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企業・産業 Business and Industry

グローバル化と企業成長

サムスン(韓)の本社ビル
グローバル化のなかで急成長してきたサムスン(韓)の本社
ビル。今後の展開は?(2013年、安倍誠氏撮影)
2014年9月


グローバル化は発展途上国企業の成長にとってどのような影響があるのでしょうか? 貿易・投資の活発化によって、いかなる国・地域の企業もグローバル化の影響から逃れることは難しくなっています。とくに、これから技術を蓄積していこうとする発展途上国企業は、すでに技術を蓄積した先進国企業から大きな影響を受けます。発展途上国企業が先進国企業の技術をスムーズに導入することができるのであれば、グローバル化は発展途上国企業の成長にとって正の効果、つまり、技術のスピルオーバー効果(spillover effect)をもたらします。一方で、生産性の高い先進国企業が、成長過程にある発展途上国市場を席巻してしまうかもしれないというリスクもあります。この場合は負の効果、つまり、市場収奪効果(market-stealing effect)が発生します(Aitken and Harrison, 1999)。
正・負いずれの効果が支配的になるのかは、先進国企業から発展途上国企業に技術が伝播するのかしないのかによって決まります(Grossman and Helpman, 1993; Young, 1991)。技術伝播は、発展途上国企業が特定の技術を導入することによって実現するものもありますが、先進国企業と取引したり、先進国企業の従業員を雇用したり、先進国企業の製品に触れることでも伝播する可能性があります。そのため、多くの発展途上国は国内市場を一定程度保護しつつも、貿易を促進したり、海外の企業を誘致することにも熱心です。しかし、発展途上国企業と先進国企業のあいだの技術格差が非常に大きい場合には、発展途上国企業にとって、先進国企業の先進技術をマスターすることが難しいため、貿易・投資を促進しても技術が伝播しない可能性もあります。したがって、発展途上国企業側にも技術を吸収する能力が備わっている必要があります(Keller, 1996)。技術吸収能力を正確に計測することは難しいのですが、発展途上国企業側でもある程度の研究開発(R&D)を行っていると、技術伝播の可能性が高いことが知られています(戸堂、2008)。このように、発展途上国企業の技術が先進国企業のそれと同質化できるか否か、あるいは、同質化するための条件が備わっているのか否か、ということがグローバル化の影響を考える際に重視されてきました。

それでは、グローバル化のなかで急成長してきた発展途上国企業は、スピルオーバー効果を享受することで順調に成長してきた、と結論づけても良いのでしょうか? たとえば、多くの中国企業が1978年の改革・開放以降、急成長を遂げてきました。その過程で、多くの技術が中国企業に伝播しました(郝、1999など)。しかし、必ずしも成長=同質化というわけでもありません。先進国企業とおなじ産業に属していたとしても、企業の組織形態や戦略が先進国企業のそれと異質化していることもよく指摘されています。たとえば、中国地場のエレクトロニクス・メーカーは技術的に難易度の高いコア部品を積極的に外部から調達するなど、企業間分業の発展に強く依存した事業運営を行う傾向があります(大原、1998;丸川、2007)。また、中国市場は低価格帯製品のニーズが非常に強かったため、多くのメーカーは失敗の可能性もあるR&Dを自社で行わない傾向があることも知られています(渡邉、2013)。グローバル化によって技術伝播のチャンスが増えたとしても、伝播しにくい性質の技術もありますし、先進国企業が技術を秘匿するケースもありますので、あらゆる技術が短期間に完全に伝播するということはあり得ません。また、技術のすべてを自社でまかなうというのも、それに要するコストから判断すれば合理的ではないケースも多々あります。そのため、中国企業はグローバル化の下で急成長を遂げて来ましたが、同時に、組織や戦略面で異質化するという結果にもなりました。

このように、完全な技術伝播を期待できない状況下では、外部企業のリソースを活用することで不足分の技術をどうカバーするか、自社で技術を蓄積することのコストをどう考えるか、ということについて、発展途上国ごとの特徴が存在するはずです。いま、新興国の台頭が世界経済の地殻変動を引き起こすようになり、その帰趨に大きな注目が集まっています。成長著しい発展途上国企業の「これから」を展望するためには、「これまで」の理解が不可欠です。経済の担い手である企業の成長パターンをよく理解するためにも、各国でどのような「工夫」や「判断」が存在するのか、多くのケースを蓄積していく必要がありそうです。


参考文献
Aitken, Brian, and Ann Harrison (1999) "Do Domestic Firms Benefit from Direct Foreign Investment? Evidence from Venezuela," American Economic Review 89(3): pp. 605–618.
Grossman, Gene, and Elhanan Helpman (1993) Innovation and Growth in the Global Economy, Cambridge and London: The MIT Press.
Keller, Wolfgang (1996) "Absorptive Capacity: On the Creation and Acquisition of Technology in Development," Journal of Development Economics 49(1): pp.199–277.
Young, Alwyn (1991) "Learning by Doing and the Dynamic Effects of International Trade," Quarterly Journal of Economics 106(2): pp. 369–405.
大原盛樹(1998)「中国家電産業の優位性:エアコン産業の産業組織と海爾(ハイアール)グループの事例から」、『アジ研ワールド・トレンド』、4(7):pp. 38–44。
郝燕書(1999)『中国の経済発展と日本的生産システム』ミネルヴァ書房。
戸堂康之(2008)『技術伝播と経済成長:グローバル化時代の途上国経済分析』勁草書房。
丸川知雄(2007)『現代中国の産業:勃興する中国企業の強さと脆さ』中央公論新社。
渡邉真理子(2013)『中国の産業はどのように発展してきたか』勁草書房。