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中央地方関係 Central-Local Relations

分権か集権か

都市国家などの小国を除き、世界のほとんどの国々はその政府体系を複数の層で構成しています。わが国でいえば、中央政府に加え、都道府県、市町村という2層の地方政府が存在する、3層構造の政府体系をとっていることになります。この各層政府間の関係が中央地方関係です。

中央地方関係を分析する視角としては、分権・集権の概念が最も代表的なものといえるでしょう。分権とは、一口にいえば、権力や権限を分けることであり、集権とはその反対に一カ所に集めることです。もっとも、総体としてのある政府体系の分権・集権の度合いを定量的に測定したり、比較したりすることは至難の業です。中央地方関係は、その法制度的な側面に限ってみても、中央地方間における権限、財源の配分のみならず、地方政府の設置根拠からその執行機関の選出方法まで、非常に多様な要素から成り立っているからです。しかし、例えば、財政支出全体(ないしGDP)に占める地方政府支出の比率という指標は、それぞれの国における地方政府の活動規模を比較する手がかりとなります。このようにして比較したとき、一般に途上国では先進国よりも地方政府の活動規模が小さいことが指摘されます。

開発援助の議論においては、途上国は地方政府により多くの機能や権限、財源を配分すべきであるという主張が、様々な論拠に基づいて展開されてきました。分権化は、基礎的な公共サービスの改善や貧困層の開発にかかる意思決定への参加を重視するベーシック・ヒューマン・ニーズ・アプローチにおいても、政府部門のコスト削減を目指す構造調整プログラムにおいても、1つの重要な手段とみなされています。これに対し、分権化に懐疑的な論者は、多くの途上国においては、分権化が期待される効果を生むための条件が整っていないことを指摘してきました。例えば、地方レベルの政策決定・実施は地域の有力者などに私物化される恐れがあること、地方政府の放漫な財政運営は国家財政の安定を脅かしかねないことなどが挙げられます。実際、多くの途上国では、地方政府の活動にかかる法的枠組みが十分整っているとはいえず、それが分権化が所期の成果を上げられない要因の1つであると考えられます。近年の分権化論は、このことを踏まえ、単なる権限や財源の地方への移転ではなく、中央地方関係にかかる具体的な制度の設計・整備を重視するに至っています。

今日、多くの途上国・移行国が実際に何らかの形での分権化を試行しているといわれます。グローバリゼーションの進展や情報技術の発達により、先進国、途上国を問わず、中央政府の役割が相対化されてきたことなどがその共通の背景と考えられています。しかし、実際に各国で起こっている中央地方関係の変化は、2つと同じものはありません。たとえ同じような制度が導入されたとしても、異なる社会においてはその意味合いは非常に異なっている可能性があります。ある国における中央地方関係の特徴やその変化を比較政治学的ないし政治経済学的に捉えようとするときには、関連の法制度ばかりでなく、それを取り巻く環境や文脈を視野に入れる必要があります。このようなアプローチに基づく途上国の事例研究では、各国で推進されている「分権化」の契機が非常に多様であり、その内容も政治的分権化を主とするもの、経済・行政的分権化を主とするもの、中には実質的にはむしろ集権化と呼べるような事例も含まれていることが示されてきました。

分権化であれ集権化であれ、その意義を理解し、評価するためには、歴史的経緯を含む当該国の背景事情を知ることが不可欠です。また、どのような観点からするかによってもその評価は異なりうるでしょう(例えば、特定の行政サービス供給の効率性、公平性、住民参加、地域間の均衡、地域ないし国家の経済発展等)。分権か集権かの議論は、単なる中央政府と地方政府の間の権限・財源争いにとどまらず、身近な行政サービスの供給から地域開発まで、人々の生活に密接に関連する幅広い問題に関わっているのです。
石塚 二葉