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政治制度・体制

政治体制 Political Regime

制度と組織の構築物

議員候補者の支持者たち(インドネシア)
議員候補者の支持者たち
(インドネシア)
政治体制とは、「政治権力が社会内で広範な服従を確保し、安定した支配を持続するとき、それを形づくる制度や政治組織の総体」(山口[1998:546])を指します。現実の政治制度や組織にはさまざまなバリエーションがあり、その組み合わせのパターンとなれば途方もない数に上るでしょう。国の数だけ政治体制の種類があるといっても過言ではありません。この点を踏まえて、ある国のある時期における具体的な制度や組織のあり様を記述し、総体としての特徴を抽出するのが政治体制研究のひとつのあり方です。アジア経済研究所の研究成果の中では、例えば萩原・村嶋編[1987]梅澤[1992]がこれに相当します。

一方で、世界中の国々において憲法や議会、政党、行政機構といった似通った制度・組織が存在するのもまた事実です。何らかの基準をもとに、各国の政治体制の共通性と差異を仕分けすれば、国の数だけある政治体制を少数の類型に収斂させ、目も眩むような多様な世界をシンプルに把握することが可能になります。これが政治体制の類型論です。
近代政治体制の類型論としてつとに有名なのが、民主主義、権威主義、全体主義の3類型です(リンス[1995])。この3類型を分かつのは、「どの程度多元主義的か」という基準です。この基準は、思いきって言い換えると、政治主体のバラエティと活動の自由、および政治主体間の競争をどの程度許容するか、という問題だといえます。

結社の自由、言論の自由といった市民的自由を保障し、かつ参政権を全国民に平等に付与して、もって無限の多元性を許容するのが民主主義です。民主主義のもとでは、政党や労組、業界団体などさまざまな組織が、それぞれの利益に適った政策や法律の実現を目指して互いに競合しています。異なる意見を調整して公的な決定を下す役割は、国民の幅広い支持を得た者(議員や大統領)が担っています。逆にいうと、権力者が広範な支持を得ていることを担保する仕組みこそが民主主義の要諦であり、その仕組みとは、自由で公正な選挙による支持獲得競争です。

民主主義の対極に位置するのは、特定の国家目標とそれを実現するためのプログラムを持ち、プログラムの立案を全面的に担う単一の政治主体しか存在を許されない全体主義です。全体主義においては、組織指導者間の権力闘争はしばしば発生するものの、社会的利益の多様性を反映した複数の政治主体間の競争は、原理的に存在しません。全体主義の例としては、ファシスト政権期のイタリア、ナチス・ドイツ、ソ連、毛沢東期の中国が挙げられます。

民主主義と全体主義の間の中間形態が権威主義であり、その特徴は「限定された多元主義」です。より具体的には、支配的な特定組織(政党、軍など)とは異なる政治主体の存在を許容する一方、結社や政治活動に強い制限を課す政治体制を指します。現在世界に存在する非民主主義体制の大部分は、権威主義体制に分類することができます。

ところで、われわれが世界の政治体制を類型化して理解しようとするとき、「どの程度多元主義的か」という観点だけで十分でしょうか。それは、類型化を通じてわれわれが何を明らかにし、何を理解したいのかという問題意識のあり方次第でしょう。

1980年代半ばまでの北東・東南アジアには、権威主義体制の国が多数存在しました。社会主義諸国が似たような政治体制を採るのはもちろんですが、資本主義陣営の韓国、台湾、フィリピン、インドネシア、タイなどの政治体制にも、単に「権威主義体制である」ということ以上の共通性が存在しました。これらの政治体制が共有する特徴を抽出し、体制の生成と存続のメカニズムを明らかにしたのが開発体制論(岩崎編[1994]東京大学社会科学研究所編[1998])です。開発体制論は、冷戦下のアジアという特定の歴史的、地域的文脈において登場した一群の政治体制を理解するのに有効な枠組みです。

1980年代から90年代にかけて、多数の開発途上国が民主化を経験しました。しかし近年では、これらの国々の民主化が充分ではなかった、あるいは一応民主主義と呼びうるけれども、多元的な政治過程を実現するための制度構築が遅れているという問題意識から、民主主義と権威主義の中間類型の精緻化が行われたり(例えばDiamond[2002])、民主主義の下位類型(質の低い民主主義)としての委任民主主義(O’Donnell[1994])が提唱されたりしています。これらは、「どの程度多元主義的か」という基準にもとづく政治体制研究の新たな成果といえます。

他方、類型としての一般性、包括性より、歴史的・地域的文脈を重視する政治体制論の新たな成果としては、冷戦期アフリカ諸国の共通性を捉えた武内[2003; 2005]のポスト・コロニアル家産国家論があげられます。開発途上国の政治に関する理解を深める、ということを目的とするなら、一般性が高いほど優れた研究であるとは限りません。議論の射程(対象国、地域、時期)を絞り込むかわりに、国際関係や経済、社会面での近代化経験といった事象をも検討対象とし、スタティックな類型論にとどまることなく、生成、存続の動的なメカニズムを説明しうる政治体制研究を充実させることもまた重要です。
中村 正志