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地域統合 Regional Integration: Regionalization and Regionalism

地域化と地域主義

タイの自動車組み立て工場
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地域統合とは、国境障壁が削減され、経済の地域化が進むことです。Pempel(2005)は、地域統合を地域化(regionalization)と地域主義(regionalism)という二つの概念に分けて考えています。Pempelの定義によれば、地域主義とは制度的な措置をともなった政治的プロセスであるのに対し、地域化とは経済の連結性やアクター達による統合のボトムアップの側面であるといえます。つまり、地域主義とは地域貿易協定など政府間の協定にもとづいた政治的プロセスであり、地域化とは生産ネットワークの構築など国際間の経済関係が強まることであり、民間セクター主導によるものです。平塚・石戸(2006)は、地域化を実質的な統合、地域主義を公式な統合と呼び、東アジアでは実質的な統合が公式な統合の先行していることが特徴であると指摘しています。
この二つの概念分類が示すように、地域統合に関する研究は、経済の地域化に関する研究と地域貿易協定に関する研究分野に別れ、さらにそれぞれの研究成果にはさまざまな研究があり、研究範囲は広大です。

地域化に関する研究は、経済面、主として貿易面において、進んでいます。生産ネットワークに関する研究、産業集積など空間経済学の研究に分かれています。生産ネットワークに関する研究Deardorff(2001)は、生産工程が異なる国に分散立地し最終的にひとつの生産物を製造する分業を国際間工程分業(production fragmentation, cross border production sharing)と呼んでいます。Ando and Kimura (2003)は、貿易データを用いて、東アジアの機械産業では、中間財が所得水準の異なる多くの国をまたがり取引された、垂直的生産流通ネットワークであることを指摘しています。平塚(2006)は、電子部品のハードディスドライブを事例に、実際の生産ネットワークは、生産リスクを軽減するため、企業は同じ部品を所得水準が異なる国々から複数国調達しており、これはフォワーダーと呼ばれる物流業者が大規模投資を行った結果、輸送費が低下したことにより実現したものであり、東アジアの実質的な統合の実態を指摘しています。東アジアは、域内の貿易比率を52%まで高め、欧州の59%には及ばないもののNAFTAの45%を上回っていますが、実態は、中間財に対する輸入関税免除などの措置により中間財において産業内垂直分業が進展しているのが東アジアの実質的統合の姿であるといえます。関税率が高い消費財産業では産業内水平分業が行われていないことを示しています。この点において、産業内水平分業が進展している欧州とは大きくことなっています。

世界では経済の地域化が進む一方で、地域主義が強まっています。一般には、FTAと呼ばれる自由貿易協定を、WTOは地域貿易協定(regional trade arrangements)と呼んでいます。この中に、GATT第24条にもとづいた、実質的に全ての貿易を自由化しなければならない、自由貿易協定(free trade areas)と共通対外関税を用いる関税同盟(custom union)があります。加えて、WTOは途上国同士のものの貿易を発展させるため授権条項にもとづいた特恵貿易協定(preferential trade arrangement: PTA)を認めています。WTOによれば、2006年3月現在、193の地域貿易協定(regional trade arrangements: RTA)がWTOに報告されています。このうち、FTAが124件、関税同盟が11件、授権条項による途上国同士のPTAが22件、GATS第5条によるサービスのFTAが36件です。

RTAの増殖に伴い、RTAが産業集積や貿易にどのような影響を与えるかという研究も欧州を中心に進んでいます。Ecochard(2006)は、域内統合が域内産業間水平分業を誘発するという推計結果を導いており、Bernedictis, Santis and Vicarelli(2006)はFTAが域内貿易を拡大したか東ヨーロッパを事例に実証しています。また、Gatto, Mion, Ottaviano(2005)は、欧州11カ国の企業のパネルデータを用い、欧州の貿易面における統合が欧州企業の生産性に寄与したという実証結果を導いています。

FTAには、原産地規則という問題があり、原産地規則は関税の削減に変わる新たなコスト要因であるという見方が登場しています。Bhagwati(1992)は多種多様の原産地規則が異なるFTAが交錯することによりspaghetti bowlのように手続きが複雑になることから、WTOなどの多角的貿易システムにおける貿易自由化の優位性を説き、Kruger(1993)は原産地規則が新たなる保護主義の恐れのあることを指摘しています。こうした問題に目を向け、Kim(2006)は、東アジアで実施されている原産地規則について現状を報告しています。また、ASEANの原産地規則については若松(2006)が詳しく論じています。

東アジアにおいてもFTAが増殖した現在、次の課題は、国境における通関制度の見直しなどによる貿易円滑化措置が次の課題となってきています。東アジアにおいては国境をまたぐ陸路輸送を想定していなかったため、円滑な貿易を阻害するような制度が残存しているからです。
(平塚 大祐)