物流 Physical Distribution, Logistics

国境を越えたモノの流れを見る

近年世界における貿易が増加しています。この背景には製造業を中心とする多国籍企業が海外直接投資をし、国際分業が進展したことが挙げられます。かつての国際分業は垂直的分業が中心でしたが、近年では同一産業内での水平的分業が進んでいます。また、複数の生産工程間の分業など複雑になってきました。多国籍企業の活動がグローバルに展開されることにともなって、企業はいかに製品(モノ)を運ぶかということに注目し始めました。

このモノの輸送、これが物流です。物流という言葉は物的流通の略語で、日本で1965年ごろに生まれた言葉です。この用語は、今では中国、香港、韓国、台湾など漢字を使用する国・地域でも日本とほぼ同じ言葉の意味で使用されています。物流の定義についてはまだ確固たる定義は確立されていませんが、一般的には「物流とは、有形財の供給者から需要者にいたる空間的・時間的へだたりを克服する物理的経済活動である。具体的には、輸送・保管・包装・荷役・流通加工および情報という諸活動の有機的構成から成り立っている」と定義されています(日通総合研究所編[1991]『最新物流ハンドブック』白桃書房、3ページ)。この定義から明らかなように、物流と言う用語には非常に多くの活動が含まれていることが理解できると思います。

1990年以前までは、製造業の多くは自社で倉庫を所有し、そこで原材料や部材、完成品までを保管していました。また、自社でできることはすべて自社でおこなう傾向がありました。経済がグローバル化するにつれて、製造業企業は物流活動の多くを物流専門企業に外注(アウトソーシング)する動きが目立ちだしました。この物流専門企業は荷主である製造業企業に替わって物流システムを構築、管理、運営するとともに、効率的な物流サービスを提供するようになりました。そのサービスの代表例が、サプライ・チェーン・マネジメントやジャスト・イン・タイムです。

また、効率的な物流をおこなうためには、港湾、空港、道路などのインフラ整備も必要です。今では多くの企業は物流の重要性を認識していますので、外国に工場などを建てる際には物流に関係するインフラの整備状況がどうであるかも投資する場合の判断基準のひとつにしています。そのため、アジアの国・地域では港湾や空港のインフラ整備を積極的におこなっています。さらに、通関作業や情報化(書類の電子化、ペーパレス化)といったソフトの整備も競っておこなって、効率的な物流制度を各国は作り出し、企業誘致を進めています。

このように、今では企業や国を中心に、物流の重要性について認識されつつあります。しかしながら、どのような輸送手段で効率的にモノを運ぶかについてはこれまで注目されていませんでした。また、物流はモノが移動する際には必ず出てくるサービスですが、分からない部分が多くありました。このため、これまであまり研究がされてこなかったといえるかもしれません。

( 池上 寛 )