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農村社会 Rural Society

なぜかれらは貧しいのか

バングラデシュ・コミラ県の農家の脱穀作業
バングラデシュ・コミラ県の
農家の脱穀作業
現在、世界の貧困者の7割以上が、農村に居住していると言われます。途上国の農業・農村に関する研究は、そこでの低開発や貧困の問題を強く意識しながらなされてきました。

1950年代までの開発経済学では、途上国農村は過剰労働力を抱えた停滞的な社会であり、非農業部門に導かれてはじめて発展の端緒につくとされていました。ところが1960年代になると、農業部門の内生的発展の可能性が注目されるようになります。いくつかの途上国で輸出農産物の生産が急速に伸び、「緑の革命」と呼ばれる革新的技術の普及が起きたのでした。研究者は、市場機会さえ与えられれば農家は合理的に余剰資源(土地や労働力)を動員し、新たな技術を受け入れると理解しました。
しかし現実の途上国で、自由に必要な資源を調達して組み合わせることのできる農業生産者はどれだけいるでしょうか。むしろ農家は、社会的、政策的に作られた制度的条件のもとで農業を営んでいるのです。そこで、こうした制度にかかわる研究が重要になります。たとえば土地についていうと、途上国にはその国固有の制度があって、農地確保の自由度や保有の安定性を規定しています。また、少なからぬ農家が他人の土地を借りて耕作しているので、農地貸借の制度が農業生産性や耕作者の福祉に影響します。資本についても、市場に任せていたら貧しい農民は資金を得ることができないため、しばしば何らかの特別な制度が作られます。

農民が貧しいのは農産物の価格が低いからであるとして、流通面の研究もなされてきました。農産物流通の担い手には、小規模商人、協同組合、国家機関、企業などがあり、取引の形態も現物現金取引、契約取引などいろいろです。しかも農産物の種類や国によって担い手と取引形態の組み合わせが異なり、それが固有の流通制度を形作ります。なぜそうした違いが起きるのか、どの制度が誰にとって有利なのか、といった観点からの研究もおこなわれています。

農村の貧困問題は、農業分野だけで解決できるものではありません。途上国の農村には賃労働や農業以外の生業にたずさわる人々がたくさんいます。出稼ぎによって所得を得る人たちもいます。そうした農業以外の経済活動を含めて見なければ、貧困の原因やその解決方法も明らかにならないでしょう。さらには生産活動だけでなく、生活面も含めた農村社会全体の開発が必要で、そのためには農村の政治や社会の構造も研究しなくてはなりません。その場合、ひとつの村落を包括的に調査・研究する手法(コミュニティ・スタディ)がしばしば用いられます。

また、「どうすれば発展するのか」と考えるだけでなく、歴史の中で、あるいは社会全体の中で、農業・農村・農民がどのような存在であり、どう変わっていくのかという社会経済史的な問いかけも必要でしょう。このような視点から、農民層の分解、農民の協同や抵抗の仕方を論じた研究も数多くあります。
(重冨 真一)