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政党と選挙 Political Parties and Elections

民主主義の最低条件

インドネシアの大統領選挙で投票する有権者
インドネシアの大統領選挙で
投票する有権者
政党と選挙は、開発途上国における政治の実態を分析する上で重要な役割を果たします。特に有用なのは民主化、中でも民主主義体制定着の分析においてです。政治学では一般に、自由で公正な選挙が定期的に行われていることを民主主義(体制)の最低限の条件にしています(Dahl [1971]; Diamond [1999])。また政党は、選挙時に示される正式名称により認知され、(自由または自由でない)選挙のたびに公職への候補者を擁立できる政治集団と定義されます(Sartori [1976])。ここから、政党(制)と選挙を尺度にした民主主義定着の基準が提案されてきました。外形的な基準ではHuntington [1991]の「2回交代」基準があります。これは、民主主義への移行選挙で勝利した政党をその後の(直後とは限らない)選挙で別の政党が破り、さらにその後の選挙で与党が破れた場合に民主主義が定着したと見なすものです。より質に踏み込んだ視点からは、党首の個人的魅力や特定支持勢力への利権配分ではなく、明確な政策綱領と選挙公約に基づいた政党間競争の存在が、民主主義の定着に貢献するとの考えもあります(Kitschelt [1995] ; Mainwaring [1999])。

他方、権威主義体制でも、多くの国で政党が存在し、選挙が行われます。これらの国々では植民地からの独立あるいはソ連邦崩壊のそれぞれ直後に議会政治を経験しています。その後、文民政権が独裁化したり軍事クーデタによる政権転覆が起きたりしましたが、選挙と議会という政治制度はほとんどの場合、廃止されませんでした。これらの制度の廃止は、政権の支配の正当性を大きく損なうことになるためです。政権は支配政党を使って体制イデオロギーを国民に浸透させたり体制支持層(Binder [1978])を取り込んだりできます。また支配者が国民から選ばれたことを演出するために、支配政党以外の政党が条件付きで許され、選挙参加が認められることも希ではありません。これには反体制派を穏健派と強硬派に分断し弱体化させる効果もあります(Lust-Okar [2004])。ただし、不正な選挙の結果が大衆行動を引き起こし政変に繋がる例が、フィリピン、グルジア、ウクライナ、キルギスタンなどで見られました。
それでは政党と選挙から見た場合、開発途上地域民主主義国の政党・選挙は、欧米諸国のそれと比べてどのような特徴があるでしょうか。第1に、政党は、中核的支持基盤を持たず、多様な社会集団に訴える傾向にあります(Özbudun [1987])。選挙結果では、社会の利害・価値体系と政党制の間の対応関係が見えにくく、代わりに体制対反体制、保守対革新などの包括的な対立軸が現れます。その理由は、(1)均質的な労働者階級の欠如(Dix [1989])、(2)民族、宗教・宗派、言語集団が多すぎる故に雑多な選挙連合が形成されること(Mozaffar, Scarritt, and Galaich [2003])、(3)普通選挙下で複数政党制へ移行したため(欧米ではこの逆で、複数政党制下で選挙権が徐々に拡大した)、新興政党はすべての社会集団に訴えようと試みること(間 [2006])、などが考えられます。第2に、農村社会の比重が高い国々では、選挙において地域的利益が重視され、地域政党が有力です。農村では特定の政党が、地域への利益導入を売り物に選挙区民の圧倒的な支持を固めます。多様な政党が選挙で議席を獲得しますが、それは国家横断的な複数の利害・価値というよりは、個別の地域ないし選挙区固有の利益・価値を反映しています。そのため、政権与党は多数の地域政治組織の連合体、他方、少数野党は特定地域の代弁者となりがちです(Barkan [2001])。
間 寧