skip to contents.

貧困・不平等

不平等 Inequality

共生と協働に向けた不平等削減

バングラデシュ・ナラヤンガンジ市の工業団地
バングラデシュ・
ナラヤンガンジ市の工業団地
1.不平等の是非
不平等の是非は意外に難しい問題です。不平等は経済的側面だけでなく、人間生活のあらゆる次元(ジェンダー、世代、地域、エスニシティなど)に関わり、どの次元の格差が重要なのかについての合意は容易に得られないでしょう。仮に経済的不平等だけに限っても不平等と成長は相互に関連し、分配政策と成長促進政策を独立して選択することは難しくなります。

2.不平等の計測
経済的不平等の計測では高所得人口の社会全体の所得の分配シェア(あるいは低所得人口の分配シェア)がわかりやすいものです。専門的な研究ではジニ係数やタイル測度という統計的尺度もよく使われます。

3.経済成長と不平等
経済成長と所得不平等の関係について経済成長の成果は貧困層にもやがては浸透するという考え方(トリックル・ダウン(trickledown)仮説)がありました。クズネッツは先進国の歴史的経験を素材にして「経済成長の初期には所得分配の不平等が大きくなるが、ある程度の水準に達すると不平等は低下する」という議論をしました(Kuznets[1955])。クズネッツの議論で一番重要なのは都市(工業)と農村(農業)の格差と労働移動、社会保障の整備などです。しかしクズネッツ仮説に対して批判もあり、貧困層に対して経済活動に参加する機会を提供することによって、平等を伴う経済成長を促進することが考えられます。たとえば、貧困層の生産活動を支える公共財を政府が提供すること、あるいは信用市場や保険市場の機能を改善して貧困層が直面しているリスクを削減することが考えられます。特に成長と平等を結びつけるものとして健康・保健や教育などの人的資本が注目されています。また経済成長と不平等の間には媒介変数(市場の働きを阻害する要因(「労働市場などが分断されている」、「技術に格差がある」「公共制度の質が悪い」等)があれば市場の失敗の是正や制度の質の改善で、成長と平等を達成できる可能性もあります。仮に政治的安定や社会的協調も広い意味での公共財と捉えるなら、これを促進する社会的基盤として不平等削減を目標にすることも開発政策の役割に含めることもできます。平等な社会環境が互酬性の規範と協力を促進して社会的効率を改善するので、これを物的・人的資本とならぶ成長の要因として「社会関係資本」と考える見方もあります。
4.不平等削減政策の新しい展開
国連開発計画(UNDP)『人間開発報告書』は紛争や社会的対立の回避を目指して、所得や能力という一次元で見た不平等(垂直的不平等)の是正に加えて、同じような人でもジェンダー、エスニシティ、言語や宗教の帰属の違いによって自由や生活に格差が生まれる水平的不平等の是正も訴えています(Stewart[2000,pp.252-255])(Horizontal versus Vertical Inequality UNDP(2000,p.62) Box 3.4))。『人間開発報告書2005』(はミレニアム開発目標の達成に向けて不平等を是正する公共政策を要請さしています(UNDP[2005,pp.55-64])。さらに『人間開発報告書2005』は最近注目されている「貧困者を支援する成長(pro-poor growth)」でも「絶対的定義」(absolute definition of pro-poor growth 貧困層の所得が増加する成長)に替えて「累進的定義」(the progressive definition of pro-poor growth、貧困層の社会の中での相対的地位に注目する)を提案しています(UNDP[2005,p.65 box 2.3])
野上 裕生