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鉱山開発を巡る新たな対立

ペルー情勢レポート

在リマ海外研究員 清水 達也
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2012年5月31日
2011年末のカハマルカ州、2012年3月のマドレ・デ・ディオス州に続いて、2012年5月下旬にはクスコ州で鉱山開発を巡る大規模な社会紛争が始まった。今回の紛争は、企業の社会的責任の遂行に務めている企業でも、これを避けることは難しいことを示した。

企業の社会的責任のモデルケース
5月21日、クスコ州エスピナー郡の住民が、同郡で操業しているティンタヤ鉱山に対して、廃石集積場の撤廃や、環境や社会への被害に対する損害賠償を要求する無期限ストライキを開始した。

ティンタヤ鉱山は1990年代に民営化された後、1996年にBHPビリトン社が買収した。同社は2003年に地元のエスピナー郡と協定を結び、税引き前利益の3%にあたる金額を寄付して地元の持続的開発につながるプロジェクトを実施することで合意した。また、地元コミュニティのほか、環境保全や開発に取り組むNGOを交えた対話の機会を設けることでも合意している。これらの協定や合意は、2006年にスイスのエクストラータ社がティンタヤ鉱山を買収した際にも引き継がれた。この合意に基づきエクストラータ社は、2004年から2011年の間に6600万ドルを寄付し、756のプロジェクトを実施したとている(エクストラータ社ウェブサイトhttp://www.xstratacopperperu.pe/))。この合意についてオックスファムなどのNGOは、責任ある鉱山企業としてのモデルケースだと評価している(エル・コメルシオ紙5月30日)。

地元社会の開発進まず
ティンタヤ鉱山が開発への貢献を主張する一方、地元社会の開発は必ずしも進んでいない。ティンタヤ鉱山近くにあるティンタヤ・マルキリ村の住民の話では、以前は数10頭の牛や数百頭の羊を所有して牧畜を営んでいたが、鉱山開発により条件のよい土地が接収されたために、現在では数頭に減ってしまったという(エル・コメルシオ紙5月27日)。

この村には800人がすんでいるが、上水道は一日2時間しか供給されず、かつ浄化されていない。カトリック教会関連の組織が実施した調査によると、飲料水の水源となる川の水からは高水準の金属が検出された。また、保健省の調査によると、エスピナー郡の住民の一部の血液から高い値の重金属が検出されたという。これに対して鉱山側は、高水準の金属は土中の鉱物による自然のものであり、保健省の調査はティンタヤ鉱山からの影響を受ける範囲とは別の場所での調査結果だと説明している(エル・コメルシオ紙5月27日)。

抗議活動を率いるリーダーの一人であるエスピナー郡長のオスカル・モヨワンカ氏はインタビューの中で、「ティンタヤ鉱山はエスピナー郡との合意の20%しか実施していない。さらにエクストラータ社は現在、エスピナー郡内でティンタヤ鉱山の数倍の規模の鉱山開発をすすめている。現在の協定を見直して新たな協定を結びなおさなければ、操業は許可しない」と述べている(NGO Asociación Servicio Educativos Ruralesのウェブサイトのインタビュー記事による。
http://noticiasser.pe/25/04/2012/entrevista/%E2%80%9Ccasi-todo-sigue-igual-que-en-el-anterior-gobierno%E2%80%9D)。
モヨワンカ郡長は、エクストラータ社が自発的に拠出している利益の割合を、現在の3%から30%に引き上げるよう求めている(エル・コメルシオ紙5月24日)。

対立の激化
抗議活動を行う住民は、ティンタヤ鉱山への敷地に無許可で進入したり、付近の幹線道路を封鎖するなどの実力行使を行った。これに対して警察が機動隊を派遣して催涙ガスなどによって排除を試みた。両者の衝突により、5月28日には市民2人が死亡したほか、警官が30人、市民10人が負傷した。このほか、郡検事の乗っているトラックが放火され、郡検事が一時的に住民に拘束された。これを受けて政府はエスピナー郡に非常事態宣言を発令した。警察は、29日に抗議活動のリーダー数人を扇動や検事の誘拐の容疑で拘束したほか、30日にはエスピナー郡長のモヨワンカ氏も拘束した。

オスカル・バルデス首相は、「対話の用意はあるが、破壊行為は許さず、法律に基づいて厳正に対処して秩序の回復に務める」と発言した。ウマラ大統領もバルデス首相を支持し、環境、エネルギー・鉱山、住宅の3大臣をエスピナー郡に派遣すると発表した。しかし与党の国会議員3人が、首相は強硬姿勢を崩さず反対派との対話を進めないとして辞職を求めるなど、党内も混乱している。

5月31日には、カハマルカ州でコンガ・プロジェクトに反対する無期限ストライキの再開が予定されている。鉱山開発を巡る社会紛争に対しては、政府は引き続き最優先の対応を迫られている。