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マイクロファイナンス Microfinance

貧しい人々に、無担保で小額の資金を

バングラディシュのグラミン銀行:コミラ県のセンター
バングラディシュのグラミン銀行:
コミラ県のセンター
バングラディシュのグラミン銀行:
マイクロクレジットとは、貧しい人々に対し無担保で小額の融資を行う貧困層向け金融サービスのことです。2006年、マイクロクレジットの普及に努めてきたグラミン銀行と、創始者であるムハマド・ユヌス総裁が、ノーベル平和賞に選ばれました。当初は、貧しい人々はお金を借りて商売しても大して稼げないので結局借金が膨らむだけだ、と、貧困層への融資に懐疑的な声が大半でしたが、「貧しい人々も企業家としての能力を持っており、資金さえあれば商売を始めて利益を得ることができる」との信念の下、様々な革新的なスキームを取り入れ、返済率の高い貧しい人々のための銀行を作り上げることに成功したのです。このグラミン銀行の成功により、世界中至る所で同様のマイクロクレジット機関が設立され、貧困層への融資が積極的に行われるようになりました。近年では、融資(クレジット)のみならず、貯蓄や保険など、広範な金融(ファイナンス)サービスも行われるようになってきたため、マイクロファイナンスと呼ばれるのが一般的です。

グラミン銀行:センター内部の様子
成功の秘訣は5人組???
グラミン銀行の斬新なスキームの一つに挙げられてきたのが、「グループ貸付」と呼ばれる制度です。これは、貧しい人から担保を取る代わりに、5人組のグループを作らせて、誰か一人でも返済できなければ、他の4人は今後一切借りられなくなる、という仕組みです。借り手同士でグループを組ませることにより、

  1. 仲間の誰かが事業がうまくいかなくて返済できない場合、他の人はこの仲間を助けて、自分たちが今後も借りられるように協力するようになるだろう

  2. 誰かが怠けたり危険な投資をしたりすると、自分にも被害が及ぶので、そのようなことがないように互いにチェックしあうようになるだろう

  3. 危険な人とはグループを組みたくないので、安全な投資をする人だけがグループを組んで参加するようになるだろう


という効果が期待され、それが高い返済率の重要な要因に挙げられてきました。そして、実際、多くのマイクロファイナンス機関がグループ貸付制度を導入し、高い返済率を実現してきました。

しかし、最近の研究により、グループ貸付制度の有効性に対して、疑問符がつけられるようになってきました。フィリピンでは、無作為に選んだ既存のグループ貸付センターを、個人貸付に移行させる、という実験が行われました。その結果、個人貸付に移行しても、返済率は変わりませんでした。しかも、個人貸付の方が、新規顧客が多かったのです。その新規顧客の大部分は、既存の顧客の友人や親類でした。グループ貸付だと、自分が返せない場合に肩代わりさせてしまうので、親しい人には勧めにくいのですが、個人貸付だとその心配もないため勧めやすくなり、新規顧客が増加することになったわけです。グループ貸付は返済率を高めることには貢献しておらず、しかも新規顧客の参入を引き下げている、というわけです。

また、タイの返済データを用いた研究では、グループの連帯責任が強い方が債務不履行率は高い、という結果が出ています。上の1~3の効果が期待されるにも関わらず、グループ貸付が返済率を下げてしまうのは、なぜでしょうか?一つには、自分が払わなくても他のメンバーが払ってくれるなら、それを見越してデフォルトする、という「ただ乗り」の問題が起きているのかもしれません。私がベトナムで行ったフィールド・ラボ実験 pdfでも、この予想を支持する結果が得られ、グループ貸付の方が個人貸付よりも「ただ乗り」が頻繁に発生しました。また、自分が一生懸命働いても他の人の借金の返済に使われてしまうのであれば、労働努力も下がってしまうかもしれません。

このように、最近の研究結果は、グループ貸付をあまり支持するものではありません。そして何より、グラミン銀行自身が、2002年にすでにグループ貸付制度を放棄しています。理由としては、Economist誌が、
  • 他のメンバーがデフォルトすると自分が肩代わりしないといけないので、メンバー同士のプレッシャーがきつくなり、軋轢が増えた。

  • ビジネスが成功して積極投資をしたい人は、他のメンバーが完済するのを待たねばならないので制約を受けていると感じ、一方、地道にやっている人は、積極投資している人の失敗のリスクを負わされていると感じて、グループで借り続けることが不都合になってきた。

などを挙げていますが、上述した研究が示唆することも関わっていそうです。

グループ貸付の有効性に疑問符がつけられているのだとすれば、グラミン銀行の成功をもたらした要因とは、いったいなんだったのでしょうか?最近の研究では、(1)返済しないと将来の融資を安価で得られなくなることが返済の強いインセンティブになっているという「動学的インセンティブ」説、(2)週1回~月1回のペースで少しずつ返済を行っていくことにより、問題のありそうな借り手を早期発見して手遅れになる前に適切な支援をしたり、小金がたまって無駄遣いする前に適宜払ってもらう仕組みが有効だという「多頻度小額返済」説、(3)センターでみんなの前で一人一人返済するのが強いインセンティブになっているという「公衆の面前」説、(4)返せなかった借り手の仲間から情報を集めたり家計状況を詳しく調べたりする努力が有効に作用した、という「貸し手の努力」説、など、様々な要因が挙げられるようになっています。

危険なのは、こういった最近の動向を知らずに、マイクロファイナンスを作るためには、とりあえずグループを作らせて、と、何も考えずにグループ貸付を行ってしまうことです。確かに、グループ貸付を採用して成功している機関も多くあります。しかし、グループ貸付が成功した背後には、グループ貸付を支えるような制度や共同体が存在していたのです。先にあげた私の研究でも、グループ貸付は「ただ乗り」を生み出すが、適当な社会制裁や相互報告システム、グループの自発的形成を取り入れることで、返済率が改善されることが示されています。グループ貸付か個人貸付かも含め、どのような貸出メカニズムが有効に機能しうるのか、今後さらなる研究が進められていく必要があります。

たくさんのマイクロファイナンス機関ができるのは、いいこと?
1990年代から、マイクロファイナンスは世界中に広まり、各地にマイクロファイナンス機関が設立されました。マイクロファイナンス機関が増えれば、人々の資金アクセスは改善され、貧困も削減される、と、単純に考えていいでしょうか。実は、一箇所にマイクロファイナンス機関が多くなると、貧困層が不利益を被ってしまう可能性もあるのです。

一箇所にマイクロファイナンス機関が増え、競争が激しくなると、利潤が下がります。貸出でもっとも利益率が高いのは、ビジネスがうまくいっている有能な借り手です。一方、あまりビジネスがうまくいっていない貧困層への貸出は、時に損失をもたらすこともありますが、そこを他への貸出で得た利潤で補っているわけです。もしも競争が激しくなって利潤が下がると、ビジネスがうまくいかない貧困層を支援するだけの余裕がなくなって、結局、貸出先は有能な貧困でない人々に集中する可能性があります。つまり、競争の結果、貧困層への貸出は減ってしまうわけです。

また、マイクロファイナンス機関が増えると、現在の貸し手に返さなくても、また別の機関から借りることが可能になってしまうので、上で述べた「動学的インセンティブ」がきかなくなってしまい、返済率が下がってしまいます。返済率が下がれば利潤も下がるので、貧困層への支援はますます減ることになります。こういった事態を回避するためには、マイクロファイナンス機関の間で借り手の情報が共有され、デフォルトした顧客が他の機関からも借りることができないようなシステムを作る必要があります。このような情報共有システムの構築が、いくつかの途上国で進みつつあります。

 
マイクロファイナンスは、貧困削減をもたらした?
貧困削減を目的として、世界各地で多くのマイクロファイナンスが実施されるようになりましたが、果たして、マイクロファイナンスは貧困削減、貧困層の所得や資産の増大に、どれだけ貢献したのでしょうか?

よく目にするのは、以下のような記述です。

「借りる前の年間所得は100ドルだったが、借りた後の年間所得は150ドルになったので、マイクロファイナンスは50ドル分の効果があった。」

これは正しいでしょうか?

残念ながら、正しくありません。50ドル増えたのは、この地域の経済が発達したからかもしれませんし、経験を積んで稼ぎが多くなったからかもしれません。つまり、マイクロファイナンスがなかったとしても、所得は増えていた可能性があるわけです。

では、このような比較はどうでしょうか?

「借りた人の所得の伸びは50ドルだったが、借りなかった人の所得の伸びは20ドルだった。したがって、マイクロファイナンスは30ドル分の効果があった。」

地域経済の発展や経験の蓄積は、借りた人にも借りなかった人にもあるはずなので、これでマイクロファイナンスの効果が正しく測定できそうです。が、しかし、これも正しくないのです。

借りた人は、お金さえあれば結構儲かるビジネスができる、という見込みのある商才のある人であり、一方、借りていない人は、お金を借りてビジネスしてもうまくいく見込みがもてない商才のない人である可能性が高いでしょう。お金を借りた商才のある人は、仮にお金を借りていなくても、商才のない人よりも所得の伸びが高かったかもしれません。つまり、お金を借りた人とお金を借りていない人とでは、お金を借りていない場合の所得の伸びが全く違う可能性が大きいので、両者を比べてマイクロファイナンスの効果を測ることはできない、というわけです(詳細な議論は、伊藤研究員の記事が参考になります)。

これらの問題を解決してマイクロファイナンスの効果を測定した研究は少ないのですが、タイのデータを使った研究では、マイクロファイナンスが資産の増加に貢献した、という証拠は見出せませんでした。さらに、マイクロファイナンスを受けた人は、高利貸しから借りる確率も高くなっている、という証拠が見つかりました。マイクロファイナンスでは、返済すればその後また借りることができるので、返済期日になったら高利貸しからお金を借りてマイクロファイナンス機関に返済し、すぐに次の融資をマイクロファイナンス機関から受けて、そのお金ですぐに高利貸しに返す、ということが行われていることを示唆する結果です。私が調査したベトナムでも、返済期日の朝、高利貸しからお金を借りて銀行に持って行き、返済してまたすぐにお金を借りて、その日の夕方には高利貸しにお金を返す、ということが実際に行われていました。各地のマイクロファイナンス機関の驚異的に高い返済率の裏には、実は、このような金貸しからの借金が結構あるのかもしれません。

また、最近の研究では、ランダムに選んだ地域のみにマイクロクレジットの支店を開設したり、融資の申請をしてきた人のうち融資基準ぎりぎりの人にランダムに融資を与えるなど、ランダム化比較試験によってマイクロクレジットの効果を測定しようという試みが行われています。これまでの結果では、マイクロクレジットを借りたことで消費水準が上昇したとの証拠は見られず、また、収入も上昇した証拠が見出せないか、上昇したとしてもその金額はそれほど大きくはないということが分かっています。

なぜ、マイクロファイナンスの効果が期待されていたほど高くないのでしょうか?マイクロファイナンスは、能力はあるが資金へのアクセスがなかった人たちにとっては、所得を大きく上げる可能性がありそうです。しかし、金を借りても稼ぐ技術のない人たちにただお金を貸しても、それですぐ成功できるという保障はありません。借りたお金をうまく使えるよう、稼ぐ技術を教えてあげる必要があるでしょう。

一時的な援助でなく、自立を促すための援助を、ということで、「魚を与えるより釣竿を」ということがよく言われたりします。マイクロファイナンスとは、ちょうど、釣竿を持っていない人に竿を与えるのと同じことです。しかし、釣竿を与えたとしても、そもそも竿をうまく使えない人には、うまい釣竿の使い方を教えてあげなければ魚は釣れないのです。
(高野 久紀)