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保健・感染症

HIV/AIDS

保健・医療分野にとどまらない問題

AIDS(後天性免疫不全症候群)は、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染することによって起こる病気です。HIVの主な感染経路には、性的接触、血液感染、母子感染の3つがあります。HIVに感染してもすぐには症状が現れませんが(潜伏期間)、徐々に免疫系が破壊され、身体の抵抗力が低下して、様々な感染症や悪性腫瘍にかかってしまいます。この発病した状態をAIDSと呼びます。

のちにAIDSと呼ばれるようになる病気が最初に流行したのは、1980年代のはじめ、米国の男性同性愛者の間においてでした。しかし現在、HIV/AIDSの影響は、サハラ以南アフリカをはじめとする発展途上地域に集中しており、サハラ以南アフリカでは感染者の半数以上が女性です。2007年の推計で、世界のHIV陽性者数は約3300万人、このうち3分の2以上(68%)がサハラ以南アフリカに集中しています。サハラ以南アフリカのなかでも、とくに影響が深刻なのは、1990年代以降に急速な流行拡大を経験したボツワナ、スワジランド、南アフリカなど、南部アフリカの国々です。また、近年では、注射薬物の使用拡大を背景に、東アジア、東欧・中央アジア諸国でも流行が急速に拡大しています。
HIV/AIDSは、働き盛りの年代の男女に早すぎる死をもたらすだけでなく、働き手を失った家族の生活を困窮化させます。とくに、子どもへの影響は深刻です。親をエイズで亡くしたり(「エイズ遺児」)、病気の親の介護をする子どもは、学校からドロップアウトしやすく、成長の過程でさまざまな差別を受けたり、不利を被ることが多くなりがちです。企業にとってHIV/AIDSは、生産性の低下や、労働力供給低下による労働コストの上昇をもたらす要因となります。国レベルで見ると、経済活動の停滞によって政府の税収は減少し、一方で保健支出などの社会支出は増加することから、財政悪化の要因になります。このようにHIV/AIDSは、その影響が深刻な国々においては、一国の経済社会基盤を損なう問題となります。そのため、HIV/AIDSは、保健・医療の分野のみならず、経済・政治・社会研究においても重要なテーマになってきています。

HIV/AIDS対策は、予防・啓発、検査・カウンセリング体制の強化、HIV陽性者への治療・ケア・サポートの提供、差別やスティグマ(負の意味合いを持つ社会的烙印)への対策など、多岐にわたります。1990年代中頃に、ARV(抗レトロウイルス薬)と呼ばれる医薬品が開発されてから、HIV/AIDSへの取り組みは劇的に変化しました。異なる種類のARVを同時に服用することによって、体内のウイルス量を低く保ち、免疫機能を正常に近いレベルにまで回復させることができるようになったのです。しかし、ARV価格の高さがネックとなって、当初、途上国でのARV治療はなかなか進みませんでした。医薬品価格が高いのは知的財産権保護が行き過ぎているからだ、という批判が高まり、世界貿易機関(WTO)の「知的財産権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS協定)改正の一つの契機ともなりました。近年では、途上国政府や感染者らの働きかけや、化学的に特許薬と同一のジェネリック薬の普及もあって、ARVの価格は大幅に安くなりました。また、HIV/AIDSを含む三大感染症対策のための資金供給メカニズムとして、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GFATM)が設立されました。人材不足、財源確保、医薬品の安定供給、耐性ウイルスの問題など、様々な課題を抱えつつも、途上国のARV治療拡大の機運は高まっています。