」とのこと。

3人目。今度の娘はあまり器量がよろしくなかったため、これまたAから断った。Aは以前から相当の面食いなのだ。スタイルの方も「調和のとれた身体でなくては」などとまったくうるさい。料理の腕前にも当然ながら要求が高い。かなり強気な婚活を展開している。

4人目。今度はなかなか素敵な娘で、「この女性こそ運命の…?」とAの心は昂ぶった。しかし彼女はまだ大学生で、卒業までは結婚のことは考えたくないと言う。ではなぜに対面に応じたのかはなぞだが、Aの必死の説得にもかかわらず、彼女の意思は固かった。

5人目。彼女も申し分のなさそうな娘だった。だが1点だけ少々の気がかりが。彼女には婚約を破棄された過去があるとのこと。それ自体はAにとってさほど重要ではなかったが、経緯について尋ねても、彼女ははぐらかすばかり。不審に思ったAが調べると、実は彼女には離婚歴があった。最初に話してさえくれれば、それも致命的ではなかったのだが、初対面での大きな隠し事を受け入れられず、これまたAから断った。

なかなかうまくいかないもので、いまだに嫁は見つからず。だがAは、かつてのようなうっとりとした遠い目をして言うのだった。「次こそは運命の人の予感がする…」。もっとも、選ぶのはAの側のみならず、当然ながら女性側も厳しい目でAを見定めているはずだ。どうなることやらだが、Aの厳しい要求をクリアした素敵な女性を紹介してもらう日を、私は楽しみに待っている。


(おおつき けいすけ/ジャーナリスト)