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中東・中央アジア

クルド

クルド問題についての緊急レポート

2017年10月

中東地域におけるクルド人の存在感はここ最近、急速に高まっている。もちろん、クルド人はイラクやトルコにおいてこれまでも重要なアクターであった。しかし、2014年の「イスラーム国」台頭以降、シリアとイラクにおいてクルド人は対「イスラーム国」の最も効果的な対抗勢力として国際社会から認知、支援を受けたことで、アメリカ、さらにロシアといった超大国から重宝されるようになった。現在もシリアのクルド人勢力は、ラッカとデリゾールの対「イスラーム国」戦で主力として戦っている。

イラク、イラン、シリア、トルコに跨って暮らすクルド人は国を持たない民族として知られている。そのため、クルド国家の建設が悲願とされてきた。4カ国のクルド人居住地域からなる国家が理想とされるが、イデオロギー、宗派、言語が異なり、さらに非常に細かく分類できてしまうクルド人をまとめるのはほぼ不可能である。そうなると、各国のクルド人が個別に国を作るというアプローチの方が現実的である。国際社会での存在感が増すと日に日に悲願である国家の設立に向けた動きも顕在化するようになった。その代表的な動きが、今年9月25日のクルド地域政府(KRG)による住民投票である。アメリカや周辺国のイランやトルコが反対したにもかかわらず、KRGが国民投票を強行したのは、「イスラーム国」という脅威があることで自分たちの正統性が高くなったのは良いが、それが「時限的」であることを認識しており、独立の是非を問うのは今しかないという焦りである。もちろん、今回の住民投票が即独立を意味するわけではないが、投票結果は国際世論やイラク中央政府に対して効果を発揮する。一方で、周辺の関係各国、イランやトルコはこうしたクルドの動きをけん制する。自国に住むクルド人が同様の動きを見せることを嫌うためである。このように、クルド問題は悪化している中東の秩序をさらに不安定にさせる可能性も秘めている。

アジア経済研究所は2015年からクルド問題に関する研究会(政策提言研究「中東地域の政治的安定に果たすクルド問題の位置づけ」)を立ち上げ、その動向を注視してきた。本レポートは、クルド問題と密接に関わる地域を研究対象としているアジア経済研究所の中東地域の専門家による時事レポートである。今井レポートはトルコ政府とKRGとの関係について論じている。間レポートはトルコの非合法武装組織、クルディスタン労働者党(PKK)が北イラクの住民投票をどのように見たのかを扱っている。鈴木レポートはイランのクルド人の歴史を概観したうえで、イラン政府が住民投票をどのように見たのかを論じている。ダルウィッシュ論文(英語)は、「イスラーム国」の出現後、その存在価値を高めている民主統一党(PYD)についてまとめている。

事態は非常に流動的である。各執筆者が本レポートを脱稿した後も、イラク軍が実質的にKRGの支配下にあったキルクークに侵攻し、制圧するなどの動きが出ている。本レポートは最新の状況を追っているわけではない。ただし、各国および各アクターの基本的な視座を理解することを目的に書かれているので、今後の流動的な状況を把握するうえでも一助になるのではないかと考えている。

(今井 宏平)