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山間地域におけるジャガイモ流通の変化

ペルー情勢レポート

在リマ海外研究員 清水 達也
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2012年12月27日
ペルーの中部山間地域に位置するワヌコ州において、2012年6月にジャガイモ生産の変化についての調査を行った(ペルー情勢レポート2012年6月)。これに続いて2012年12月2-7日には、この地域におけるジャガイモ流通の現状と、リマを中心としたスーパーマーケットの拡大によるジャガイモ流通への影響について把握するために、追加調査を実施した。以下にこの調査で明らかになった点について報告する。
ジャガイモ卸売市場の増加
6月のレポートで報告したとおり、ワヌコ州では1990年代以降、東南部の3郡(Huánuco, Pachitea, Ambo)を中心に商業生産が拡大し、州内のジャガイモ生産は年間20万トンから40万トンへ倍増した。これに伴いジャガイモの流通量が増加し、ワヌコ市場でジャガイモを扱う卸売市場が1カ所から3カ所に増えた。

1990年代末まで、ワヌコ市内ではCalicantoと呼ばれる市場がジャガイモ流通の中心であった。しかしこれが手狭になったことから、市内西部に場所を借りて個別に販売を始めるジャガイモ商人が現れた。それらの業者のうち何人かは、ワヌコ市が1990年代末に市内北部に開設したPuelles卸売市場へ移った。ここではほかの野菜の販売も行われているが、敷地の約3分の2がジャガイモの卸売にあてられている。現在ここでは約160人がジャガイモの販売を行っている。

このほかにも、25人程度の商人が集まり、市内南部の私有地を借りて2003年にSan Pabloジャガイモ卸売市場を開設した。さらに2005年には、65人のジャガイモ商人がワヌコ市北部の幹線道路沿いに土地を取得し、Andino Amazonico卸売市場を開設した。この結果、市内に3つのジャガイモの卸売市場が並存することになった。Puellesは公営、San PalboとAndino Amazonicoは民営の市場である。なお、これらの市場では入荷量や価格の情報は記録していない。

卸売市場を通さずに出荷するジャガイモの量も増えている。1990年代末にはPachitea郡を中心に、数ヘクタールから数十ヘクタール程度の中規模の商業生産が増加した。リマの卸売市場の商人やその代理人が収穫期にこれらの畑を訪れて、圃場にて直接生産者から買い付けてトラックで運び出すケースも増えている。
ワヌコ市内のジャガイモ卸売市場のうち、最も取引量の多いPuelles市場。
リマやセルバ(アマゾン熱帯低地)へ輸送するための小型(10トン積み)~大型(30トン積み)が待機している。(写真はいずれも筆者撮影)


ワヌコ市内のジャガイモ卸売市場のうち、Andino Amazonico市場(上)は主にセルバ向けの、San Pablo市場は主に地元向けに販売をしている。いずれの市場でも卸売業者の売り場はトタン葺きの屋根のみの簡素な作り。



ワヌコの商人と消費地の顧客との関係
3つの市場のジャガイモ商人10人に行ったインタビュー調査の結果によると、ワヌコのジャガイモ商人と消費地の顧客との関係は、ジャガイモの種類、販売の形態、仕向地などにもとづいて大きく以下のように分類できる。

(1) リマの卸売業者向け販売
従来からある最も主要な販売形態で、ワヌコの市場に買い付けに来るリマの卸売商人や流通業者に対して現金で販売する。基本的には価格に基づいてその都度交渉する取引である。白、黄の両方のジャガイモを販売するが、コスタ(海岸地域)でも生産されている白ジャガイモ(主にCanchan種、Yungay種)については、リマに近いコスタの産地での収穫が12月に終わり、シエラ(山間地域)の主産地であるフニン州での収穫が始まる3月までの1-2月が中心になる。黄ジャガイモは年間を通じて販売している。
(2) セルバ(アマゾン熱帯低地)向け販売
従来からあるが最近より重要になっている販売形態で、セルバへ続く幹線道路沿いに位置するティンゴ・マリア市(ワヌコ州)、プカルパ市(ウカヤリ州都)、そしてそこから船で輸送するイキトス市(ロレト州都)向けの販売である。これらの消費地から仕入れに来る商人に対して販売する。白ジャガイモ、なかでも日持ちのよいCanchan種のジャガイモが主で、年間を通じて需要があること、そしてリマ向けより高値で売れることから、ワヌコのジャガイモ商人の多くは、セルバ向けについては現金販売だけでなく、信用販売も行っている。
(3) リマのスーパー向け販売
2000年代以降に少しずつ増えているのが、リマのスーパーマーケット・チェーンのジャガイモ加工場や、スーパーに納入するサプライヤーの加工場にジャガイモを販売する形態である。ワヌコのジャガイモ商人が、リマの業者から週ごとや日ごとの注文を受け、リマの加工場までジャガイモを輸送して販売している。黄ジャガイモは通年で供給するが、白ジャガイモはほかの産地からの供給が少ない時のみの供給になる。取引は契約または合意にもとづき、数年以上継続して供給しているケースもある。これらの場合には週ごとの納入量に基づいて請求書を発行して顧客に送り、それに基づいて翌週や2週間以内、1カ月以内などの条件で送金をうける。

いずれの場合のも、ワヌコの商人は生産者から買い付けたジャガイモをいったん袋からだし、1等級(大、中サイズ)、2等級(小サイズ)、それ以外(変形、傷みなど)に分け、再び100kg程度の袋に入れ直す。スーパーマーケットやその供給業者に販売する場合には、1等級のみに限定し、通常よりも厳密に選果を行う。

生産者と商人の関係
一方、生産者とワヌコの商人は、商人がジャガイモを調達する方法によって以下のように分けることができる。
  1. 商人が自分の畑または畑を借りてジャガイモを生産する。
  2. 生産者に投入財を提供(融資)して代わりに収穫物を買い上げる。
  3. ワヌコの卸売市場に売りに来る生産者などから買い付ける。
  4. 商人やその代理人自らが畑に出向いて生産者から買い付ける。


今回インタビューした商人の多くが、生産者出身で、現在でもジャガイモを生産していると答えている。ただし販売量のうちaで調達する量はわずかで、主にbの方法で調達すると答えた商人が多かった。cとdについては季節によって異なる。ジャガイモの収穫が集中する季節はcが多く、生産者がジャガイモをトラックに積んでワヌコ市の卸売市場まで持ち込み、商人に価格を尋ねて納得したら販売する。端境期でジャガイモの供給が少なくなる季節には、商人らが畑までジャガイモを探しに行くdが多くなる。c、dのいずれの場合も現金取引である。

サプライチェーンの構築
bについては、ペルーに限らず途上国の農村部でよく見られる関係である。零細小規模生産者は生産に必要な資金を十分に持たず、かつ金融機関からの融資にもアクセスできないケースが多い。その場合には商人や農業資材販売店から種、肥料、農薬などの投入財の供給を受け、代わりに収穫物を引き渡し、販売代金から投入財の費用を差し引いた分を受け取る。この場合、生産者は収穫物を自由に販売できず、商人や資材販売店から示された価格で販売することを強いられるため、農民が商人などに従属する関係とみられることが多い。

ワヌコのジャガイモ商人が生産者に対して投入財を貸し付ける関係もこれに準ずると考えられるが、ワヌコのジャガイモ商人と消費地の顧客との関係の変化により、従属だけではない以下のような新たな役割を果たしていると考えられる。

商人は多くのジャガイモをbの方法により調達することにより、入荷日、入荷量、産地、おおよその品質を把握することができる。そのため、(3)の取引において、顧客から注文があった場合にその注文を受けることが可能かを即座に判断することができる。つまり、ワヌコのジャガイモ商人は、生産者と固定的な関係を築いて(サプライチェーンを構築して)ジャガイモを調達することで、スーパーやその供給業者に向けて比較的品質のよい商品をより安定して供給できるようになっていると理解できる。

零細小規模生産者の所得向上に向けた取り組みとして、高い流通マージンを取る中間業者を省いて、生産者団体などが消費地の卸売市場や生産者に直接販売する試みが行われている。しかしこのワヌコの商人の事例を見る限り、商人は数が多くて規模が小さく収穫期が異なる生産者からのジャガイモを、品質、価格とも安定した商品として消費地に送り出す役割を果たしていると考えられる。このように既に形成が進んでいるスーパーや加工業者向けのサプライチェーンを活用して、その効率性を高めたり、生産者の立場が向上するような取り組みが、生産者の所得向上のみならず、農業部門の食料供給能力の改善に資すると考えられる。