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空間経済学

空間経済学 Spatial Economics

「レーストラック経済」と呼ばれるモデルを 用いたシミュレーション。クルーグマンのシ ミュレーションを 再現したもの。
「レーストラック経済」と呼ばれるモデルを
用いたシミュレーション。クルーグマンのシ
ミュレーションを再現したもの。
様々な分野でもグローバル化が進んだ現在、途上国の経済活動を「国」という単位だけで分析するのは、ますます難しくなっています。「国」より小さい「都市」や「地域」は、途上国の国内の地域間経済格差についての考察に必要ですし、地域統合の進展によって、国をまたいだ地域開発や国境地帯における経済活動の活発化など、国より大きな「地域」の視点も重要になっています。

こうした、経済活動の地理的分布を分析するための理論として、1990年代以降、空間経済学(新経済地理学とも呼ばれます)が急速に発展し、経済学の新たなフロンティアとして注目を集めています。空間経済学は、これまでのスタンダードな経済学の中で、必ずしも上手く扱われてこなかった経済活動の地理的な側面に注目した経済学の新しい分野です。空間経済学では、経済活動が特定地域に集まろうとする「集積力」と、周辺地域に分散しようとする「分散力」の相互作用によって、経済活動の地理的分布が決定されると考えます。
代表的な空間経済学のモデルは、スタンダードなミクロ経済学に「輸送費」「規模の経済」「多様性選好」の3つの要素を取り込んだものです。まず、「輸送費」すなわち、ある場所で生産された財を別の場所で消費する際に、何かしらの費用がかかる、と仮定します。次に、製品をたくさん生産すればするほど単位当たりの生産コストが安くなる「規模の経済」を仮定します。最後に仮定するのは「多様性選好(love of variety)」ですが、これは、例えば、遠足のために、おやつを200円分買うとして、10円のアメを20個買うよりも、いろいろな種類のお菓子を組み合わせて200円分買った方が満足は大きい、という仮定です。

2008年にノーベル経済学賞を受賞したクルーグマンは、前述のモデルのひとつである「レーストラック経済」と呼ばれるモデルを用いたシミュレーションを行いました(参考文献)。このモデルでは、円周上に等間隔に都市が存在している(クルーグマンのケースでは12都市)と仮定します。ちょうど、時計の文字盤の数字の位置に都市が位置しているイメージです。この経済には、農民と工場労働者が存在し、農民は各都市に住み、移動することはありません。一方、工場労働者は、より高い賃金と低い物価を求めて、都市間を移動できます。そして、最初の時点で、各都市の人口には、ほんのわずかだけ差がつけてあります(すべての都市の規模が完全に同じだと、「均衡」となり、何も起こらないからです)。こうした基本的な設定のもと、クルーグマンは輸送費の大きさ(T)、工業製品についての多様性選好の度合い(σ)などを変えてシミュレーションを行い、集積の数や場所がどのように変化するかを分析しました。

以下に、クルーグマンのシミュレーションを再現したものを掲載しています。都市の数は50に増やしました。横軸に都市1から都市50までが並び、円周ですので、右端と左端は実際にはつながっていると考えて下さい。縦軸には、この世界における各都市の工業生産シェアが示されています。グラフが高い都市には工業生産が「集積」しているということになります。

このシミュレーション・プログラムでは2つの変数"T"と"σ"の値を変えることができます。その操作方法を以下で説明します。

  • "T"のスライダーで輸送コストの大きさを変更できます。"T"が1のときは輸送コストがかからない状態を、そして、"T"が10のときは輸送コストが非常に高い状態を示しています。
  • "σ"のスライダーで工業製品について多様性選考の度合いを変更できます。"σ"が1であることは多様性を非常に強く好む状態を、そして、"σ"が20であることは多様性をあまり好まない状態を示しています。
  • "Start/Stop"ボタンでシミュレーションを開始/停止できます。
  • "Reset"ボタンでシミュレーションを最初からやり直すことができます。

The Racetrack Economy
変数"T"と"σ"は、シミュレーションが動いている最中にも変更することが出来ます。集積が形成される様子や、形成された集積が分散する様子、パラメータによって集積の数や場所が変化する様子を観察してみましょう。

【参考文献】
Krugman, P.(1993) On the number and location of cities. European Economic
Review, Vol. 37(2-3),pp.293-298.
熊谷 聡