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待遇改善を求める公務員のストライキ

ペルー情勢レポート

在リマ海外研究員 清水 達也
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2012年10月30日
2012年9月、国立の小中学校の教員組合と国立病院の医師組合が無期限ストライキを開始した。両者のストはともに1カ月に及び、10月に入ってやっと終了した。その間、国立の小中学校や病院が閉鎖され、多くの子どもが勉学の機会を失い、多くの患者が診察や手術を受けられなくなるなど、主として低所得者層が大きな不利益を被った。

いずれも要求の柱は待遇の改善である。ペルーの国家公務員の給与は、1990年代の経済改革以降、低い水準に抑えられてきた。教員や警察官はもちろんのこと、医師のような専門性の高い職種においても給与が低く、これらの改善が課題となっていた。本レポートではストライキの経過と公務員の待遇の現状について報告する1
教員組合のストライキ
全国の国立学校の教員30万人が加入する教員組合SUTEP(Sindicato Único de Trabajadores de Educación del Perú)は、国内で最も活発で影響力を持つ労働組合のひとつである。この全国組織が9月5日に無期限ストライキを開始した。

ペルーの教育制度は小学校(colegio primario、6年間)、中学校(colegio secundario、5年間)が義務教育で、これを修了した後に大学へ進む。学校には国立学校(colegio nacional、またはcolegio público)と私立学校(colegio privado)があるが、国立学校の多くは予算制約などにより教育の水準が低いことで知られている。そのため、経済的に余裕のある保護者は子どもを私立学校に通わせるのが一般的になっている。教員組合によるストライキがたびたび行われることも、国立学校における教育水準低下の一因となっている。

教員組合の主な要求は2点ある。1点目は給与の改善。現在の教員の給与水準は、最も低い等級で月額1200ソル程度(1ソル=約30円)である。インフレにより実質的な購買力が低下しているとして、これを維持するために15%の引き上げを求めている。このほか、授業の準備に時間を費やすとして、月給の30%に相当する額をボーナスとして支給することも要求している。

2点目が、現在政府が進めている国立学校の教員キャリア制度改革への反対である。国立学校の教員は、1984年に制定された教員法(Ley de Profesorado、LEY Nº 24029)によって待遇が決められている。しかしこの法律では教員の評価が行われず、能力や業績を高めるインセンティブが働かないとして、政府は2007年に公的部門教員キャリア法(Ley de Carrera Pública Magisterial、LEY Nº 29062)を制定した。この法律は教員のキャリア制度に能力主義を採用し、試験などによって教員を定期的に評価し、その結果に基づいて優れた教員には昇給昇進を認めたり、一定の水準を満たさない教員には研修の受講を義務づけたりしている。

しかしながら、教員法から公的部門教員キャリア法への移行が全面的に行われたわけではない。現在は2つの法律に基づく教員のキャリア制度が並存しており、人によって待遇が異なっている。

そこで現政権は、この2つの法律を統合する教員改革法(Ley de Reforma Magisterial)の制定に向けて準備を進めている。この改革においても、教育の質を改善するために能力主義を採用する。新制度では月額給与を1243ソルから5183ソルまでの8等級に設定し、能力に基づいて昇進するとしている。また、同じ等級でも現在の給与水準と比べると月額で300~400ソルの引き上げになると説明している。

これに対して教員組合は、改革案は教員の待遇改善にはつながらないばかりでなく、以前の教員法で認められている労働者の権利が失われるとして、政府が進める改革に反対している。

教育省と教員組合の交渉が膠着し児童生徒が学校に行けない期間が長引くなか、10月に入って今度は児童生徒の保護者の団体が、子どもの教育を受ける権利を主張してリマの街中でデモ行進を行った。ストライキが長引くことで子ども達が進級できなくなることを危惧した保護者がしびれを切らし、教育省や教員組合に対して一日も早く授業を再開するように求めたのである。このデモ行進で保護者は、ストライキに参加して学校へ来ない教員の給与支給を停止し、新たに教員を採用せよという要求を教育省に対してつきつけた。

ストライキに対する保護者からの反発に対して教員組合の中央委員会は、教育省が提示した300ソルのボーナスの支給と、政府と教員組合が共同で教育改革について議論する委員会を設置するという条件を受け入れて、10月5日にストライキの一時停止を決めた。教育省によれば、ストライキによって失われた1カ月間の授業は、通常クリスマス以前に終了する学期を12月末や1月中旬まで延長して実施する。また、予定された授業をすべて行うことを条件に、ストライキ参加教員に対する給与の支給停止は実施しないと発表した。

教員組合中央委員会の決定を受けて、リマをはじめ多くの州で授業が再開された。しかし、ピウラ、ランバヤケ、フニン、ワンカベリカ、アレキパの諸州では、州レベルの教員組合などが中央委員会の決定を受け入れず、ストライキを継続している。

国立病院医師組合のストライキ
教員組合に続く形で9月18日、国立病院で働く1万4000人の医師が待遇改善を求めて無期限ストを開始した。

ペルーには、保健省(Ministerio de Salud: MINSA)が経営する国立病院、社会保険であるEsSaludが運営する病院、そして民間の病院(主にClinicaと呼ばれる)がある。公務員や民間企業の正職員など社会保険に加入している場合はEsSaludの病院、民間保険に加入している場合は民間病院を利用するのが一般的である。それに対して低所得者層を中心とする、社会保険や民間保険に加入していない非正規雇用の労働者や自営業者の多くは国立病院を利用する。

医師組合の要求は2つある。ひとつは給与の引き上げで、月給を最低でも1500ソル引き上げることを求めている。医師組合の委員長によると、国立病院に勤務する医師の給与水準は他の専門職と比べて低く、例えば一番低い水準だと地方都市では1000ソルを切り、リマでも2800ソル程度である2。20年の経験を持つ医師でも3500ソルで、そこから税金や社会保険が引かれる。医師組合は、待遇が改善されつつあるほかの公的部門同様に、保健部門の待遇改善も進めることを求めている。

もうひとつの要求は正規雇用の増加である。現在国立病院で働く医師の多くが、行政サービス契約(Contrato Administrativo de Servicio: CAS)と呼ばれる、正規職員ではない形の雇用契約を結んでいる。組合はこれらの医師の正規雇用契約への移行を求めている。人件費の膨張を抑えるために政府は近年、業務に必要な人員を正規雇用(nombramiento)ではなく、CASによって確保することが増えている。国立病院の医師については、2004年にはストライキ終結の条件として保健省が新たに5000人の医師を雇用して以降、新規の正規雇用がストップしている。現在約3000人の医師がCASで勤務している。CASによる雇用では、昇進がないのはもちろん、研修の機会もないし、社会保険にも加入できない。

政府は一時的なボーナスの支給を提案したものの、医師組合はこれを受け入れず、ストライキは1カ月に及んだ。医師組合によれば、保健省には投資のための予算が余っており、年度末にはこれを国庫に返納する予定だという。その分を人件費に回せば医師組合の要求を満たすことができるが、経済財政省がこれを認めないと主張している。

ストライキの期間中、多くの国立病院で救急を除く外来診察や手術が実施されなくなった。国立病院は従来から人員不足のため、診察を受けるまでに時間がかかることで悪評が高く、手術を受けるまでに数カ月待つことも少なくない。今回のスト期間中には150万件の外来診察と5万件の手術がキャンセルされ、多くの患者が不利益を被った。政府は患者の一部をリマ市政府が管理する病院へ送るなどの措置をとった。

10月22日、医師組合と保健省の間で合意が成立し、ストライキが終了した。政府は2013年6月に月給を1500ソル以上引き上げることを約束し、それまでの措置として、2012年12月と2013年5月に3500ソルのボーナスを支給する。また、CASの契約で働いている医師については、半分を2012年中に、残りを2013年中に正規職員として雇用するとしている。また、ストライキに参加した医師の給与については、ストライキによって実施できなかった分の診察や手術を正規の労働時間外に行うことで、支給停止を行わないと発表した。

ペルーは近年好調な経済成長を続けており、金融機関によればラテンアメリカで最もカントリー・リスクが小さいという評価を受けている(El Comercio紙、2012年10月23日)。その理由のひとつが財政規律を重視したマクロ経済運営である。しかしその影には今回のストライキで労働条件の向上を訴えた教師や医師のように、長らく待遇が改善されなかった多くの公務員が存在している。これらの公務員の待遇を改善し、教育や保険分野における公的サービスの品質を向上することが急務となっている。

脚 注
  1. 本レポートは主にEl Comercio紙の情報に基づいている。教員のストライキについては2012年9月6日と10月6日、医師のストライキについては2012年10月19、21、22日の紙面を主に参照した。
  2. ただし、国立病院に勤務する医師の勤務時間は6時間で、多くの医師が勤務時間外に個人の診療所などで診察することで別に収入を得ている。